第三百五十話:闘技大会の予定
闘技大会は一週間後に開かれることになった。
元々、ファウストさんを初め、多くの人々が闘技大会は熱望しているし、いざ開くとなったら早い方がいいってことでかなりスムーズに事は進んだ。
今回参加するのは、シリウスを除いた俺達三人に加えて、グレイスさんやシュライグ君、アスターさん、シュエ、そしてクズハさんとイグルンさんである。
もちろん、その他にも一般枠として兵士達や町の人達も参加しているが、正直彼らにとってはあんまり面白くない大会になるかもしれない。
いや、むしろ奮起するのかな? 今までは、ファウストさん一強だったのが、俺が王様になった瞬間、いろんな人が出てきたわけだし。
強くなって王様になりたいとか、国に仕官したいとか、そういう人達にとってはちょっと面白くない状況かもしれないけど、戦い好きの人達からしたら戦いがいがある人達が増えて燃えるってところかもしれない。
割合的には後者の方が多いだろうし、前者に関してはそのうち一般枠だけの闘技大会も開いてみてもいいかもしれない。
本来闘技大会は王様である俺は強制参加だけど、それもない、カジュアルな感じの大会があってもいいと思う。
せっかくの闘技場なんだから、俺の気分だけで開くのはもったいないし。
「みんな参加はしてくれるみたいだけど、果たしてどうなるか」
「アリスが勝つのは当然として、普通にやったらカインがまた勝ちそうだな」
「それかサクラでしょうね」
「私? んー、まあ、接近されなければいけそうだけど」
今回参加する中で、最もレベルが高いのはグレイスさんだが、それはこの世界基準でのことである。
能力値で見るなら、多分高くてもレベル20ってところじゃないだろうか。
他の人も、シュライグ君とアスターさん以外はみんなレベル20以下である。レベルだけを見るなら、カインやサクラが勝つのが順当な結果だろう。
まあ、シュライグ君は割といい線行ってくれそうな気がするけど。
「結局アリスが勝つならあんまりやる意味はないんじゃない?」
「意味はあるの。これはただ単に、みんなの実力を見たいだけだから、勝ち負けはどうでもいいの」
もちろん、王様として、俺は絶対に勝たなければならないが、他の人達は別に勝とうが負けようが関係ない。
あくまで現時点でどの程度なのか見るのが重要なのだ。
「サクラも下手すると足元を掬われるかもしれないの」
「んー、負けるつもりはないけど、壁役がいないときついのは事実だからなぁ」
「火力はピカ一だが、防御は高いわけじゃないからな」
サクラは典型的な魔法アタッカーだから防御についてはほとんど考えていない。
シリウスの【プロテクション】やカインの【カバー】があること前提であり、案外攻撃されると脆いのだ。
まあ、来る敵すべてを薙ぎ払えるなら関係ないけど、少なくともカインとかを相手にするなら無理だろうな。
「一人で何でもできるようにするのも手ではあるけど、極められるうちは一つのことを極めた方が強くなるとは思うの」
「それはそうだろうけど、魔法を極めるのって難しそうだよね」
「一つの属性だけでも魔法ダメージを伸ばすスキルはたくさんありますからね。それらすべてを網羅するとなれば、かなり道は長そうです」
「今でも結構取ってると思うが、まだ火力上げる必要あるか?」
「これから戦う相手を考えればやりすぎなくらいでちょうどいいの」
「まあ、確かにそうか」
多分だけど、粛正の魔王って、ボスと言うか、レイドボスだよね。
いくつものパーティも集まって倒すような敵と考えれば、一人が出せる火力を上げるのは間違っちゃいない。
まあ、最低限の耐性スキルと防御は必要かもしれないが、それ以外は全部火力でも問題はない気がする。
特に、後衛からぶっぱする系の魔法使いであるサクラは。
「そう言えば、シリウスは今回も参加しないの?」
「ああ、俺はヒーラーだしな」
「ヒーラーでも戦えないことはないかと思いますが」
「それはそうかもしれんが、お前みたいな化け物と戦いたくないわ」
「化け物とは心外ですね。一般人から見たら、あなたも十分化け物でしょうに」
「……俺は支援がメインだからいいんだよ」
前回、シリウスはヒーラーと言うことで参加しなかったが、今回は参加してもいいとは思う。
別に勝ち負けが見たいわけではなく、実力を見たいだけだし、シリウスが負けたところで誰も文句は言わないだろう。
シリウスが戦う場面はあまりないし、俺も見てみたいしね。
……うん、そう言うことだし、今回は強制参加させようか。
「シリウス、今回は強制参加なの」
「なんで!?」
「いくらヒーラーとは言っても【クルセイダー】が弱いわけないの。実力も見たいし、大人しく参加するの」
「えぇ、まじかよ……」
シリウスは心底嫌そうな顔しているけど、もうこれは決定事項である。
と言うか、前に俺も活躍したい的なことを言っていたんだから、ここで活躍すればいいだろう。
相手はカインを含め化け物揃いだけど。
「初戦敗退しても文句言うなよ?」
「流石に初戦敗退はしないと思ってるけど、別に馬鹿にするような奴はいないの。いたらぶん殴ってやるの」
「まあ、それならいいけどさ……」
さて、これでシリウスも参加することになった。
今も募集をしているけど、今回は何人集まるだろうか。前回よりは少ないといいんだけど。
「闘技大会で実力を見るってことは、その後は育成か?」
「その予定ではあるの。ちょっと大変そうだけど」
少なくとも、グレイスさんとシュエ、クズハさんは育成しないとだめだろう。
グレイスさんはレベルこそ高いが、それ以外にスキルをほとんど覚えていないし、もっと強力なスキルを覚えさせてあげたいところ。
シュエは種族的にかなり強いが、まだレベル8だ。今の経験値でももっと上げることはできるけど、とりあえず戦いを見せてもらって、どういう方面で育成したいかを見極めたい。
クズハさんもせっかくセカンドクラスを取れるんだから取った方がいいだろう。セカンドクラスを取ると一気に幅が広がるから、どんな方面に育てていくのか少し楽しみでもある。
ただ、人が多い。
経験値を稼ぐだけだったら、ちょっと魔物を倒せばいいだけだけど、レベルアップできるのは俺だけだ。
別に苦とは思わないけど、それだけの人を数十レベル単位でレベルアップさせようとなったら結構な時間がかかる気がする。
それに、カイン達のレベルももっと上げたいし、レベルアップはいくらやってもなくならない。
ここからさらに人を増やそうと思っているんだから、せめて経験値稼ぎくらいは誰かに任せたいところだ。
何かいい手があればいいのだけど。
「ま、なるようになるの」
仲間の質を上げることは結構重要である。
人間関係とかもそうだけど、実力に関しては俺にすべてがゆだねられていると言っても過言ではない。
どう導き、どういう役割を与えるか、それを考えるのが大変なところだ。
せいぜい、大きく崩れることがないようにしてあげたい。戦いが終わっても、生活は続くんだから。
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