第三百六十八話:南へ出発
通されたのは謁見の間ではなく、応接室だった。
謁見の間だと、作法とか色々堅苦しいところがあるけど、応接室で私的に会う分にはそこまで作法は気にしなくてもいい。
クラウス陛下としても、俺達とはそう言う関係を築きたいんだろう。あるいは、前回の件を反省しているのか。
まあ、謁見の間だろうが応接室だろうが俺の喋り方は変わらないけどね。
しばらく待っていると、クラウス陛下と、フローラ様、そしてエミリオ様がやってくる。
王様と王子王女が勢揃いって、結構豪華だよね。
「アリス、そしてその仲間達も、よく来てくれた」
「お久しぶりなの、クラウス陛下」
「うむ。迎えをよこすつもりだったが、うまく連絡が行っていなかったのか、すぐに出迎えられなくて申し訳ない」
「気にしなくていいの。ただ気まぐれに寄っただけなの」
俺は以前に貰ったミスリルのおかげでいい馬車が作れたと礼を言う。
ミスリルに関しては、まだ産出量が少ない貴重な鉱石だ。
一応、ヘスティア王国にもミスリルの鉱山はあるが、そのほとんどは冒険者や市民のために武器や防具に加工されていて、王族と言えど多くを融通することは難しい状況である。
あの時も、大量に取り寄せたら国内の武具生産が落ち込むことは目に見えていたので、こうしてクリング王国からミスリルを貰えたのは本当に助かったのだ。
今のところ、国土を増やす気はないけど、まだ未開拓の場所であれば、こちらで開拓してミスリルの供給を増やすのもありかもしれない。
まあ、あんまり遠いとどうやって持ってくるかを考えないといけないけどね。
「それはそうと、また門番が失礼を働いたようだな。本当に申し訳ない」
「ああ、気にしなくていいの。もう慣れたの」
「何度も言い聞かせてるんだがな。どうにもうまく行かない」
「努力はしてるんですけど、力足らずで申し訳ないわ……」
陛下と一緒に、エミリオ様とフローラ様も頭を下げてくる。
そんなポンポン頭を下げるのは王族としてどうかと思うけど、悪いことをきちんと謝るのも大事ではある。
まあ、この場合謝るのは門番と、その上司であるあの騎士で、普通に謝ってくれたのでもうこの話は終わりでいいと思うけどね。
上層部がよくても、末端まで手が回らないのはよくあることだ。
普通は上層部が腐っていて、末端が煮え湯を飲まされてるってパターンが多い気がするけど、この国は逆なんだよね。
ほんと、頑張ってるみたいだし、早く報われてほしいとは思うけど。
「して、今日はどのような用事で参ったのだ?」
「ああ、ちょっと南の方に用事があって、そのついでにここに寄ったの」
「南と言うと、マリクスの町か? 確か、そなたはその町からやってきたのだったな」
「その通りなの。まあ、ちょっとした里帰りみたいなものなの」
マリクスの町も懐かしいな。
あの時は、急に王様から招待状が来て、仕方なく行ったんだったよな。
シュテファンさんは元気にしてるだろうか。警備隊のみんなもきちんと成長してるか気になるところである。
気が向いたらレベルアップしてあげようかな。
「なるほど。あんな辺境まで行くのは大変だろうが、気をつけてな」
「ご心配ありがとうございます、なの」
「今日はこの町に滞在するのか? そうであれば、部屋を用意するが」
「まだ日は高いし、このまま出発しようと思ってるの」
「そうか、それは残念だ……」
なんなら今日が出発初日だからね。初日から休憩なんてしたくないし、さっさと出発したいところだ。
フローラ様が寂しそうにしているのを見るとちょっと心揺らぐけど、別に会いに来ようと思えばいつでも会いに来られるし、そのうち遊びに来ればいいだろう。
「それじゃあ、また近くに来たら寄ろうと思うの。その時はたくさん話すの」
「待ってるからね」
フローラ様達に見送られて、城を後にする。
ここからは馬車で移動だ。走ってもいいけど、そこまで急いでいるわけではないしね。
ライロに来てもらい、御者をしてもらう。しばらくは、馬車の中でのんびり過ごすとしよう。
「マリクスの町って、アリスが最初に辿り着いた町なのか?」
「まあ、一応そう言うことになるの」
「しばらく滞在してたみたいだが、何かしてたのか?」
「んー、ちょっと領主に頼まれて警備隊の育成をしてたの」
「いきなり領主に気に入られたのかよ」
そんなこと言ったって、事実だからしょうがない。
まあ、気に入られたきっかけは、俺が【アローレイン】を見せたことだけども、それだったらいつかは似たようなことになっていたことだろう。
シュテファンさんに気に入られたのは、かなりの幸運だったと言える。
貴族でありながら、尊大な態度を取らず、こちらに歩み寄る姿勢を見せてくれた優しい人。ついでに顔もいい。
最初に訪れた町としては完璧だったことだろう。まあ、暴れすぎて呼び出されてしまったのは誤算だったかもしれないが。
「気に入られたのはシリウスも同じでしょ?」
「俺は気に入られたというより目を付けられたって言った方が正しいだろ。酷い目にも遭ったしな」
「まあ、それは確かに」
シリウスは【ヒールライト】というこの世界においてはとてつもない威力を発揮する治癒魔法を持っていたが故に、王様に目を付けられた。
そこまではよかったけど、それを断ってしまったせいで酷い拷問を受けた挙句、足まで切り落とされてしまったという可哀そうな経歴を持つ。
足に関しては【マシンボディ】のスキルを取得することで何とかしたけど、結局まだ新しい足は用意できてないんだよね。
いや、前は【ホムンクルスクリエイト】を用いれば簡単に用意できると思っていたのだけど、このスキルはどうもそううまくも行かないらしい。
と言うのも、このスキルを使うと、完全な形のホムンクルスを作ってしまう。つまりは、足だけを作るっていうのは無理なわけだ。
だったら作った後で足だけ切り離して、それをシリウスの足に移植するという形にすればいいと思ったけど、そもそもホムンクルスの足を切り落とすというのが気が乗らないし、仮にできたとしてもどうやってくっつけたらいいかわからない。
【ドクター】のクラスになればワンチャンありえるかもしれないけど、うまく行かなければシリウスはまた足を失うことになる。
一番いいのは、足を近づけて、【ヒールライト】をかけることでくっつけばいいんだけどね。
四肢が飛ぶという状況は『スターダストファンタジー』ではありえなかったけど、現実ならそう言うこともある。であれば、飛んだ四肢を持ってくればくっつけることも可能なのではないかとも考えられる。
ただ、それが別人の部位だったらどうなるのかはわからないし、そもそもくっつかない可能性もある。
やる以上は、絶対に治るという保証が欲しい。
そしてもう一つ、シリウスが現状困ってなさそうと言うのも手が出ない理由の一つでもある。
今のシリウスの足は、【マシンボディ】によって作られた機械の足だけど、その性能は普通の足と何ら変わりない。むしろ、耐久力が上がっていたり、能力値の上昇効果があったり、普通の足より高性能だ。
ステータス的に考えるなら、わざわざこれを外してまで普通の足をつけるメリットはない。
義足みたいに、長時間着けていると接地面が痛くなるとか言うわけでもないみたいだし、見た目が普通でないという以外は取り換える必要もないと言えばないのだ。
シリウスはそこのところどう思っているのだろう。やはり、元の足がいいのだろうか?
「別にこのままでもいいけど、機械っぽい見た目にしたのは失敗だったかなとは思ってる」
「そうなの……」
やはり、見た目は重要らしい。
仮に意識のないホムンクルスを作るとしても、それを切断するのは嫌だし、できることなら足だけ生成したいところである。
まあ、できるかはわからないし、最悪切り離すことも視野に入れておこう。
シリウスの機械の足を見ながら、何かうまい手はないかと考えていた。
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