第三百八十二話:多くの課題
ダンジョンに軽く潜ってみた感じ、比較的簡単なダンジョンなのかなと感じた。
魔物の出現頻度的に、一階層当たり二、三匹がせいぜいで、ほとんど遭遇しないこともよくあった。
その魔物の種類も、この草原に出現する魔物が中心のようで、強いと言われる魔物は出てこなかった。
もちろん、ダンジョンは奥に進むほど難しくなるという法則があり、それを当てはめれば序盤がそこまで難しくないのは当然ではあるのだけど、この時点でも鉄や石炭なんかはよく取れたし、浅い階層だけ巡っていてもそれなりにうまみがあるのは確かだろう。
まあ、より利益を求めるというのならもっと奥に進んだ方がいいとは思うけど、無理をしなければ、安定して稼げるんじゃないだろうか。
「普通に私が欲しいくらいなの」
ダンジョンに所有者がいるっていうのは知っているけど、冒険者がその所有者になるというパターンは相当稀だ。
冒険者なんだから、一番最初に見つける可能性が高いのだし、一番最初に見つけた人が所有者となるなら、冒険者が所有者になる可能性は高いのではないかと思うけど、シナリオにおいて冒険者がダンジョンを持つっていうのは割とぶっ壊れ要素なのである。
ダンジョンにもよるけど、少し潜れば素材がたくさん手に入り、一般の冒険者からの徴収金もあるとなればお金だって稼げる。
何もしなくても、十分稼ぐことができるのだ。
大体の場合、冒険者の目的は冒険をすることである。だから、お金が手に入ったからと言って冒険をやめるということはないと思うが、お金がたくさん手に入りすぎると、装備や道具を充実させることができてしまう。
ゲームマスターは、基本的に冒険者に合わせてダンジョンを作るが、レベルに見合わず装備が強すぎると、そのバランスが崩れやすくなってしまうわけだ。
だから、仮に冒険者が所有者となるとしても、お金は手に入らないとか、手に入ってもごく少量とか、そんな采配になると思う。
でも、それは『スターダストファンタジー』での話。
リアルとなったこの世界であれば、そんな制限はなくなるだろう。
まあ、立地的に一般の冒険者が来られるかっていう話はあるが、だとしても自分で潜って素材をたくさん持ち帰るくらいはできる。
鉄はミスリルには劣るけど武器防具の素材になるし、それ以外にも日用雑貨にも使われる。石炭だって鉄を精錬するのに使ったり、暖を取るのに使ったりするだろう。
つまり、どれだけあっても困らない素材であり、取れば取るだけ利益が出るわけだ。
別にヘスティアがそれらの素材が不足しているというわけではないけれど、不足した時の解決策としてダンジョンがあるのは嬉しいよね。
「そんなに欲しいなら、報告せずに独り占めにしちゃったら?」
「それは流石にもったいないの。確かに資源を無限に手に入れられるのは魅力だけど、マリクスの町には恩もあるの。元々この地域はマリクスの町が開拓する予定だったのだし、ここで見つけたものはマリクスの町で管理するのがいいと思うの」
「そっか。まあ、アリスらしいね」
まあ、あわよくばお礼としてダンジョンの資源を少しばかり貰いたいとは思っているけど、このダンジョンは最高の当たりと言うわけではない。
今、俺達に不足しているのは主に武器防具、それにポーション類だ。
プレイヤーだけの面倒を見るなら今の時点でもすべて用意することは可能だと思うけど、ヘスティア全体と考えると流石に数が足りない。
来るべき戦いの際に、貧弱な武器防具で戦ってほしくはないし、それによって無駄に犠牲が出ることは避けたい。
だから、武器防具の素材として最も当たりであるミスリルが欲しいわけだ。
ミスリルが大量に入手できれば、それを使って兵士達にもちゃんとした武器防具を配れると思うし、戦いの際に身を守りやすい。
それに、ポーションだって必須だ。
この世界では、【ヒールライト】でお手軽に即回復なんて真似ができる人は少ない。できるのはせいぜい【治癒魔法】くらいで、その回復速度は日をまたいでもなお完治には至らないほどである。
もちろん、怪我の度合いにもよるとは思うが、怪我をしたら戦線に復帰するまで相当な時間がかかるわけだ。
そんな時に、ポーションがあれば即座に回復することができる。ポーションの効果は大抵の場合が即時発動だからね。
この世界には、俺達が言うポーションはほとんど出回っていないみたいだし、俺達が作って供給してあげる必要があるだろう。
そのためには、素材である薬草が必要になってくる。だからこそ、そう言ったポーションの素材があるダンジョンが欲しいのだ。
武器防具はともかく、ポーションに関しては多分俺達しか作れない。だから、それを作るためにそれらの素材があるダンジョンは押さえたい。
ダンジョンってだけで魅力的ではあるけど、それだけですべて独り占めっていうのは悪手なのだ。
「でも、マリクスの人達、ここまで来れるの? 多分、馬車で来られるとしても二か月くらいかかると思うんだけど」
「そこが問題なの」
確かに、ダンジョンは魅力的な場所だ。多少の無茶をしてでも来る意味はある。
けれど、流石に二か月弱もの旅の後、ダンジョンに挑み、その戦利品をまた二か月かけて運ぶのは流石に効率が悪すぎる。
それに、これは馬車で来られた場合の話。馬車を通すためには街道の整備が必要で、直線距離で結ぶとしても一体何年かかるのかって話だ。
草の生命力も凄そうだし、一部を開拓してもすぐにまた草で覆われてしまうのではないかと思う。
それに魔物の脅威もあるし、仮に馬車を通せたとしても危険が付きまとう。
ダンジョンがあるからと言って、ここまで来るのはちょっと無茶が過ぎるのだ。
「一応、ポータルを提供することも考えているの」
「いいの? あれ、あんまり人に知られたくなさそうだけど」
「赤の他人ならともかく、シュテファンさんならうまく扱ってくれると信じてるの」
ポータルに関しては、魔女達やサクラの里にも提供している。行先も指定することができるし、俺が各地にばらまいているポータルに間違って繋がってしまうということもない。
距離の問題さえなくなれば、後はダンジョンを攻略できるかにかかっている。そして、ざっと見た感じそれも十分可能だと思う。
ダンジョンを通じて、マリクスの町をより発展させることはできるだろう。
ただ、懸念点もある。
「問題は、ポータルで繋ぐと、また私を前提にした町になってしまうの」
ポータルは術者が意図的に消さない限り、消えない仕様ではある。ただ、それだと遥か昔に存在したはずの【サイキッカー】が残したポータルがどこかにあっても不思議はない。
偶然見つけられていないだけかもしれないけど、もしかしたら術者が死亡した場合はポータルも消えてしまうのではないかと思う。
まあ、あくまで可能性の話ではあるけど、もしこれが事実だとしたら、俺が死んだらマリクスの町はダンジョンに行く手段を失い、急速に衰退していくことになるだろう。
一度成長した後に再び元の状態に戻ることはできない。以前はそれで満足していた人達も、どこかで絶対に不満が出てくる。だから、発展させるのなら、衰退しないようにしたい。
もちろん、俺自身は死ぬつもりはないとはいえ、絶対とは言い切れない。それに、死ななかったとしても、元の世界に戻った後にポータルが残るかどうかもわからない。
ただでさえ、兵士達の訓練の仕方だって俺がいること前提で作り上げたものだったのだ、同じ轍を踏むのはあまり好ましくないだろう。
だから、初めからポータル前提で動くのはちょっと心配ではある。
「一番いいのは、この未開拓地域を開拓して、中継点の町を作って、ダンジョンまで来るルートを整えることだとは思うけど……」
「色々課題は多そうだね」
別に今すぐでなくてもいい。最初はポータルに頼ってもいいから、その後にきちんと開拓を進めて、ダンジョンという甘い汁を吸うために頑張ってくれるなら言うことはない。
けれど、現状それは難しいように思える。
魔物の対策、草の駆除、色々と課題は多いだろう。
この土地を生まれ変わらせるには、恐らく何十年と言う時間が必要だと思う。
果たして、それまで目標を見失わずに頑張ることができるだろうか。
「ダンジョンがもっと近くにあればよかったんだろうけどね」
「確かに。こんな場所にあるからこんなに悩まなくちゃならないの」
まあ、こんな場所にあったからこそ今まで誰にも見つからなかったと言えばそうかもしれないけど、流石に秘境過ぎる。
せめて砦から一週間くらいの距離ならまだ何とかなると思うんだけど、流石にダンジョンを移動させるなんてできないしなぁ……。
諦めるというのも手だけど、それはそれでもったいない気もするし、実に微妙な発見である。
俺は腕を組みながら、何かうまい手はないかと思案していた。
感想ありがとうございます。
今回で第十二章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十三章に続きます。




