第三十七話:王都へ
第二章開始です。
本当の意味で旅をするのは初めてかもしれない。
この世界に降り立ってから当てもなく歩き続けたことはあったが、あの時は本当に町が見つかるのかどうか不安で仕方がなかった。
その点、王都までの道のりはちゃんと道が続いているし、変にショートカットでもしようとしない限りは迷うこともない。あの時に比べたら気楽な旅だ。
一か月という長い道のりではあるが、もちろんそれをまともに行くつもりはない。現在、私は道を見失わない程度に外れた場所を疾走している。
アリスは敏捷がとても高いキャラだ。レベルも高く、さらにこの世界基準ではそのレベルはさらに高まるので、恐らく人外レベルにまで達したアリスの脚力は、そこらの馬車を優に超えるスピードを出すことが出来た。
俺にとっては軽く小走りしている程度の感覚でも、アリスに当てはめると車並の速さ。しかも、長時間走ってももあまり疲れないおまけつき。
全速力で走れば一時間も走れば疲れてくるだろうが、ちょっと走る程度の速度ならばいくら走っても疲れない。
まあ、そんな速度で走っていたら道に人や馬車がいた場合に危険だから道を外れる必要はあるけど、この調子なら王都までなんてあっという間だろう。
途中、適度に町に寄って休憩しながら進んでいった。
宿に泊まったり、時には野宿したりしながら進むこと十日ほど。ついに王都へとやってきた。
周囲を高い外壁に囲まれた大きな町。入り口の門には長蛇の列ができていて、がやがやと騒がしい。
マリクスの町とは比べるべくもない大きな町だ。やはり王都というのは違うな。
ひとまず、列の最後尾に並ぶ。長蛇の列とは言っても、流れも速いし、この調子なら三十分もすれば門に辿り着くだろう。
ここまでずっと走り通しだったし、休憩もかねてゆっくりするのも悪くない。
別にいつまでに来いなんて正確な日時は言われてないしな。のんびりいこう。
「それにしても、人間ばかりなの」
列に並んでいるのはほとんど人間だ。一応、ちらほらと他の種族の姿もあるけど、彼らは基本的に革の鎧を身に着けているから恐らく冒険者かなにかだと思う。
クリング王国は人間の国らしいから人間が多いのは当たり前だけど、せっかくファンタジーな世界に来たのだから珍しい種族とかも見てみたい。
確か、ゼフトさんが色々言ってたよな。機会があったら別種族が暮らす国に行ってみるのもいいかもしれない。
「おん? こんなところに兎がいるぜ」
そんなことを考えていると、不意に背後から声を掛けられた。
振り返ってみると、そこにはいかつい顔をした冒険者風の男が三人。
にやにやと気色の悪い笑みを浮かべているけど、何だこいつら。
ちょっと嫌な予感がする。とりあえず、嫌悪感を隠して努めて冷静に対処した。
「おじさん達、誰なの?」
「なんだ、俺達のこと知らねぇのか?」
「俺達は泣く子も黙るC級冒険者『餓狼の首』よ」
「新顔か? まだ若ぇのにご苦労なこった」
装備を見る限り、剣二人と斧一人。魔法の有無によっても変わるけど、なんだか前衛に偏ったパーティだな。
確か、本の知識では冒険者でC級は中堅。一人前に達し、そこからさらに実戦を積み重ねて余裕が出てきた頃合いだったか。
一般的に一人前と言われるD級からC級に上がるのは結構難しいらしく、C級になれれば冒険者ギルド内でもそこそこ先輩面出来るようだ。有名パーティとして噂されていてもおかしくはない。
見たところ年は三十代前半くらい。後数年もすれば冒険者は引退だろうか。C級に上がったことは凄いけど、B級に上がることはなさそうだな。
「ふーん。私はアリスなの。よろしくなの」
「なんだその喋り方、キャラ付けか? なかなか可愛いじゃねぇか」
「へっ、よかったら店を教えてくれよ。後で行ってやるぜ?」
「まだ小さいが、獣人は早熟だって言うしな」
喋り方に突っ込まれたのは初めてだ。可愛いとか言うな。
それにしても、店ってなんだ? 俺の事をどこかの店の手伝いかなにかだと思ったんだろうか。
この世界では15歳で成人だから、俺はまだ一人で働くことはできない。出来るのは仕事の手伝いか、冒険者くらいなものだ。
それとも、王都では俺でも働ける場所があるのだろうか? それは少し興味がある。やるかどうかは別として。
「お店って何なの?」
「何って、お前夜の兎じゃないのか?」
「夜の兎?」
「それも知らねぇのか? んだよ、せっかく期待したってのに」
夜の兎。それが何のことかはわからないが、なんとなく雰囲気でわかった。
確か、兎族は獣人族の中でも非力で、それ故子孫繁栄のために子作りをすることを求められているらしい。そして、中には娼婦として働く者もおり、兎族はそういう目で見られがちという話をゼフトさんが言っていた気がする。
つまり、夜の兎とは娼婦の事だろう。俺の事をそんな目で見てたのか。そりゃ気持ち悪い顔になるわけだ。
「なあ、よかったら俺とやらねぇか? 全部奢ってやるから」
「おい、それは流石に……」
「いいだろ? おめぇらだってそれで声かけたくせに」
「ぐっ……」
俺がそういうお店で働いてないとみるや、まさかの直接交渉。
アリスは13歳だけど、見た目は10歳程度だ。それを30代のおっさんが襲うって……どう考えても事案だよな。
それとも、この世界では案外そういうのが普通なのか? 同意の上ならいいとか。だとしてもロリコンと言わざるを得ないけど。
「ごめんなさい。そう言うのはお断りなの」
「そうか……なら仕方ねぇか」
「でも、せっかくだから待ってる間お話ししたいの」
流れが速いとはいえ、流石に何もしないで待っているのは暇だ。
この人達も別に無理矢理襲おうなんて気はないみたいだし、案外いい人っぽいから少し話すくらいなら問題ないだろう。
魅力値の暴力でにっこりと微笑んでやれば大抵の男は落ちる。案の定、デレッとした表情を見せて頷いてくれた。
「よし、おじさん達何でも教えちゃうぞ!」
「お、俺も俺も! 何が聞きたいんだ?」
「何でも聞いてくれ!」
ちょっと効き目が強すぎただろうか? にっこりスマイルはちょっと自重した方がいいかもしれない。
さて、何を聞いたものか。冒険者みたいだし、王都を拠点にしているならある程度王都の情勢とかにも詳しいだろうか?
泊まる宿も決めておきたいし、その辺りを中心に聞いて行こうか。
「じゃあまずは、名前を教えて欲しいの」
「あ、そうだったな。俺はラズだ」
「俺はダラス。斧使いだぜ」
「で、俺がリーダーのガンズだ。」
「ふーん。さっきも言ったけど、私はアリスなの。よろしくなの」
改めて見てみると、この三人かなり顔が似てる。体格もそうだし、喋り方までそっくりだ。
もしかしたら、兄弟なのかもしれないな。名前の響きもなんとなく似ているし。
「ラズさん、ダラスさん、ガンズさん、なの。三人は兄弟なの?」
「そうだぜ。ガンズが一番上で、二番目がダラス、で、末のラズだ」
「仲良しなの?」
「おうよ。小さい頃からみんなして冒険者に憧れててな。成人してから、親の制止も振り切って飛び出してきちまったよ」
なるほど、意外に情に熱い人なのかもしれない。
きっと子供の頃は秘密基地とか作って遊んでたんだろうな。俺にもそんな時期があったと思うと少し懐かしい。
その後も、色々王都のことについて聞かせてもらった。特にこれと言って有益な情報はなかったけど、話しているだけで少し楽しかったからよしとしよう。
感想ありがとうございます。
 




