第三百五十六話:本戦、イグルンVSシュライグ
続いて戦ったのはイグルンさんとシュライグ君だった。
イグルンさんに関しては完全に初見なのでちょっと楽しみではある。
まだ体を与えられてからそんなに日が経っていないけど、しっかり使いこなせているだろうか。
「シュライグ様ですね。今日はよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。でも、容赦はしませんので」
「ええ。ええ。どうぞ全力でかかってきてください。私はそのすべてを受け入れて見せましょう」
シュライグ君のレベルは50ちょい。それも俺がほぼ一から育て上げたので、能力値だけでも普通のプレイヤーと遜色ない。
それに、【剣聖のカリスマ】のおかげか、この世界の住人でありながらクラスのスキルも覚えられた天才である。
育てている時はそこまでの違和感もなかったけど、後から考えるとおかしいことに気づいたよね。わかっていたはずなんだけど、ついいつもの癖でクラスのスキルありきで考えてしまう。
まあ、結果的にはよかったけども。
「【オーバードライブ】!」
シュライグ君が剣を構えると、体からオーラのようなものがほとばしる。
【オーバードライブ】は次の攻撃のダメージに補正をかけるスキルだ。
効果としては【ストロングショット】と大体同じである。ただ単に、使う武器が弓か剣かの違いだけだ。
レベルと共に効果も強力になっていくので、初期スキルの中では結構使い勝手がいい。
まあ、特定の相手以外には使わないようにと念を押しておいたけどね。
レベル30の時の俺ですら、【ストロングショット】込みでホーンウルフを木っ端微塵にしてしまったのだ。そんなもの人相手に使ったらスプラッターな光景が広がることになる。
まあ、相手もプレイヤーっていうならレベルにもよるけど普通に耐えられると思うし、そこは許可したんだけど、イグルンさんには許可してなかったような気がするんだけどな……。
イグルンさんは別にプレイヤーと言うわけではない。この世界に置いてとても凄い偉人ではあるけど、あくまでこの世界の住人、つまりはNPCだ。
そんな人相手に本気で攻撃したらただじゃすまないことは目に見えている。
イグルンさんの挑発に乗ってしまった? いや、シュライグ君はそんな軽い挑発に乗るような性格じゃない。
なら、言葉を真面目に受け取りすぎて本気出しちゃった感じかな。それならありそうだ。
一応、【手加減】は覚えさせているから死ぬことはないだろうけど……大丈夫かな。
試合を止めるわけにもいかないので眺めていると、シュライグ君が動く。
剣にも乗り移ったオーラはまるで炎のように揺らめき、飛ぶ斬撃となってイグルンさんを襲った。
それに対し、イグルンさんは軽く手を上げると、小さく呟いた。
「【プロテクション】」
瞬時に形成される結界によって、斬撃が押し留められる。
すべてを吸収したというわけではないが、その大半を打ち払ってしまった。
イグルンさんは微笑みながらもう片手に持った杖で軽く地面を叩く。
すると、地面が輝き始め、新緑色の輝きとなってフィールドを包み込んだ。
「これは……」
「さあ、どうぞもっと全力で。私はすべてを包み込みましょう」
微笑みを絶やさないイグルンさん。その不気味にも思える威圧感を前にシュライグ君は少したじろぐ。
しかし、そこで降参などありえない。シュライグ君は再び剣を握り直し、攻撃を再開した。
「これって、【フィールドバトラー】なの?」
【フィールドバトラー】は、主にフィールドそのものに干渉して戦うクラスである。庭師とも呼ばれることがあるね。
その特徴は、何と言ってもフィールドそのものを描き変える力だ。
その力を利用すれば、フィールドを一瞬で水浸しにすることもできるし、逆に火の海にすることもできる。
さらに言えば、それぞれのフィールド下でのみ使用できる特殊なスキルがいくつかあり、有利フィールドで戦うことができれば、まさに変幻自在と言ってもいい。攻撃、支援、防御、回復、なんでもござれだ。
その中でも、イグルンさんのは恐らく回復特化。今フィールドに敷かれているのは【ヒーリングフィールド】だろう。
これは、フィールド内にいるすべての対象にリジェネ効果を付与するというものである。要は毎ターン回復するってことだ。
効果量はレベル依存なので、今のイグルンさんではそこまで高い効果と言うわけではないと思うけど、【アコライト】も経由しているようだから防御手段は豊富にある。
これ、下手したらシュライグ君一生勝てないのでは?
いや、大技使って強引にねじ伏せれば行けないことはないけど、それを使っていいのは俺達いつもの四人だけと言ってある。俺が特別に許可を出さない限り、シュライグ君はそれを使わないだろう。
延々と回復と防御に徹しているなら負けることもないかもしれないが、勝つこともできない。なんかそんな敵をどっかのゲームで見たことがある気がする。
「はぁはぁ、か、硬すぎませんか?」
「言ったでしょう? 全て受け止めると」
案の定、シュライグ君は息も絶え絶えだ。
【ヒーリングフィールド】は敵も対象に入ってしまうから、シュライグ君にも効果は適用されている。だから、HP的には全く減っていないだろうが、スタミナは減っていくだろう。
それに、【オーバードライブ】を始め、スキルは使用時にMPを消費する必要がある。使用しないものもあるけど、攻撃スキルは大抵消費する。
だから、シュライグ君のMPはもうすっからかんだ。
イグルンさんがMPを回復するフィールドを展開するならまた別だろうけど、それはもう逆にいじめだろう。
MPがなくなってもスキルが使えなくなるだけで戦えないことはないだろうが、スキルを使って攻撃がほとんど通っていないなら勝ち目はない。シュライグ君は、完全に抑え込まれてしまったわけだ。
「……降参です」
「よろしいのですか?」
「はい。今の僕では傷一つ付けられそうにありませんから」
「そうですか。よく頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます?」
試合が終わった後、イグルンさんはシュライグ君の頭を撫でていた。
しかし、【フィールドバトラー】って、また珍しいクラスを持っているね。
確かに、イグルンさんは『スターダストファンタジー』の中でも歴史上に名前が出てくるだけで、どんなクラスかなどは書かれていなかった。
でも、普通に考えて、教会の関係者なら【アコライト】とか【カンナギ】とかそのあたりを想像するだろう。
それがまさか、【フィールドバトラー】だなんて誰が想像するだろうか。
と言うかそもそも、なんで平然とクラスを持っているのだろうか。
この世界ではすでにクラスそのものが廃れてしまっていて、新たにクラスに就くことはできないはずなのに。
あれか? 大昔の人だから、その時のクラスを未だに引き継いでるってことかな?
確かに、クラスに就けなくなったのは三千年前の時代の粛正を境にしてだし、それよりもはるか前に生きていたイグルンさんなら、クラスを持っていても不思議はない。
まあ、それを当たり前のように使えるのは信じられないけど、それだけイグルンさんが優秀ってことだろうか。
プレイヤーではないかもしれないけど、プレイヤーとして扱っても十分通用しそうである。
「なんか面白くなってきたの」
【フィールドバトラー】の育成なんてしたことないけど、どんな風に育てればいいだろうか。
いや、そもそも蓄積された知識のせいなのか、レベルの割に覚えているスキルが多すぎるし、育てなくても十分強かったりする?
これがほんとのレベル詐欺か。
まあ、後でレベルアップを覗いてみよう。そんなことを考えていた。
感想ありがとうございます。
 




