第三百七十九話:忘れられた村
二手に分かれてから飛ぶこと数日。見渡す限り草ばかりで、時折見かけるのは魔物くらいなもの。
これだけ広い土地なら、何かしら有効活用できそうな気がしないでもないけど、やはりこの草がネックになってきそうである。
魔物に関しては、最悪防衛線を張り、なるべく被害を少なくするという方向で行けなくもない気はするけど、その場合にもこの草が邪魔になってくる。
なにせ、背が高い草だから、魔物が容易に身を隠すことができる。
賢い魔物なら、この草に乗じて近づくこともできるだろうし、そんな知能がなくても小さな魔物なら普通に隠れてしまう。
魔物の襲撃に対する防衛は初動が大事だ。魔物の接近にいち早く気づけるかどうかが重要になってくる。
だから、そうするためにはこの草をどうにかしないといけないわけだ。
クラウス陛下が諦めるのも無理ない気がする。シュテファンさんも大変だね。
「そろそろ何か見つかってくれるといいんだけど……」
「一応、魔物の巣が多くなって来たかなって印象は受けるけど、逆に言えばその程度だよね」
人の手が入っていない場所だから、魔物が巣を作るのはある意味当然ではある。
これだとますます人が住むのは難しいし、そもそもこんな長距離、街道を敷くだけでも大変そうである。
結局、マリクスの町を発展させれるようなものは見つからなかったな。ちょっと残念だ。
「……? アリス、あれは?」
「うん? あれは……村?」
何もないとぼやきつつ飛んでいると、サクラが何かを見つけたようだ。
その先にあったのは、家らしき建物。それがいくつか乱立していて、まるで村のようになっている。
こんな場所に村? どう考えても、こんな場所で生活できるとは思えないけど、事実建物がある。
これは、面白い発見かもしれない。
「とりあえず、近づいてみるの」
「はーい」
俺は期待を胸にその建物に近づく。しかし、近づくにつれ、期待外れだということに気が付いた。
と言うのも、建物とは言っても、皆朽ち果てているのだ。
かなりの年月そこにあったのだろう。壁には蔦が這い、ほとんどが風化して崩れ去っている。
どうやらここは、遥か昔に滅んだ村のようだ。
「ゴースト村ってところ?」
「見たところそんな感じなの。でも、こんな場所に村なんてあったっけ?」
今の人達がこの村の存在を知らないってことは、恐らくこの村は三千年前の時代の粛正に巻き込まれたんじゃないかと思う。あるいは、それによって補給が絶たれ、人知れず滅んだって感じかな?
戦いで壊れたって風ではないし、以前は街道が通っていたけど、近くの村や町が滅んでしまい、この村に食料などを運んできてくれる人がいなくなってしまったから、そのまま滅んだって感じがする。
もちろん、時代の粛正とは関係ない村って可能性もなくはないけど、風化具合を見るに、少なくとも100年以上は経っているだろう。
周囲から忘れられて、ひっそりと滅んだ村。なんだか可哀そうな気がしてきた。
まあ、それはともかく、こんな場所に村があったとは初耳である。
いや、この世界では知られていない場所なのだし、当然と言えば当然なのだけど、こんな特徴的な場所にある村なら、『スターダストファンタジー』の時の地図に載っていそうなものだけど。
「南端の村……確かに村のような小規模な場所なら載ってない可能性もなくはないけど……」
基本的に、『スターダストファンタジー』の地図に載っているのは、主要な国や町の名前である。小さな村なんかは省略されることも多いし、コラムに名前だけ登場するって村もある。
でも、重要な意味を持つ村なんかはちゃんと載っているし、この村がそんな特別な村ならあってもおかしくはない。
でも、それが思い出せない。位置的にこの場所に何かしら載っていたような気はするけど、それが何だったのか。
この村を調べてみればわかるだろうか?
「とりあえず、調べてみるの」
「そうだね」
俺とサクラは村の中を散策してみる。
建物自体は石造りのようで、割と形が残っているものも多い。そのおかげか、風雨に晒されなかった内部もわずかながら形を残しているものもあった。
落ちている道具を見る限り、武器の類が多いだろうか。剣や槍、短剣なんかの残骸をよく見る気がする。
どれもこれも錆びていて使い物にはならないが、村の警備隊とかが持っていただけにしては多い気がする。
冒険者でも住みついてた? ここの魔物が多いのが昔からかは知らないが、もしそうなら、それを狩るための用心棒的な存在がいてもおかしくはなさそうだけど。
「見た感じ、魔物対策の意識が高い村って感じなの」
「それだけなら普通だね」
「ただ単に、忘れられた村ってだけなの?」
せっかく見つけたのに何もないのは納得いかないが、今のところ何の成果もない。
せめて、村が現存していた当時の状況がわかるものでもあれば面白いんだけど。
「うん? この井戸、枯れてるの」
「何百年と経ってるなら、井戸が枯れるのは普通じゃないの?」
「いや、この土地は地下に水脈がある可能性が高いの。そうそう枯れるとは思えないの」
使われなくなって水が濁っている、と言うならわかるが、完全に枯れているのはおかしいだろう。
この近くだって、見渡す限り草に覆われているのだ。地下に水脈がある可能性は非常に高いし、今もその水脈は枯れてはいないだろう。
実際、他にも井戸はあったが、そちらはきちんと水があった。
それなのに、この井戸だけ枯れているっていうのはおかしな話だ。
「じゃあ、何かあるってこと?」
「もしかしたら」
「へぇ、井戸の底に隠し部屋とかだったら面白そうだね」
井戸の中に隠し部屋があって、そこに宝箱が置いてあるなんて、ゲームなら割とよくあることだと思う。
実際にそんなことはほとんどないだろうけど、目の前のこれはその可能性が高い。
ちょっとワクワクしてくるね。
「私が先に降りるの。サクラは安全が確保できたら降りてくるといいの」
「大丈夫? 一緒に入った瞬間閉じ込められたりしない?」
「閉じ込められる罠があるなら、私が入った時に作動すると思うの。それに、仮に閉じ込められても、私達ならすぐに出られるの」
「それもそっか」
まあ、万全を期すならサクラにはここに残ってもらっていた方がいいかもしれないが、そこまで気にする必要はない気もする。
でもまあ、一応警戒はしておいた方がいいだろう。もしこれが意図的に作られた隠し部屋なら、罠を置いている可能性は十分あるわけだし。
「それじゃあ、行ってくるの」
「気を付けてね」
俺は下の様子を少し確かめた後、井戸の中へと飛び降りていく。
枯れた井戸なので、水は全くなく、乾いた地面に着地することができた。
かなり暗いが、俺には【暗視】があるので問題はない。
周りを見る限り、石壁で囲われている。そして、その一角に、扉があった。
なるほど、この先が隠し部屋ってわけか。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
一応、【トラップサーチ】で罠がないか確認しつつ、扉を開ける。
さて、一体何があるんだろうね。
感想ありがとうございます。




