第三百八十三話:三つ目のスターコア
第十三章開始です。
俺達はその後、マリクスの町に一度顔を出した後、ヘスティア王国へと帰還することになった。
スターコアのことは話せなかったが、ダンジョンのことについては報告を上げた。
ダンジョンと言うのは、この世界でもそう珍しいものではないらしい。ただそれは、無限に資源を取れる有用な場所としてではなく、無限に魔物があふれ出てくる魔の巣窟と言う意味でだ。
確かに、ダンジョンで手に入る資源はとても有用だ。多少の危険を冒してでも、分け入っていく価値はある。
ただ、それにはこの世界の人々のレベルは低すぎた。
国によって違うとはいえ、国の騎士が大体平均して30レベル程度。剣聖のような特別強い人でも80レベルくらいだ。
『スターダストファンタジー』のレベルに当てはめるなら、相当に高レベルではあるが、この世界の人々のレベルは飾りに等しい。
レベルアップを担当する神様が不在のため、付け焼刃のレベルアップしか行えず、本来成長するはずの能力値がほとんど成長しないままレベルが上がっていく。
だから、レベル30とは言っても、『スターダストファンタジー』の冒険者に当てはめればせいぜいレベル5とか6と言ったところだろう。
レベル6は中堅冒険者。ちょっとずつできることが増えてきて、戦いが楽しくなってくる頃だ。
しかし、それはスキルを正常に取得できたらの話。
この世界の人々は、スキルすらも変わってしまっている。このスキルを発動したらこういう効果が発動するというものではなく、【剣術】や【槍術】などの技量を表すものとしてスキルは存在している。そして、そのスキルの熟練度の指標として、スキルレベルが追加されている。
スキルレベルが高ければ、俺達が持つスキルと同じようなことももしかしたらできるかもしれない。しかし、その域に達するには相当な訓練が必要であり、現状それに到達できている人はあまりいない。
要は、レベルも低い、スキルもろくに使えない、そんな状態なのだ。
ただでさえ、町などに襲い来る魔物を討伐するのも大変なのに、わざわざ魔物の巣窟に入っていく勇気がある者などそうはいない。せいぜい、一獲千金を夢見る冒険者くらいなものだろう。
そして、その冒険者さえも、現在は本来の意味ではなく、どちらかと言うと何でも屋のような仕事となってしまっている。
誰かが依頼して、報酬をきちんと払ってくれるというなら調査に乗り出すかもしれないが、自主的にというのはとてもじゃないけど無理だろう。
いくらマリクスが元冒険者の町とは言っても、それだけでダンジョンに挑む理由にはならないわけだ。
「なんというか、ちょっと意外だったの」
ダンジョンなんて、無限に資源が取れる便利な場所程度にしか思っていなかった。あるいは、ワクワクする冒険ができる場所と言ったところか。
ダンジョンの話をした時、シュテファンさんは困ったように笑っていた。
ダンジョンは、確かに理論上は無限に資源が取れる宝の山だろう。しかし、その宝の山を持ち帰れる人はごく少数だということを知っている。
確かに、マリクスの町の兵士なら十分対処できるだろう。しかし、それは俺からもたらされた情報だけであり、一般常識としてのダンジョンの性質を考えるなら、帰ってこられるとしても多少なりとも犠牲が出ることは明らかだ。
いくら俺のことを信用しているとはいっても、そこは流石に慎重になっているらしい。
偶然話を聞いていたモルドさんも凄い剣幕で反対していたし、ダンジョンは思ったよりも危険な場所なのかもしれない。
せっかく見つけたというのに残念でならない。
「私が同行して、と言うなら兵士達も安心してくれそうだけど、それだと結局私前提の話になっちゃうしなぁ」
ポータルを提供するのは、まあ、仕方ない。そうしなければそもそも辿り着けないのだから、そのために私が力を貸すのはやむなしだろう。
だけど、ダンジョン内まで俺が力を貸してしまったら、それこそ俺におんぶにだっこになってしまう。
仮にそれで大量の素材を持ち帰れたとしても、素直に受け取りづらいだろうし、俺がいなくなった途端に何もできなくなってしまう。俺だって、頻繁にあそこに行けるわけじゃないし。
兵士達のレベルなら、あのダンジョンくらいなら簡単に攻略できるとは思うけど、ランダムダンジョンは何が起こるかわからない。もしかしたら、モンスターハウスに当たって全滅する可能性だってある。
それを考えると、絶対大丈夫だから行っておいで、とも言えない。
そりゃ、ダンジョンに挑む以上は多少のリスクは仕方ないとは思うけど、そのせいで誰かが死んだら俺だってちょっとは思うところがあるし……。
結局、ダンジョンに関してはそのまま保留することになった。
一応、国にも報告はするらしいが、特に興味は引かれないだろうとのこと。がっかりである。
ただその代わり、地下に水資源が多く存在するということに目を付けたのか、水を使ったビジネスをやってみてはどうかと少し意気込んでいた。
元の世界では、水なんて蛇口を捻ればいくらでも出てきたけど、この世界では水は貴重な場所も多いらしい。
旅をする人にとっては水は必須の持ち物だし、もし安全な水だったなら、みんな喜んで買ってくれるだろうとのこと。
水がそんな商品になるとは意外だったが、確かに言われてみればその通りなのかもしれない。
まあ、どんな形であれマリクスの町が潤うならそれでいい。掘るのは大変そうだけど、頑張ってほしい。
「まあ、マリクスの町についてはとりあえず置いておくの。今は、これなの」
そうして取り出したのはスターコアである。
カインとシリウスが見つけてくれた隕石の中にあった一つ。今回で三つ目だろうか。
順調に手に入れて行っているように見えるが、果たしてどこまでこの幸運が続くだろうか。
確かに、始まりの場所には何かがあると踏んでいったのはあるけど、まさか本当にあるとは思っていなかったし。
次のスターコアの手掛かりは全くないが、まあ頑張って探していくとしよう。
『アルメダ様、どうか応答してください』
そう心の中で念じながら目を閉じる。
しばらくして、スターコアが輝き始め、頭の中に直接響くような声が聞こえてくる。
もう三度目ともなると聞き慣れてきた、アルメダ様の声だ。
『来たわね。順調にスターコアを集められているようで何よりだわ』
相変わらず、頭の中をかき乱していくような声である。
別に、声が酷いとかそう言うわけではないけれど、この感覚はいつまで経っても慣れそうにない。
「アルメダ様。とりあえず文句を言わせてほしいの」
『あら、なにかしら?』
「示す場所がアバウトすぎるの。もっときっちり教えて欲しいの」
今となってはあまり重要ではないかもしれないが、俺は海を渡った先の町でクズハさんを仲間にした。
それは、アルメダ様が海の向こうに探し人がいると言うから、わざわざ空を飛ぶ手段まで作って行ったわけだけど、まじでアバウトすぎてずっと不安でしょうがなかった。
海の向こうって言ったって色々ある。隣の大陸以外にも、その先にだって大陸はあるし、仮に隣の大陸だったとしてもそのすべてを探索するのにどれほど時間がかかるかわからない。
少なくとも、この大陸のこの町にいる、くらいまで絞ってくれないととてもじゃないけど探すのは無理だ。
クズハさんの時は、たまたま運よく見つけることができたけど、あれだって偶然に過ぎない。
まあ、クズハさんの【カンナギ】と言うクラスを利用して引き合わせたというなら別だけど。
『まあまあ、見つかったんだからいいじゃない』
俺の言葉に対して、アルメダ様は軽く笑いながら返した。
これ全然反省してないな。
ある意味で神様らしいけど、その大雑把さに思わずため息をついた。
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