第三百四十七話:一段落して
その後、クズハさん改め、イグルンさんは領主の家へと帰っていった。
イグルンさんとしては、せっかく動けるのだから、その時間を存分に使いたいと思っているようだが、休まなければ人は体調を崩すものだ。
魂だけの状態になって忘れているのかもしれないけど、少しは気を使ってほしいものである。
あ、状態異常はちゃんと治療しておいたよ。
まだ完全復活とまではいかないだろうけど、これでだいぶ楽になったことだろう。
いつからあの状態なのかは知らないけど、特に呪いなんかはかなりきつかったんじゃないだろうか。
本当に生きていて何よりである。これでクズハさんの方が参ってしまって、完全に成り代われれていたら貴重なプレイヤーを失うところだった。
まあ、イグルンさんはイグルンさんでかなりの強者って感じがするけども、そう言う問題でもない。
イグルンさん自身が感じなくても、クズハさんの方はちゃんと疲れを感じてしまっているということも教えたし、今後は少しは自重してくれることだろう。少なくとも、無茶振りに応えるようなことはしなくなるはずだ。多分。
「さて、これで一段落ではあるの」
「ですね。思ったよりも話のわかる人で何よりでした」
「悪意があってやってたわけじゃなくてよかったな」
もしかしたら戦闘になるんじゃないかとひやひやしていたけど、そう言うわけでもなくて何よりである。
一応、レベル差という点では圧倒的な差があるけれど、レベル20は普通に強い部類だし、それに下手に傷つけるわけにもいかない以上かなり不利になっていただろうしね。
俺達は殲滅することは得意でも、手加減することは苦手である。スキルで最低限殺さないようにはできるけど、全く傷つけずに無力化するというのは無理だ。
せいぜい、素手で戦ってダメージを抑えるくらいだろうか?
「もう祭りも終わりだが、この後はどうする?」
「そのうち来るっていうなら待っててもいいけど、多分貿易が再開されるのはしばらく先になると思うの」
邪魔になっていたリヴァイアサンはすでにいなくなっているが、それを確認するためには一か月とか二か月とかかけなければならない。
それに、一度確認していなかったとしても、それがたまたまなのか、完全に移動したのかを判断するのも難しいだろう。
何度か見ていって、十分にリヴァイアサンの目撃情報がないことがわかれば、ようやく貿易再開と言ったところか。
「それまで待ってもいいけど、それだと多分早くて半年後とかになりそうだから、頃合いを見て連れて行こうと思うの」
「まあ、半年も待ってられないしな。やることも色々あるし、早いところ馴染んでもらいたいしでさっさと連れて行くに越したことはないか」
「あの様子だと、回復したらすぐにでも旅に出て行ってしまいそうですけどね」
「確かに」
まあ、その辺はちゃんと約束をしておこうと思う。
多分だけど、あんだけストイックな性格なら、注意してもすぐに同じことを繰り返しそうだ。
もちろん、クズハさんを使い潰したいわけじゃないと思うから、多少は自重するとは思うけど、いつもの癖でうっかり、なんてこともあるかもしれない。
だから、そのためにも監視役が必要だと思う。あるいは、通信手段か。まあ、手っ取り早いのは【テレパシー】かな。
後、クズハさん自身の戦闘力も見ておきたい。
イグルンさんが悪党を退けているところを見るに、強いは強いんだろうけど、それがイグルンさん自身の能力なのか、クズハさんの能力なのかはわからない。
同じ体である以上、イグルンさんもクズハさんのスキルは多少使えるんだろうが、どれほど戦力に開きがあるのか。
そうなると、旅に出してあげられるのはしばらく先になりそうかな。まあ、できることなら旅に出ないでずっとヘスティアにいてもらいたいんだけども。
「シュエの戦闘力も見ておきたいし、近いうちに模擬戦をやってみるのもいいかもしれないの」
「そうだな。俺達も最近あんまり戦ってないし、戦闘力の確認はしておいた方がいいだろう」
「なら、闘技大会を開いてみては? ファウスト殿辺りは飛び付きそうですが」
「んー、まあ、その方が見栄えは良さそうなの」
せっかく立派な闘技場があるのである。それを生かさない手はないだろう。
まあ、プレイヤーはこの世界の人達と比べるとかなり強いから、その戦力を隠匿したいなら闘技大会はちょっと都合が悪いかもしれないけど、別に隠したいわけではない。
ヘスティアは元々実力主義だし、強くて扱いが悪くなるということはないだろう。
むしろ、その方が要職に就けやすいし、実力は示すべきだと思う。
「リベンジ、と言いたいところですが、今回はどうなるでしょうね」
「順当に行くなら、勝ち進むのはカインかサクラになりそうだけど、グレイスさんやシュライグも見ものではあるの」
まあ、グレイスさんに関してはまだそんなに鍛えたわけでもないから、せいぜいレベルが高いってだけだけど、逆に言えば鍛えれば化ける可能性は十分にある。
せっかく【レベルドレイン】なんてチートスキル持ってるんだから、どうにかして活用しないともったいない。
レベルが高いだけだと対して強くはないけど、レベル依存のスキルと組み合わせれば強くなりそうな予感はしている。
すでに上がっている分は仕方ないけど、ここから先はちゃんと俺がレベルアップさせてあげて、ボーナスも割り振って、長所を伸ばしていこう。
「楽しみですね」
「やるのはいいが、あんまり派手に暴れすぎるなよ? 強過ぎて奇異の目で見られるっていう可能性もあるんだから」
まあ、それは確かに。
同程度の実力で切磋琢磨できるなら楽しいけど、あまりにも実力がかけ離れていると、追いつきたいというよりは諦めてしまうこともあると思う。
あの強さの源は何だと奮起してくれるならともかく、あれには一生勝てないと思って無気力になられるのは困る。
と言っても、ファウストさんに圧勝した俺に対してもまだ勝つ気でいる人は結構いるみたいだし、そんなに気にしなくてもいいかもしれないけど。
「まあ、そこらへんはうまくやるの。いらぬ心配ではあると思うけど」
「だといいが」
さて、闘技大会を開くのはいいとして、その後は何をしよう。
今のところ、仲間は順調に増え続けている。グレイスさんやシュライグ君、アスターさん、それにシュエに、まだ確定ではないけどクズハさん。
シュエからは他にも幻獣の冒険者がいるという情報も貰ったし、以前出会ったセンカさん達もそのうち来ると言っていたから、もしかしたら彼女達も仲間になってくれるかもしれない。
さらに新たな仲間を探すか、それともいったん育成に入るか、悩ましいところだ。
「やっぱり、育成係は欲しいところなの」
今のところ、兵士達に関してはファウストさんや他の将軍達が主導となって育ててくれている。
だが、プレイヤーや一部の高レベルの人達はその輪に入りにくい。
足並みを揃えるなら、どうしても彼らにとっては効率の悪い狩りをしなくてはならないだろう。
だから、彼らを専門に鍛える人が欲しいところである。
一番いいのはやはり【ティーチャー】か、あるいは凄い限定的だけど【ラッキースター】とかだろうか。
【ラッキースター】は幸運な人と言う意味で、すべてを運で解決するという博打クラスである。
ただ、その分経験値を多く獲得できるなどの優遇措置、と言うか救済措置もあったりして適当に遊ぶ分にはレベルが早く上がって面白い。
そこら辺の育成に向いたクラスの人を仲間にできればいいんだけどなぁ。
「まあ、地道にやるの」
仲間を探すにしても育成するにしても時間がかかる。
まずはできることを一つずつ片付けて行こう。
そう思いながら、城へと戻っていった。
感想ありがとうございます。
今回で第十一章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十二章に続きます。




