第三百五十一話:久しぶりの来訪者
闘技大会までは少し間がある。だから、その間に兵士達のこととかを確認しようとしていると、来客があった。
今は珍しく遠出していないので、すぐにでも対応することができる。
さて誰だろうと謁見の間にて待っていると、見覚えのある二人組が入ってきた。
「お久しぶりです、国王陛下……とでも言えばいいのか?」
「久しぶり、アリス」
「エンズさんにセンカさん。久しぶりなの」
やってきたのは、以前魔女の村で出会ったあの二人だった。
教会にこき使われて、誓約により無理矢理魔女狩りに参加していた二人だったが、俺が『リビルド』して誓約を消したので、教会から逃げ出した。
あの後どうなったかは耳に入ってこなかったけど、なんか元気そうだし、そこまで大事にはならなかったってことかな。
「王様とは聞いていたけど、ほんとにそうなんだね。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「似合わなくて悪かったの」
「そんなこと言ってないでしょ。ここ実力至上主義みたいだし、アリスが王様なのは納得してるわ」
「おい、あんまり軽口を叩くな。隣の宰相様がお怒りだぞ」
「おっと、これは失礼しました」
俺は別にため口でも気にならないけど、ナボリスさんはちょっと気にしている様子。
まあ、ナボリスさんにとっては見たこともない人達だしね。そんな人達が王様である俺に軽口叩いてたら不快な気分にもなるだろう。
これは応接室で会った方がよかったかな? 二人だって知ってれば、わざわざ謁見の間に通すこともなかったのに。
「ナボリス、二人は友達だから多少の発言は気にしなくていいの」
「……承知しました」
「それで? ここに来たってことは、うまく撒けたの?」
「一応ね。いや、撒けたとは言えないかもしれないんだけど」
センカさんは友達に語り掛けるようなテンションで話し始める。
どうやら、二人は所属していた教会の不正をかき集めるために忍び込んでいたようだが、運悪く見つかってしまい、追われることになったようだ。
まあ、どのみち教会から抜けるんだから、追われてはいただろうけど、思ったよりも早く見つかってしまい、追手と対峙することになったらしい。
しかし、『リビルド』による強化の恩恵はすさまじかったようで、あっという間に制圧できたのだとか。
だが、殺すわけにもいかず、結局二人の存在は教会に知れ渡り、追手に追われる日々が始まった。
指名手配され、町では悪魔の遣いだと罵られ、結構大変な思いもしたようだ。
しかし、掴んだ不正の証拠はきっちり保管していたようで、訪れる町々でそれらの情報をばらまき、教会への信頼を失墜させていったという。
最初は敵しかいなかった周りも、次第に味方が増えていき、ついには教会側から謝罪の文書を引き出したのだとか。
まあ、その内容は、その教会は自分達とは全く関係ない思想であり、自分達は関係ありません、と言うトカゲの尻尾切りのようなものだったらしいが。
ついでに今度こそちゃんと扱うからぜひ教会に入ってほしいと言われたみたいだが、当然断ったようだ。まあ、そりゃ当然だよね。
そして、敵がいなくなり、自由の身となったということで、以前出会った俺に会いに来るために、こうしてヘスティアを訪れた。そう言うことらしかった。
「大勝利してるの」
「まあ、大勝利っちゃ大勝利なんだけどね……」
「なに、何か都合の悪いことでもあったの?」
「ええと……」
「別の追手が増えたな」
「別の追手」
元々、二人は教会にとっては魔女狩りのエースだった。
それは町の人達にも知られていたし、なんなら他の教会を通じて別の町にも伝わっていた。
そんな二人が、裏切り者として指名手配されたと思ったら、逆に教会を叩きのめしていった。
町の人達からしたら、二人は悪をくじいたヒーロー的な存在だったわけだ。
だからなのか、色々な人が二人を求めて追いかけてきたらしい。
二人に師事したい者、腕試しを挑みたい者、一目会いたいからと言う憧れから追いかける者など、かなりの人気者になってしまったようだ。
おかげで、行く先々でトラブルが起こり、結構疲れてしまったらしい。
それもあって、俺の国に逃げ込んできたという理由もあるようだ。
「それは何というか、ご愁傷様なの?」
「まあ、ここもここで結構勝負を挑まれたりしたけどね」
「それに関してはお国柄なの。気にしないでほしいの」
「どんなお国柄よ」
だって、元々この国は実力至上主義。
目が合ったら勝負を仕掛けてくる某ゲームのように、そこらへんで腕試しをするなんて日常茶飯事だ。
まあ、辺境とかになるとそうでもないみたいだけど、王都に近ければ近いほどそう言う傾向は強いと思う。
わきまえている人だったら、わざわざ他国から来た人にちょっかいかけないんだけどね。二人はよっぽど強そうに見えたのかもしれない。
特にセンカさんは別の意味で勝負を挑まれていそうだし。露出的な意味で。
「まあ、二人にはそろそろ会いたいと思ってたの。だから来てくれたのはちょうどよかったの」
「何か用事でもあった?」
「用事と言うか、もっと根本的なものなんだけど」
俺は二人に仲間になってほしい旨を伝える。
最初に出会った時は、色々事情もあったし、仲間の重要性にも気づいていなかったから仕方なかったとはいえ、今こうして出会えたのだから勧誘するのは間違っていないだろう。
あの時から変わっていなければ、二人のレベルは58のはず。しかも、きっちり『リビルド』してステータスを割り振った形だ。
普通に強いし、戦力として加えられたらかなり重宝するだろう。
「いいんじゃないか? ここで匿ってもらえるなら、余計なちょっかいも減るだろう」
「んー、匿って貰ってもちょっかい自体はなくならない気もするけど……まあ他の国よりはましか」
「俺達はアリスに恩がある。仲間になるだけでそれが返せるなら安いものだろう」
「それもそうね。いいわ、その話乗ってあげる」
「感謝するの」
断られたらどうしようかと思ったけど、何とか受けてくれたようだ。
さて、これで【ソーサラー】と【ビーストテイマー】が手に入ったわけだけど、育成が大変という話をしていたのにまた増えてしまった。
いやまあ、この二人に関しては結構がっつり育成してあるし、後は今まで稼いできたであろう経験値を使ってもう少しレベルを上げる程度で済むかもしれないけど、それでも負担が増えることに変わりはない。
でも、この役割を代わりにできる人はいないから俺が頑張るしかない。
育成係欲しいなぁ……。
「ああ、聞いておきたいんだけど、今までに私達の同類を見たことはあるの? できればその人もスカウトしたいんだけど」
「私達の同類? んー、そうね、姿は見たことはないけど……」
「それらしい噂話なら聞いたことがあるな」
「ほう、詳しく聞かせてほしいの」
ダメ元で聞いてみたんだけど、どうやら何か知っている様子。
これで優秀な人材だったら育成を任せられるかもしれないし、ちょっと楽しみかもしれない。
俺はちょっと身を乗り出しつつ、二人の話に耳を傾けた。
感想ありがとうございます。




