第三百五十三話:みんなの役職
新たな情報も手に入れて、やることも増えた。
レベル上げの問題、装備の問題、スターコアや仲間の捜索の問題、色々と課題は残っているけど、まあ一つ一つ片付けて行こう。
今はひとまず闘技大会でみんなの実力を見るところからだ。
「そういえば、そろそろ闘技大会を開くんだけど、二人とも参加してみるの?」
「ああ、そう言えば張り紙が張ってあったな」
「最近仲間が増えてきて、その実力を見るための大会なんだけど、仲間になってくれるなら二人の実力も見ておきたいかなって」
「なるほどね。どうする?」
「いいんじゃないか? まあ、一対一なら俺はそんなに役に立たんが」
「私も魔物ありきだけどね。それでもいいなら参加してもいいよ」
「じゃあ、リストに加えておくの」
確かに、クラスによってタイマンだと戦いにくいクラスっていうのは割とある。
『スターダストファンタジー』はパーティを組んで遊ぶことが前提だから、支援特化のクラスと言うのも割とある。
特に、ヒーラーとか生産職とかはまさにそんな感じだろう。
一応、戦う術が全くないってことはないが、前衛のクラスと比べるとかなりの差がある。
そう言うクラスがタイマンで勝つには、回避をめちゃくちゃ上げるのが一番手っ取り早いだろうか。
回復するだけなら足が遅くても問題はないが、多くの場合で支援スキルっていうのは戦闘の最初に受けたいものである。
だから、支援職は敏捷に振るビルドも割とよくあり、それに伴って回避も高い。
そこをさらに伸ばしてやれば、相手の攻撃は食らわず、自分だけバフをかけて上がった攻撃力で殴り倒すっていう戦法も取れなくはない。
まあ、それでも戦闘は運ゲーなところがあるから、クリティカルされたら終わりなんだけどね。
「二人には部屋を用意しておくの。後で案内してもらうといいの」
「いいの? 普通に宿に泊まるつもりだったんだけど」
「そっちがいいならそれでもいいけど?」
「いや、せっかく用意してくれるんだったらお言葉に甘えるわ。ありがとね」
「仲間になってくれたんだからこれくらいは当然なの」
まあ、仲間にならなくても滞在している間は部屋くらい用意してたけどね。
というか、仲間にしたはいいけど、その役職も決めないといけないよな。
別に何の役職も持たない無職でも問題はないけど、ここは実力至上主義、無能な者が生きていくことは難しい場所である。
たとえ周りをひれ伏すことができる力を持っていても、それを使わなければ何の意味もない。強いなら強いなりに、その役目を果たさなければならない。
だから、貴族となって領地の管理をしたり、あるいは兵士として国に仕えたり、それなりの理由が必要になるわけだ。
今のところ役職が決まっているのは、カインが将軍で、シリウスが宮廷治癒術師、サクラは何にもないけど、まだエルフの国の要人と言う扱いだから、正確にはこの国の人じゃないから問題はないだろう。
さっさとこの国の人にしたいのは山々だけど、エルフ達がなぁ……。
まあそれはいいとして、それくらいである。
一応、グレイスさんは兵士として勤めているし、シュライグ君は非公式とはいえ剣聖である。アスターさんも、その補佐をするメイドと考えれば役職がないわけではない。
となると、ないのはシュエとクズハさん、イグルンさん、そしてエンズさんとセンカさんか。
全員城勤めにしてもいいけど、いくら強くてもぽんぽん外部から人を入れまくってたら流石に怒られそうだし、まじで何か考えないと。
ただ単に、有事の際に働いてくれる予備戦力ってだけでいいなら楽なんだけどな。
「部屋の手配には少し時間がかかるの。それまで、町でも見て回っているといいの」
「そうさせてもらうわ。あ、特産とかないの? これが美味しいとか」
「特産……そう言えば考えたことなかったの」
ヘスティア王国は資源的に見ればそこまで貧弱なわけじゃない。森からは豊富な木材や狩りによる動物の肉や皮が取れるし、山には鉱山もある。農業だってできるし、畜産だってできるだろう。できないのは、漁とかかな? 海に面していないし。
貿易に関しては最近まで周りの国に喧嘩売ってたせいでちょっと貧弱ではあるけど、少しずつ改善しているし、何か特産があってもいいとは思う。
「ナボリス、何が特産かわかるの?」
「強いて言うなら酒でしょうか。この町は酒豪ばかりですからな」
「お酒かぁ、悪くないかも」
「お前酒弱いだろ」
「そんなことないよ」
「それを本気で言ってるなら記憶が飛んでるな」
エンズさんがセンカさんをからかっている。
お酒はなぁ、この世界では年齢制限はないみたいだから普通に飲めるけど、俺自身はそんな得意でもないと思う。
アリスはそこそこ得意みたいだけどね。少なくとも、誰かに付き合って飲むくらいだったら余裕だろう。
そこに俺の意識が入ってどうなるかが問題だが。まだまだいけると思うと同時にもうだめだって思うのだろうか。なんかそれはそれで見て見たい気もするけど。
まあ、飲むとしてもほどほどにしておこう。
実際、イナバさんと入れ替わっていた時にやらかしているし、気をつけないと。酒は飲んでも呑まれるなってね。
「じゃあ、しばらく町でぶらぶらしてるから、夕方になったらまた来るわね」
「門番には伝えておくの。ゆっくり羽を伸ばすといいの」
「ありがと。それじゃあね」
そう言って、二人は謁見の間を後にした。
なんというか、あんまり変わらない二人だったな。
思うんだけど、俺達って年を取らないんじゃないか?
この世界に来てからすでに三年以上経つわけだが、未だにみんな見た目が変化していないし。
自分ではわかりにくいけど、あの二人を見ていると全く変化がないことがよくわかる。
そうなると、俺はずっとこのお子様体型ってことか。確かに小さい子が強いっていうのは好きだけど、自分がなるのはちょっとなぁ……。
「アリス陛下、あの者達とはどこで会ったので?」
「ん? ああ、ええと、お茶会の時に?」
「どう見ても人間でしたが、エルフとの茶会ではなかったのですか?」
「あ、え、ええと、ど、道中で出会ったの」
「なるほど、そういうことですか」
ナボリスさんがジト目を向けてくる。これ、絶対信じてないよね。
いや、元々エルフのお茶会っていう建前を疑っている可能性がある。
あの頃は、毎日城に戻るなんてしてなかったからね。だから、エルフから来たお茶会の誘いだって誤魔化して行っていたわけだけど、結局誤魔化しきれてなかったようだ。
でも、どうせ行かなければならない場所だったし、仕方ないと思う。
最終的にナボリスさんも許してくれたんだから大目に見てほしい。
「まあ、今はもう何も言いません。ただ、無事に帰ってきてくだされば」
「ちゃ、ちゃんと遅くなる時は言うの」
「ええ、ぜひそうしてください。そうでないと、心配してしまいますからな」
「善処するの」
まあ、頭ごなしに王様なんだからおとなしくしていろと言われないだけましだろう。
望んで王様になったわけではないのにそんなこと言われたら、さっさと出て行っているどころか報復しているかもしれない。
実際、ヘスティア王国がどうなろうと知ったこっちゃなかったしね。あの時は、シリウスさえ助けられればそれでよかったのだから。
そう考えると、だいぶ王様も板についてきたのではないかと思う。
相変わらず国の運営はナボリスさんに投げっぱなしだけどね。
俺も何かやった方がいいのかなと思いつつ、多分邪魔にしかならないだろうなと考えを改めるのだった。
感想ありがとうございます。




