第三百八十話:貴重な資源
罠らしき罠はなかった。鍵はかかっていたようだけど、年月による風化で壊れていたのか、普通に開けることができた。
扉の先に広がっているのは小さな部屋だ。小さいと言っても、そう見えているのは棚が多いからだろう。所狭しと並べられた棚には、丸められた羊皮紙がたくさん置かれていて、資料室と言う印象を受けた。
「てっきりお宝でもあると思ったけど、ただの羊皮紙なの?」
いや、羊皮紙は羊皮紙で当時のことが書かれているかもしれないし、歴史的な価値は高い。
と言うか、別にお宝を求めているわけでもないので、こっちの方がありがたいかもしれない。
俺は比較的状態がよさそうな羊皮紙を手に取ると、手近な場所にあったテーブルに広げてみる。
「ふむ……報告書、なの?」
そこには獣人語で文字が書かれていた。
書かれている内容としては、とあるダンジョンの記録らしい。
ダンジョンでこんなものを見つけたとか、こんな魔物がいたとか、そういうものをまとめているもののようだ。
どうやら、この村はそのダンジョンで得たものを売ったりして生計を立てていたらしい。この様子だと、仮に時代の粛正の時を生き残っていたなら、しばらくの間は暮らせていたのかな。
まあ、売り先がなくなればお金も手に入らないし、魔物の肉だけを食べて生活するというのも限界がある。だから、滅ぶのは避けられなかったって感じだろう。
「しかし、ダンジョンなの……」
ダンジョンとは、世界各地に存在する、特殊な構造をした迷宮のことを指す。
その特殊な構造と言うのが、入る度に構造が変わるという点だ。
例えば、初めて入った時に最初に小部屋があり、その先に二つの通路が続いている、みたいな構造だったとしよう。その後、一度ダンジョンを出て、もう一度入ると、今度は小部屋がなくなり、代わりに十字路が出来上がっている、と言うように、入る度に構造が変化する。
言うなれば、不思議のダンジョンのような形式だ。
『スターダストファンタジー』では、このようなダンジョンのことをランダムダンジョンと呼び、ダイスによってその構造が決められる。
運が良ければお宝たくさん手に入ってラッキー、運が悪ければ魔物とたくさん遭遇してピンチに、なんてことがある、運要素の強いものである。
この報告書を見る限り、ここに書かれているダンジョンはランダムダンジョンのことだろう。明らかに、入った時の構造が毎回変わっている風に記されている。
ダンジョンは基本的に、内部にあるものは定期的に補充されるという性質がある。
それが薬草だろうが鉱石だろうが魔物だろうが宝箱だろうが、何でも一定周期で復活するのだ。
だから、うまく使えば無限に資源が取れる場所であり、一生生活に困らない、なんてこともある。
まさに、宝の山って奴だ。
「わざわざこんな場所に隠してるってことは、秘匿してたの? それとも、重要性の高いものだからここに保管してたとか」
ダンジョンの所有者は、基本的に一番最初に見つけた者となる。
所有者となれば、一般に開放すれば、彼らが得たお金の何パーセントかを徴収する権利が貰えるし、何なら独り占めしてもいい。
まあ、大抵の場合はダンジョンは国が管理することになるらしいけどね。多額の報酬も支払われるので、普通は独り占めなんかせずに国に報告するのが普通だけど、この村はそれをやっていたかどうか。
まあ、どっちでもいいっちゃいいけどね。今重要なのは、この村の近くにダンジョンがあるかもしれないってことだ。
「もし、ダンジョンを攻略できれば、かなりの利益になることは間違いないの」
さっきも言ったが、ダンジョンの資源は基本的に無限である。
ダンジョンにあるものにもよるが、例えば魔物しか出ないとなっても、その魔物を倒すことができるなら、その素材を大量に手に入れることができるわけで、それを売りさばけばかなりの金額になるだろう。
元々、マリクスの町は狩りによって生計を立てている町だ。それに今なら、対魔物も普通にできるし、レベルにもよるけど対抗することは十分に可能だと思う。
それにこれなら、わざわざ森の魔物を倒す必要もなくなるわけで、モルドさんの憂いも少しは晴れるんじゃないかな?
距離が遠いのがネックだけど、ダンジョンならそれを乗り越えても赴く価値はあると思うし、最悪ポータルを提供するつもりである。問題はない。
スターコアが見つかってないのは残念だけど、マリクスの町にとってプラスとなるものが見つかったのは僥倖かもしれないね。
「これは、ワクワクしてきたの」
とにかく、サクラにも伝えようか。他にも羊皮紙は残っているみたいだし、もっと何か書かれているかもしれない。
俺は一度羊皮紙を戻すと、サクラを呼びに行った。
「なるほど、ダンジョンねぇ」
「かなりうまみのある話だと思うの」
「私にはそれがどれだけ凄いのかよくわからないけど、アリスが興奮してるのはわかるよ」
サクラと共に小部屋へと戻り、部屋を調べてみる。
羊皮紙に関しては、ほとんどがダンジョンに関するものだった。
見つかっているのは主に鉱石類で、鉄や石炭、銀なんかが取れているらしい。
流石にミスリルはなかったようだけど、それでも十分すぎるほどのラインナップである。
今もそれが残されているかはわからないけど、多分ダンジョンは時間によって変わらないと思うし、ダンジョン管理者みたいなのがいないなら、そのまま残ってるんじゃないかな。
「思うんだけど、宝箱にポーションとかが入ってるのはよく聞くけど、そんな場所に入ってたポーションなんて飲みたい人いるの?」
「……まあ、それは確かに」
宝箱の中には、ポーションや武器類なんかがよく入っているようだけど、確かに宝箱の中に入っていたポーションを飲みたいとは思えないよね。
どれくらい経っているのかもわからないし、そもそも品質に問題がないかどうかもわからないし。
ゲーム的に考えるなら、使えるもんは使えるって感じなんだろうけど、現実になった今、それを素直に飲みたいかと言われたら確かに嫌かもしれない。
でも、そうなると、店に売ることになって、売られた方はそれがどこで手に入れたものかなんてわからないから、そのままそれを店頭に並べて、知らない誰かが買っていく、みたいな展開が予想できる。
そうなると、普段買っているポーションも実はダンジョン産でしたなんてことにもなるし、それはちょっと怖いところだ。
俺は一応鑑定っぽいことができるから見分けられると思うけど、そう考えるとポーション飲みたくなくなっちゃうね。
「ま、まあ、そこらへんは気にしない方がいいの」
「そっか」
最悪、ポーションは自作することもできる。今なら、俺は当然作れるし、サクラだって作れるだろう。
だから、どうしても気になるというならそっちを利用すればいいだけの話である。そっちの方が安く済むしね。
まあ、宝箱のポーションはともかく、普通に価値のある鉱石も多い良ダンジョンのように見える。
後は、実際に確認してみて、魔物の強さとかがマリクスの兵士達でも十分対処できるものだとわかれば、重要な資源として報告してもいいだろう。
ダンジョンを見つけたとなれば、クラウス陛下だって再び目を向けてくれるかもしれないしね。
俺はなんとか恩を返せそうだと、ほっと胸を撫でおろした。
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