第三百三十三話:ある意味で必須の能力
「確認したいんだけど、シュエはその……人間なの?」
〈リヴァイアサンだよ? んー? 違う、リヴァイアサンだよ! ……あれぇ?〉
一応確認してみたけど、間違いなさそうだ。
リヴァイアサンだと答えるのは設定のせいだろう。俺も自分のことを人間だとは言えないし。
シュエと言う名前も多分本名ではないだろうな。喋り方も子供っぽくはあるけど、本当に子供かどうかはわからない。そう言う設定かもしれないわけだし。
「うーん、どうしよう……」
十中八九プレイヤーではあるんだろうけど、どう保護したものか。
リヴァイアサンは基本的に水中で生活する魔物である。だから、もしヘスティアに連れ帰るなら、巨大な水槽か何かが必要になってくるだろう。
そんなでかい水槽用意できる技術はないだろうし、あってもそんな場所に閉じ込めてしまっては可哀そうだろう。
だから、保護する場所としては海が好ましいけど、ヘスティアは海に面していないからかなり面倒である。
こうして生き残っている以上、他の魔物は寄ってこないか、倒せるだけの実力はあるんだろうけど、だからと言っていつまでも海に残しておくのもなぁ……。
いや、場所がないんだからしょうがないんだけど、心配でしょうがない。
ただでさえ、今は貿易の邪魔になっていて恐れられているのだ。仮に移動させても、そのうちふらっとまたきそうで怖い。
せめてどっかに無人島でもあれば、そこを拠点にして、保護もできなくはないけど、そんな都合よく島なんてないよなぁ……。
〈ねぇ、何を悩んでいるの? 陸の場所忘れちゃった?〉
「んー、忘れてはいないけど、そこに案内するのはちょっと問題があるなぁって……」
〈えー、なんでぇ?〉
「確かに水棲幻獣も肺呼吸はできるだろうから忘れてるかもしれないけど、本来リヴァイアサンは海に生息する生き物なの。そんなのが陸に近づいたら、みんなパニックを起こしちゃうの」
〈えー、それは困るなぁ〉
「あの人も、シュエがここにいると貿易の邪魔だって言ってるんだよ」
〈シュエ邪魔? ここにいちゃダメ?〉
「ああ、そんな悲しそうな顔しないでほしいの。なんとかするの」
リヴァイアサンの癖に表情が豊かである。
思わず何とかすると言ってしまったけど、さてどうしよう。
さっきも言ったけど、ヘスティアに連れ帰るのはほぼ不可能。このまま海に放しておくには危険が多すぎる。
どっちにしても問題は場所が悪いってことだ。
改善するとしたら、どっちがましだろうか。
「カイン、何か知恵貸すの」
「私ですか? うーん、川、では流石に狭いですよね。大きな湖でもあればいいんじゃないですか?」
「湖なんてヘスティアにあったの?」
「さあ? そこらへんは聞いてみないと」
まあ、確かにシュエはリヴァイアサンにしては小さい。大きな湖でもあれば、あまりストレスを感じることなく過ごすことはできるだろう。
逆に言えばそこに閉じ込めるということでもあるけど、そこらへんはどうあがいても閉じ込めることにはなると思う。
だってデカすぎるし。いくら小さくても、漁船と同じくらい大きいんだから。
「サクラは何か案はないの?」
「んー、どこか海に面した洞窟にでも隠れ住んでもらうとか?」
「そんな洞窟があるかどうかはともかく、まあましではあるの」
この広い海である。前の世界のように開拓し尽くされているならともかく、この世界のように隣の大陸との航路にも四苦八苦しているような状態なら、ある程度航路から離れていれば人から見つかる心配はないだろう。
その上で、どこかわかりやすい場所に拠点のようなものがあれば、こちらも様子を見に行きやすいし、洞窟のような場所に身を隠してもらうというのは割とありである。
何なら海中に作ってもいいよね。リヴァイアサンなら水中でも呼吸できるだろうし、そこなら容易に見つかることもないだろうし。
まあ、作るにはちょっと工夫が必要かもしれないが。
「なんなら、このままここに居座ってもらうというのも手では? リヴァイアサンはヘスティアが手懐けたからもう脅威はないとか言って」
「うーん、そんなの信じるの?」
「それはわかりませんが、それならこちらから食事の提供もできますし、怖がられるよりはいいかと思ったんですが」
まあ、確かにリヴァイアサンがいて困るのは、船を攻撃されるからであって、別にいる分には何の問題もない。
むしろ、航路の魔物を狩ってやれば、感謝するくらいだろう。
こちらの話を素直に信じるかどうかはともかく、そうなったらそれが一番かもしれない。
〈シュエ、みんなに会いたいの〉
「みんなって、他に仲間がいるの?」
〈うん、みんなで一緒に遊んでたの。そしたら、気が付いたら海にいたの。不思議だよね〉
「ええと、その仲間っていうのも幻獣だったりする?」
〈んーと、ふぇにっくすとあーすどらごん? って言ってた〉
「割とやばいのが揃ってるの……」
フェニックスは簡単に言うと火の鳥である。不死鳥なんて呼ばれ方もするけど、まあ確かに死なないっちゃ死なない。
HPがゼロになると【転生の炎】というスキルを使ってHPを全快し、その際にフェニックスの羽と言うアイテムを落とす。
このフェニックスの羽はかなり有用なアイテムで、ポーション全般の素材の代用に使える。
そのまま使っても【リザレクション】の劣化版みたいな効果があるしね。めちゃくちゃ有用な素材だ。
ただ、【転生の炎】を使ったフェニックスはだんだん強化されていくので、それ目的に何回も狩るのは難しい。
それに、大抵の場合はシナリオの都合上一回しか戦えないか、【転生の炎】を使った時点で逃げるのでそもそもそんなに手に入らないけどね。
これがあればわざわざマンドレイクなんて探さなくてもよかったけど……まあそれは言わない。
アースドラゴンの方は、防御特化のドラゴンである。
飛べないけど、その防御はかなり硬く、近接攻撃も魔法攻撃もかなり減衰してくる厄介な敵だ。
その分、攻撃力は大したことないから耐久するのは割と簡単だけど、戦闘時間がかかるからゲームマスターからはちょっと嫌われている敵でもある。
そんな奴らがプレイヤーとか、彼女らのゲームマスターは一体何を考えていたのやら。
「ちなみにレベルは?」
〈えーと、5だよ〉
「ああ、そこは良心的なの」
ちゃんと冒険者レベルは抑えたようだ。
まあ、こいつらのレベルをそのまま持ってきたらぶっ壊れもいいところだけど。
と言うか、プレイヤーってことはちゃんと鍛えればめっちゃ強くなるのでは?
幻獣を味方にできるのは割と強いかもしれない。【サモナー】もいれば、好きな場所に召喚もできるだろうし、切り札として使えるかも。
元々保護する気ではあったけど、これはちゃんと保護してあげないとな。
「とりあえず、一時的にでも保護する場所が必要になるの。何とか用意できればいいけど」
〈アリスさんは陸に連れて行ってはくれないの?〉
「いや、陸に行ってもその体じゃ動けないの……」
〈動けるよー?〉
「? 何か策があるの?」
〈うん。えーっとね、こうかな?〉
シュエがそう呟いたと同時に、ぽふんと小さな煙と共に小さな少女が現れた。
瑠璃色の瞳に瑠璃色の髪、薄水色のワンピースを着たその少女は、目をぱちくりと瞬かせると、そのまま海に落ちていった。
〈わっぷ! た、助けて!〉
「……はっ! ちょ、何やってるの!」
一瞬思考がフリーズしたが、すぐさま助けに入った。
人化した? そんなスキルあったっけなぁ……。
よくわからないけど、なんか都合がよさそうな感じがする。
俺は考えることを放棄して、とりあえずシュエらしき少女を救いあげることにした。
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