第三百四十九話:解決策
クズハさんが恐れているのは、自分の体が乗っ取られることだろう。
【カンナギ】と言うクラスの関係上、自分の体に何かを憑依させるのは普通のことではあるが、それが常に善良な魂とは限らない。
スキルで降ろすものは神様だから、まだ何とかなるかもしれないが、その辺の魂はそうはいかない。
まあ、イグルンさんはどちらかと言えば善良な方だからまだましかもしれないけど、暴走してしまう可能性がある以上は安心できない。
だから、根本的な解決をするためには、そもそも憑依をさせないことだ。憑依されなければ、少なくともそれで体を乗っ取られることはないわけだから。
でも、今は自分の体の中にすでに別の魂があり、その魂は追い出すには惜しい存在だと言われている。だから追い出すに追い出せない。
しかし、俺が求めているのはクズハさんの体を使うイグルンさんではなく、クズハさん、そしてイグルンさん自身だ。であれば、別に体を用意してやればいい。
「イグルンさんには新しい体を用意させてもらうの。その体に宿ってくれれば、クズハさんの体からイグルンさんはいなくなるの」
「新しい体……? そんなことできるんですか?」
「前にもやったことあるし、多分行けるの」
まあ、これには色々材料が必要となるが、これを見越してすでに材料は集めてある。
後はクズハさんとイグルンさんの同意さえあれば、すぐにでもホムンクルスを製作し、その体をイグルンさんに提供できるだろう。
「……よくわかんないですけど、そうすれば、私の体からイグルンさんはいなくなるんですか?」
「そうなるの。イグルンさんとしても、他人の体を使うよりは負担は少ないと思うの」
「そういうことなら、お願いできますか?」
「任せるの。すぐにでも用意するの」
無事に同意も得られたことだし、さっそくホムンクルスの製作と行こう。
本来、ホムンクルスを作成する時は、意思がある状態で完成するが、今回は意図的に意思を芽生えさせないで作ることになる。
ルナサさんの時と同じだ。
むやみに命を作り出すのはちょっと抵抗があるけど、ただの体を作るだけだったらそこまでの抵抗はない。
もちろん、作る以上はきっちり作るけど、この体をどう扱うかはイグルンさん次第だ。
「ふぅ……【ホムンクルスクリエイト】」
いったんクズハさんを部屋から出し、ホムンクルスを作成する。
相変わらず、作るとなると一瞬だな。
見た目だけど、クズハさんの見た目に少し寄せてある。
髪色は金で、瞳は黒、クズハさんと逆の形だ。そして、同じく狐獣人である。
イグルンさんとしても、ずっとクズハさんの体で活動してきたわけだし、寄せた方が使いやすいだろう。
後は適当に服を着せて……よし、これで大丈夫。
「クズハさん、入ってくるの」
「は、はい、失礼します」
クズハさんが遠慮がちに入ってくる。
ベッドに寝かされているホムンクルスを見て、目を見開いていた。
ホムンクルスを見るのは初めてかな? まあ、普通は見ないか。この世界ではだいぶ廃れている技術のようだし。
「こ、これが、新しい体ですか?」
「うん。後はイグルンさんをこの体に降ろすだけなの」
「そう、ですね。でも、どうやって?」
「そこらへんは任せるの」
普通、魂を別の体に憑依させるのは難しい。
【シャーマン】や【カンナギ】はそれができるけど、生きている人の魂を抜きだしたりはできないし、別の体に宿っている魂を無理矢理引きはがすこともできない。
一応、同意の上だったり、自分の体に憑依している魂を追い出すことくらいはできるけど、案外できることは少ないのだ。
しかし、それでも応用すれば死した魂を器に憑依させて疑似的に蘇らせることはできる。
まずはクズハさんの体からイグルンさんの魂を引きはがさなければならない。
これには、クズハさんが【リターン】を使う必要がある。俺の力だけでは、それはできないから。
そして、魂が体から離れた瞬間に俺が【ネクロマンシー】によって器に憑依させる。
【ネクロマンシー】は魂を器に憑依させて意のままに操るスキルだ。俺はすでに【シャーマン】ではないが、スキルは変わらず使うことができる。
最悪間に合わずに魂が天に昇ってしまっても、【コール】を使えばまだ呼び戻すことは可能だろう。
すでに一回やったことだ。だから何とかなるはずである。
「はっ……」
先程の手順でクズハさんの体からイグルンさんの魂をホムンクルスに憑依させる。
クズハさんはその場に膝をついたが、それと同時にホムンクルスの目が開いた。
「ふむふむ、これが新しい体というものですか」
「一応確認するけど、イグルンさんで間違いないの?」
「はい、私はイグルンでございますよ」
ワンチャン、スムーズにいかずにその辺にいる魂が憑依してしまう可能性もあったが、無事にイグルンさんの魂が憑依してくれたようだ。
イグルンさんはひとしきり体を確認すると、立ち上がってクズハさんの前に立つ。
クズハさんはびくりと体を震わせていたけど、逃げることはしなかった。
「クズハ様、今まで体を貸していただきありがとうございました。私の願い、その欠片だけでも叶えられたのは、あなた様の優しさのおかげです。本当に感謝しています」
「え、あ、えっと、は、はい……」
「こうして体をいただき、離れ離れとなってはしまいましたが、私の願いを聞き入れてくださったクズハ様のために、誠心誠意恩返ししていきたい所存です。どうかこれからも、私をそばに置いていただけますか?」
「ま、まあ、もう体は貸せないけど、それでもよければ……」
「ありがとうございます。私、頑張りますね」
びくつくクズハさんと微笑みを浮かべるイグルンさん。
こうしてみると姉妹のようだと思うけど、この場合どっちがどっちになるんだろうね?
年齢的には、イグルンさんの方がよっぽど上だからイグルンさんが姉だろうか。
できることなら、仲良くしてほしいね。
「アリス様もありがとうございました。この体、大切にさせていただきます」
「倒れない程度に頼むの。以前と違って、その体はきっちり疲れも感じると思うの。前の調子で動いていたら、すぐにばててしまうの」
「心得ております。ご迷惑をかけたクズハ様のようにならないように気を付けますね」
「わかってればいいの」
さて、これでクズハさんの問題は片付いただろうか。
憑依していたイグルンさんも体を得たことによって、実質仲間が二人加わったようなものである。
クズハさんにも意識を取り戻した後に仲間になってくれないか相談したけど、嫌そうな雰囲気ではなかったし、これで正式に仲間に加わったとみていいと思う。
仲間が増えるのは喜ばしいことだ。この調子で、世界中に散らばっているであろうプレイヤー達もどんどん仲間にしていきたい。
来るべき戦いに備えるためにもね。
「さて、後は闘技大会の準備なの」
クズハさんにも参加してほしかったから少し様子を見ていたが、これで憂いはなくなった。
まずは闘技大会でみんなの実力を見る。そして、どんな戦闘スタイルなのか、どういうビルドを目指しているのかを把握し、それに合わせたクラスやスキルを獲得させる。
その後は、また仲間探しかな。後は、スターコアの捜索もしなければ。
やることいっぱいだなぁ。具体的にいつ魔王と戦うかわかっていないし、ちょっと不安ではある。
まあ、三千年も経っているんだし、すぐにどうこうってわけではないとは思うけど、今来られたら勝てないからなるべく急いだほうがいいかもしれない。
そんなことを考えながら、ナボリスさんに闘技大会のことを相談しに行くことにした。
感想ありがとうございます。




