第三百六十三話:お互いを守りあう
プレイヤーの皆さんと違って、この世界で明確に何になりたいと思う人は少数派らしい。
大体が、親がやっていたからとか、騎士に憧れてとか、そう言う理由で剣を習ったりして、才能があれば伸びていき、そうでなければ諦めて別のことを探すという感じのようだ。
まあ、中には芽がないにもかかわらず無理をしてその道に進み、結局淘汰されていく悲しい人もいるようだけど、それは今は関係ないので置いておく。
まず、シュライグ君に関してだけど、特に言うことはないと言えばない。
レベル50に上げるまで、ほぼ付きっ切りで育て上げたし、今更どんなスキルが欲しいとか言われても、「アリスさんにお任せします」で終わってしまう。
そもそも、シュライグ君は自分のキャラシすら確認できないし、自分が今何ができるのかは全部記憶で覚えている。
だから、あんまり詰め込みすぎてもいつも使うものしか使えないだろうし、覚えさせるとしてもせいぜいここぞという時の大技くらいだろう。
そして、それもすでに覚えさせているとあっては、これ以上教えることもないんだよね。
一応、ダメージの期待値を伸ばすためにパッシブ系のスキルを取るというのも手ではあるけど、それ全部取るか?
仮にそれだけ取ってレベル100まで行くなら、余裕で俺やカインの攻撃力を超えると思うけど。
今更シュライグ君が裏切るとも思っていないが、一応、シュライグ君の所属はまだアフラーク王国だし、あの王様が騒ぎ散らして民意を強引に動かし、シュライグ君を呼び戻すという線もなくはない。
まあ、呼び戻したところでって感じではあるけど、そこで下手に同情してこちらに牙を向けられても困るし、どこまで強くするかは考え物である。
「シュライグ、やろうと思えばもっと強くなれると思うけど、強くなりたいの?」
「はい。今回の闘技大会で、まだまだ未熟だということがわかりました。もし、ご教授いただけるのなら、強くなる秘密を教えて欲しいです」
「すっかり強さに貪欲になって、ちょっと嬉しいの」
少し前までは城に幽閉されていた可哀そうな子供ってだけだったのにね。
元々剣聖としての才能があったのもあるけど、みんなを守れる力を自分も手にれることができると知ったから、張り切っているのかもしれない。
あんまり強さに貪欲になりすぎて溺れなきゃいいけど。
「アリス様、私もシュライグ様を守るため、さらなる強さを欲します。どうか、できることがあれば教えてください」
「そう慌てないの。今回の闘技大会で、みんなの大体の強さはわかったの。これからは、それぞれに合わせた育成をしていこうと思っているの」
「すでに先を見越しているのですね……。先走ってしまい申し訳ありません」
「アスターさんの気持ちはわかってるから気にしなくていいの」
一緒にいたアスターさんももっと強くなりたい様子。
うーん、どうしたものかね。
シュライグ君に関しては、ダメージ増加系と命中率増加系を中心に取っていけばいいだろう。
できれば他のも欲しいけど、優先順位としては火力優先でいいと思う。
剣を使うクラスはたくさんあるし、ダメージ増加系に困ることはない。
問題はアスターさんだ。
アスターさんはクラススキルを覚えられない。覚えられるとしたら、この世界特有のスキルか、NPCスキルだけ。
武器が銃となると、重要なのは命中率だけど……【命中強化】はとりあえず覚えさせるとして、後は何がいいかな。
「そういえば、銃の使い心地はどうなの?」
「だいぶ慣れてきました。ですが、二丁同時に扱うと少しふらつくことがありますね」
「やっぱりミスリル100パーセントはやりすぎだったの」
銃に関しては、あの時作った銃をそのまま持ってもらっているけど、流石に交換した方がいいかもしれない。
今の銃の重さに慣れてきているならそれでもいいかもしれないけど、ふらつくってことは振り回されてるってことだ。
せっかくの二丁拳銃の長所を潰してしまうのはもったいないし、そのうち作りなおした方がいいかもしれないね。
「後でアスターさんに合わせたきちんとした銃を用意するの。しばらくの間、それで我慢していてほしいの」
「私はこのままでも構いませんが……いえ、ありがとうございます」
「本職の【ブラックスミス】がいればいいんだけど」
そういえば、伝説の鍛冶屋なんて話もあったな。あれも調べないと。
……いや、あれに関してはナボリスさんに丸投げしよう。今それどころじゃないし、絶対忘れる気がする。
ただ調べるだけだったらそこまで苦労しないだろうしね。別に、隠れて営業しているわけじゃなさそうだったし。
「アスターさん、一応聞くけど、その銃を使ってどんなことがしたいの?」
「それはもちろん、シュライグ様をお守りすることです」
「アスターは僕が守るよ?」
「シュライグ様……いえ、嬉しいですが、守られるべきはシュライグ様でございます」
「でも、僕のせいでアスターを失いたくはないよ。アスターが危険だったら、僕はアスターを守るからね」
「……ありがとうございます。私も、全力でシュライグ様を守ります」
「バカップルかな」
いや、恋人と言うには年が離れすぎているし、そもそも主従関係だからそんなことにはならないとは思うけども。
お互いがお互いを守りたいって感じだと、どうしたものか。
シュライグ君に関しては【カバー】を覚えさせてもいいけど、流石にアスターさんが庇う状況はよろしくない。
純粋な耐久力がアスターさんの方が低いしね。そうなると、銃で援護する形になった方がいいんだけど、ちゃんとセオリー通りに動いてくれるかどうか心配である。
まあ、その辺はどうしようもないか。お互いに好き、と言うか信頼しあっているんだから、それに水差しちゃいけないよね。
「まあ、言いたいことはわかったの。そうなると、魔導銃より実銃の方がいいかもしれないの」
魔導銃はMPを消費して弾を発射するが、実銃は実際の弾を使用して弾を発射する。
弾切れを起こさないという点で、魔導銃の方が優秀ではあるんだけど、アスターさんができる幅を広げるとなると、色々な弾を装填できる実銃の方がいいかもしれない。
弾を作るコストがかかるけど、それに関しては少し考えがある。
うまく行けば、コストは最低限で済むだろう。
「とりあえず、新しい銃を作ってくるの。それまでは、その銃で練習しててほしいの」
「わかりました」
「シュライグ、レベルを上げるから少し付き合うの」
「はい!」
「あ、お供いたします」
プレイヤーの皆さんはまだ要望を聞いただけで実際にレベルアップしたわけではないけれど、こちらはもうやってしまっていいだろう。
プレイヤーでない人がこのスキルがいいなんて言えるわけないし、そもそも覚えさせてもすぐにそれを吸収するとも限らない。
剣も銃も、使い込んで初めて効果を発揮するものだと思う。
キャラシを見て気づいたけど、アスターさんに【銃撃】っていうスキルが増えてるしね。
銃があまり浸透していないこの世界での、新たなスキルってところだろうか。
すでに結構なレベルだけど、一体どれだけ練習したんだろうか。
シュライグ君を育てている時から凄かったけど、末恐ろしいものを感じる。
まあ、それはともかく、この世界の人達は手早くレベルを上げてしまうとしよう。
そう考えて、二人のレベルアップを図った。
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