第三百七十七話:いざ未開拓地域へ
ある程度予想はしていたが、話が盛り上がりすぎて、結局出発は翌日となってしまった。
途中まではその日のうちに出発する気でいたのだけど、ちょっと話をしただけでもっともっとと催促してくるので、話のやめどころを見失ったのと、カステルさんの料理がやはり美味しくて、もっと食べたくなってしまったというのもある。
泊まる部屋がないっていうので少し揉めたけど、最終的に以前俺が使っていた休憩室に俺とサクラが泊り、カインとシリウスは兵士達の寝床にお邪魔する形で事なきを得た。
元々、この砦は大きさに反して人数がそんなに多くないので、寝床自体は余っていたらしいからね。ただ、やはり男しかいないので、女性を寝かせるには色々と危険が多いということで、こういう形になった。
この感じも懐かしい。少し埃っぽいところもそのまんまだ。
まあ、それに関しては掃除したけど、定期的に掃除すればいいのにね。
「さて、こっからが本番だな」
「そうだね。張り切っていこうか」
翌日。俺達は未開拓地域に向けて出発することになった。
見渡す限りの草原。一応、途中までは開拓した跡なのか、道らしきものも残っているが、今はすっかり草に隠れてしまっている。
とてもじゃないけど、馬車で移動することはできないだろう。無理に進もうとすれば、車軸に草が絡まってたちまち動けなくなりそうである。
なので、ここからは歩きだ。ライロには悪いが、ポータルで帰っていてもらおう。
「見渡す限り草原ですが、何か目印はあるのですか?」
「特にはないの。たまに木が生えてる時もあるけど、基本的には草まみれなの」
「それは、方向を把握するのが大変そうですね」
目印がないと、方向感覚を失いやすい。まっすぐ進んでいるはずが、いつの間にか方向が変わっているなんてこともよくあると思う。
俺も当てもなくまっすぐ走っていたが、果たして本当にまっすぐだったのか、今となっては自信がない。
一応、太陽を見れば大まかな方向くらいは把握できるが、常に確認するのは大変そうだ。
なので、今回は迷わないようにちょっと対策をしようと思う。
「ここまでくれば砦からは見えないの。みんな、飛ぶ準備をするの」
「飛ぶって……ああ、なるほど」
「なにもあれは海でしか使えないなんてことはないの」
俺達は一度隣の大陸に向かうために海を渡ったが、その時は空を飛んで移動した。
【コンキスタドール】のスキルの一つ、【ドラゴンウィング】は、自分の体に竜の翼を生やすことができるスキルである。
これを使えば、空を自在に飛ぶことが可能だ。
そして、今回もそれは有効に活用できるはずである。
なにせ、この草はかなり背が高く、普通に歩いているだけではかなり視界が悪い。けれど、空を飛ぶことができれば、そんなデメリットは無視することができる。
方角も確認しやすいし、一石二鳥だ。
「なかなか使うタイミングが難しいけど、こういう時にはいいよね」
「だな。空を飛ぶのが当たり前だっていうなら、気軽に使えるんだが」
「今の人達は、人が空を飛ぶことなんてありえないと思っていますからね」
現状、クラスのない今の世界では、空を飛ぶ方法はかなり限られている。
一応、【飛行魔法】と言うスキルはあるようなのだが、かなりのレアスキルのようで、ほとんどの人は持っていないようだ。
そんな中で、いきなり人が空を飛んでいるのを見たら驚かれるし、下手したら魔物と間違われて敵対してしまうかもしれない。
特に、【ドラゴンウィング】の翼は竜の翼だから、見た目には本当に魔物っぽいしね。
後は竜人と言う種族もいるが、この大陸ではあまり知られていないようだ。
なので、日常的に使う場面はあまりないのである。
「空を飛ぶのって気持ちいいね」
「はしゃぐのもいいけど、今回の目的を忘れないようにするの」
「わかってるよ。隕石を探せばいいんでしょ?」
「わかってるならいいの」
今回の目的は、隕石の中に入っていると思われるスターコアの捜索である。
果たして、こんな場所に隕石が落ちるかはわからないが、未開拓地域は広範囲に広がっているし、落ちてきていてもおかしくはない。
もしスターコアを見つけられれば、また神様と交信ができるし、目標の数にまた一歩近づく。
果たして、七つ集めた時に何が起こるかは知らないけど、あんな書かれ方してたら集めないわけにはいかないよね。
「かなり広大ですし、手分けしますか?」
「んー、まあ、とりあえずはこのまま行くの。どうしても見つからなければ、その時考えるの」
「わかりました」
俺の体感ではあるが、少なくとも一週間以上は草原が続いているだけである。
俺が全力で走ってそれだけの時間なのだから、通常の馬車の速度で考えたらもっと長い時間何もない草原が広がっているだけだろう。
何か見つけるためには、手分けした方が効率がいいのは確かだが、しばらくは開拓していた痕跡もあるし、恐らく何もないと思う。
もし手分けするなら、開拓も進んでいないもっと奥からでも遅くはないだろう。それでも何もなければ、帰りに戻りながら捜索すればいいだけの話だしね。
「それにしても、見渡す限り草ばっかりだね」
「見たところ、川とかも見当たらないが、地下水脈でもあるのか?」
「地下水脈かぁ、確かにこれだけ育ってるんだからあるかもしれないね」
雑草の生命力は半端ないから、わずかな水でも育つかもしれないけど、ここまで背の高い草になってくると、どこかしらに水源があるような気はする。
川が見当たらないなら、原因は地下にあると考えるのが妥当なところではあるか。
地下水脈ねぇ、これは開拓の要因となりえるだろうか?
水資源が豊富というのは、それだけ聞くとよさげな感じには聞こえるけど。
「うーん、でもこの草じゃねぇ……」
刈り取って開墾すれば農業とかもできるかもしれないが、流石にそのためだけに開拓するのは厳しいか。
せめて魔物が出ないっていうなら、土地を確保するという意味でもありかもしれないけど、魔物が出るんじゃ安心して農業なんてできないし、そのための対策も考えなければと考えるとちょっと微妙なところな気がする。
魚が釣れるとか、特殊な効果の付いた水だっていうなら、多少は考えないでもないけど、そう言うわけでもない気がするし。
これだけじゃ、開拓の理由にはならなそうだなぁ。
「逆に何が見つかればいいんだろう」
あの町に支援したいと思えるようなことがあればいいんだから、王様にとって喜ばしいもの?
鉱山とかなら、金とか鉄とか、あわよくばミスリルとか、価値の高いものも色々ありそうだけど、こんな草原に鉱脈があるとは思えないし。
いや、わからないかな? 地下を掘れば、もしかしたらそう言う資源も眠っているかもしれない。
草が邪魔で掘るのはめちゃくちゃ大変そうだが。
お金になるものなら何でもいいんだから、いっそのことこの草が珍しい薬草とかで、これが売れるっていうなら宝の山なんだけどね。
まあ、アイテム鑑定でもただの雑草としか出ないから違うんだろうけど。
なかなかうまく行かないものである。
何か目ぼしいものが見つからないかと祈りつつ、上空から地上を眺めていた。
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