第三百八十一話:村の名簿
羊皮紙の他にも、ダンジョンで手に入れたと思われるものがいくつか宝箱にしまってあった。
多分、宝箱ごとダンジョンから持ってきたのかな? 結構重厚そうな宝箱が部屋の隅にいくつか積まれていた。
中身は大抵が武器類で、宝箱の影響なのか、ほとんど劣化も見られなかった。普通に使える状態で発見できてびっくりしたくらいである。
あったのは剣や槍を始め、短剣や弓、銃、ハンマーなど多種多様で、鑑定してみると、いずれもそれなりの品質のものだった。
ほとんどは効果なしのものも多かったが、中には効果を持つものもあったので、厳選すればこの世界の人達でも追加効果を持った武器を扱えるかもしれない。
今の世界だと、そう言った武器自体に追加効果があるっていうのはかなり珍しいようだからね。効果はそこまでではないとはいえ、あるのとないのとでは雲泥の差がある。
単純に武器の品質の向上にも繋がるし、これを使えばヘスティアの武器不足も解消できるかも?
夢が広がるね。
「後見つかったのは、誰かの名前の一覧みたいだね」
「村の名簿かもしれないの」
人の名前らしきものが箇条書きで書き連ねられている羊皮紙。
村の名簿として見れば、不自然なことではないのだけど、それ以外でちょっと妙なことが一つ。
この名簿、名前にバツ印がつけられているのだ。
普通に考えれば、亡くなったとか、村から出て行った人を消して行っていると捉えられるけど、妙なのは、名簿に載っている全員にバツ印がつけられているということである。
「全員いなくなった、とも考えられるけど、じゃあ最後の人はどうやって消したの?」
「さあ……」
最後の一人が残っているなら、その人が全員の名前にバツ印を付けた後、村を出るなりそのまま朽ちていくなりしたんだと思うけど、すべてにバツ印がつけられているとなると、誰が最後の人にバツ印を付けたのだろうか。
この名簿には載っていない人物がいて、その人がやったのか。それとも、もう助からないと踏んで、自分で自分の名前にバツ印を付けたのか。
可能性は色々あるけど、なんかちょっと違和感を覚えるよね。
「最後に消されたのは、多分この人かな」
「グレン・ターク、ね」
いったいどんな人物なのかは知らないけど、滅びゆくこの村の中で最後に生き残っていたであろう人。
別にそれがどうしたという話ではあるんだけど、なんとなく引っかかる名前である。
でも、今まで会った中にそんな名前の人はいない。気のせいだろうか?
よくわからないけど、心の片隅にでも留めておいた方がいいかもしれないね。
「こんなものかな?」
「他に隠し部屋の類はないみたいだし、多分これだけなの」
ダンジョンの存在も知れて、お宝も見つけられて、かなり有意義な発見だったと言えるだろう。
そうだ、このことをカイン達にも伝えておかないと。
俺は【テレパシー】でこちらの状況を伝える。
『もしもし、アリスなの』
『おお、アリスか。どうだ、そっちは何か見つかったか?』
『村の残骸らしきものを見つけたの。それで、調べてみたら、この近くにダンジョンがあるっぽいの』
『ほぉ、ダンジョンか。スターコアじゃないが、いい発見だな』
シリウスが【テレパシー】越しに褒めてくれる。
砦から合わせるとすでに三週間近く。何もないまま終わらなくて本当によかった。
『そっちは何か見つかったの?』
『ああ、今まさに見つけたぜ。今回の目的そのものだな』
『え、ということは……』
『ああ、隕石だ』
どうやら、あちらでは隕石を発見できたらしい。
スターコアは隕石の中に入っている。すべての隕石に入っているかどうかはわからないけど、隕石があったならその可能性は高い。
図らずも、最大の目的を果たせそうでちょっと嬉しくなる。二手に分かれたのは大正解だったようだ。
『中身は?』
『これから確認するところだ。もしスターコアだったら、そのまま回収しとくよ』
『頼んだの。となると、目的はもう達したの?』
『そうなるだろうな。わざわざ合流するまでもないか?』
こちらは後はダンジョンを確認すれば用は済む。あちらも、隕石の中にスターコアがあれば、それを回収して撤収するだけだ。
そうなってくると、わざわざ迎えに行くのは時間の無駄である。
もちろん、隕石を直に確認したいとか、あるいはあちらがダンジョンを確認したいっていうなら話は別だけど、一度来た以上は、少なくともダンジョンの方はこの村にポータルを置いておけばすぐに来れるだろう。
スターコアの確認だけなら持ち帰ればいいだけの話だし、行く必要もない。
であれば、このまま各自で砦まで戻った方が楽ではないだろうか。
『大丈夫そうならそのまま戻ってきていいの。こっちも、ポータル置いたらすぐに戻るの』
『了解。あ、そうそう、ポータルだけど、俺もそれ欲しいんだけど、後で覚えさせてくれないか?』
『それに関してはサクラとも話してたの。帰ったらやるの』
『おう、頼むぜ』
そうして、【テレパシー】を終了する。
スターコアも見つかって、ダンジョンも見つかって、いいことづくめだ。
まあ、どちらもまだ確認したわけではないからぬか喜びって可能性もないことはないけども。
この喜びを確実のものとするためにも、とりあえずダンジョンの場所を探してみるか。
「サクラ、ダンジョン探すの」
「はーい。羊皮紙に地図っぽいのがあったし、多分それを頼りに行けば見つかると思うよ」
サクラは地図も見つけていたようである。至れり尽くせりだな。
ひとまず、残っている建物の中にポータルを設置して、その地図を頼りにダンジョンを探す。
まあ、結果的には、地図なんてなくてもすぐに見つかったが。
「草で少し隠れてるけど、明らかに魔物の巣穴とは違う穴があるね」
「ご丁寧に階段までついてるの」
村から少し進んだところにあったのは、地下に続く穴である。
この辺りには、魔物が掘ったと思われる巣穴がたくさんあるけど、これには入り口に階段までついていて、明らかに人工物ですって感じだ。
中はかなり暗いが、【暗視】で見る限りは通路が続いているように見える。
情報の通りなら、安易に入ると迷子になりそうだけど、入り口だけでも見ておこうか。
「典型的な洞窟型ダンジョンってところなの?」
中に入ってみると、しばらく進んだ場所に小部屋があり、そこから三方向に道が続いていた。
どこからがランダムダンジョンなのかはわからないが、多分ここからなんじゃないかな。
通路の先に【トラップサーチ】や【ライフサーチ】を試みてみるけど、全く反応がない。
何もいないって可能性もあるけど、このダンジョンの構造がランダムダンジョンを同じだというのなら、多分そのエリアに入らないとスキルの効果が得られない気がする。
進んでみて初めて、その地形が確定するという感じだ。だから、確定する前にいくらスキルを飛ばしても、意味がないということである。
「なんか面白くなってきたね」
「確かに。冒険者としては心躍るの」
ランダムダンジョンなんていつぶりだろうか。
一応、ルールは知っているけど、やったのは最初の一、二回だけで、その後は固定のダンジョンしかやったことがなかった。
だから、何が起こるかわからないランダムダンジョンはちょっと楽しみなのである。
と言っても、今回は偵察だけで、奥まで進む気はないが。
「さて、軽く見て見るの」
俺達は未知のダンジョンにワクワクしながら先に進むのだった。
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