第三百三十話:魔物の翼
翌日、俺達は城の俺の部屋に集まっていた。
別に、クラスチェンジするだけだったらあちらに行ってからでもいいのだけど、今回は少し慣れるのに時間がかかるだろうという予想である。
なにせ、体の一部を魔物に変化させるのだ。いつもの感覚とは全く違うだろうし、もしかしたら違和感があるかもしれない。
仮にも海の上を飛ぶのだから、墜落したらひとたまりもない。少なくとも、俺だけでもちゃんと扱えるようになっていないと、いざという時に助けられないし、命に関わるだろう。
だから、まずは練習というわけだ。
「なんかワクワクするね」
「確かにな。一体どんな感じなのか」
「気になりますね」
「それじゃ、順番にやっていくの」
子供のように目をキラキラさせているみんなを前に、俺は順番にレベルアップさせて、クラスチェンジさせていく。
とりあえず、覚えさせるのは翼を生やすスキルである【ドラゴンウィング】だ。
ドラゴンなんて強い魔物の名前が入っている割には、効果は飛行能力を得るってだけであんまり強くはない。
まあ、飛行できるだけで水上を飛べたり崖を登れたり落とし穴に引っかからなかったり色々恩恵があるので、めちゃくちゃ弱いってわけでもないけどね。移動力も上がるし。
レベルアップで得られるスキルの関係上、みんなもう一つスキルを取れるけど、そこらへんは任せておいた。
魔物の能力を得られるというだけあって、攻撃系のスキルはめちゃくちゃ強い。特に、魔石を多く消費するスキルに関してはメインアタッカーを凌駕してしまうほどの威力があるものもある。
まあ、魔石を消費してしまうので継戦能力は低いが、一発屋としては十分だよね。
一応、自バフのみだけどサポートスキルもなくはないし、合わせようと思えば何とかって感じ。
まあ、ロマンの域は出ないけれど。
「これでみんな取得できたはずなの。さっそく試してみるの」
「おう」
「どんなふうになるかな」
「まずは私がやってみるの」
俺は魔石を取り出し、口に頬張る。
魔石の力を手に入れるためには食べる必要がある。リアルの場合、これが一番のネックかもしれない。
なにせ、魔石はその名の通り石である。食べるものではないし、普通においしくない。
結晶質だから嚙み砕けないことはないけど、噛み砕きたいとは思わない。
そう思っていたんだけど、魔石を口に頬張った瞬間、魔石が溶けるように消え、代わりに背中から翼が生えてきた。
どうやら、頬張るだけで本当に食べる必要はないらしい。
その辺は親切設計で助かったが、だったらそもそも頬張らせないでほしい。口の中に変な味が残っている気がする。
「おー、すげー」
「凄い立派な翼だね」
「んっ、ちゃんと生えてきたようで何よりなの」
生えてきたのは、ドラゴンのような翼だった。かなり大きく、目一杯広げればそれだけで体を包めてしまいそうである。
軽くパタパタとはためかせてみたが、もう少し早くすれば飛べそうだなと言う確信があった。
どうやら飛ぶことに問題はなさそうである。
「服が破れるのではないかとも思いましたが、その心配はなさそうですね」
「ああ、確かにそうなの」
そういえば、服を破ったりはしていないな。
背中側だからよくわからないけど、みんなが見る感じでは、根元は服と一体化しているかのようになっているらしい。
それって、服も体の一部として判定されてるってこと? それとも、破けないように服が変形した?
どちらなのかはわからないけど、これで破ってしまっていたら色々面倒なことになるところだった。
一応、俺が着ている装備はこの世界ではかなりの貴重品である。
この外套は着ているだけで回避率を上げてくれるし、他の装備も基本的に回避特化である。装身具としてつけている指輪には命中率上昇の効果もあるから、全部が回避装備と言うわけではないけど、これと同じものをこの世界で用意するのは多分不可能なんじゃないかな。
それこそ、ダンジョンを巡って宝箱を漁っていくくらいしかないと思う。
劣化版でよければ作れるけどね。【ブラックスミス】はこういう時も有用である。
「これなら遠慮なく使えます」
「カインの場合、鎧だからな。脱ぐのはめんどいだろう」
「ええ。鎧の中に翼が押し込められて痛い、なんて事故がないようで何よりです」
そういえば、そう言うハプニングもあるのか。
そう考えれば、確かに服が破けないのも納得である。
システム的に、スキルを発動したら装備がつけられないっていうのはできなくはないだろうが、それをやってしまったら【コンキスタドール】を選ぶ人は誰もいなくなってしまうだろう。
凄い火力が出せても、防御がおざなりでは何の意味もない。
まあ、タンクに守ってもらって、後ろから攻撃しまくる固定砲台のような使い方ならできないことはないだろうが、流石にそれは面倒くさいだろう。プレイヤーとしてもゲームマスターとしても。
だったら、初めから装備を付けられないなんて縛りない方がいい。だからこそ、こういう生え方になるんだろうね。
「それじゃ、俺達もやってみるか」
「そうですね」
「いってみよー」
そう言って、他のみんなも【ドラゴンウィング】を発動させる。
それぞれの背中からドラゴンの翼が生え、その体を覆う。
この部屋はそれなりに広い方だと思うけど、流石に四人も翼を広げていると狭いな。
まずは確認と言うことで部屋の中でやったけど、これならさっさと外に出て飛ぶ練習した方がいいかもしれない。
「なんか、微妙に色が違うね?」
「確かにそうですね。人によって違うんでしょうか?」
「そうかもな。ま、その方がわかりやすくていいが」
サクラは桃色、カインは青色、シリウスは黄色、そして俺は銀色である。
いったい何の差なのかはよくわからないが、俺達がドラゴン化した時はこの色になるってことなんだろうか?
一応、ドラゴン化の罠っていうのもないことはない。俺はあんまり出したことないけど、それがメインのシナリオもあるらしいし、案外メジャーなのかもしれないね。
「そんじゃ、飛行練習と行こうか」
「どこでやるの?」
「別にそこらへんで……いや、流石にそれはまずいか」
「そりゃそうなの。やるなら森かどっかに行くの」
今日は曇りだから空を見てもそんなに見えないとは思うけど、雨が降らないか気にする人はいるだろうし、あんまり町の近くで飛ぶのはよくないだろう。
まあ、見られてもあいつらならやるかもしれないって思われてそうな気もするけど、できるだけそう言う噂はなくしていきたい。
あんまり何でもできると思われて、無理難題を吹っかけられても困るし。
最悪、魔物の仲間だと思われてしまうって可能性もなくはないし、人目につかないに越したことはない。
そう言うわけで、森に移動することにした。
行ったのは、ルミナスの森である。あそこなら、人も寄り付かないし、いるのは魔女だけだ。彼女らが秘密をばらすとも思えないし、そもそも少し離れた場所でやるので見られる心配もあまりない。
無断で森を移動するのはちょっとあれかもしれないけど、まあ、所有権を主張しているわけでもないし多分大丈夫だろう。
そう言うわけで、今日一日は飛行練習に当てることになった。
本来はない器官で飛ぶことになるから、最初は少し戸惑ったけど、案外すぐに慣れることができた。
これは俺達のセンスがいいのか、それとも【コンキスタドール】と言うクラス故なのか。どちらなのかはわからないけど、この調子なら海に行っても大丈夫そうである。
使った分の魔石もついでに補充できたし、後はリヴァイアサンの下を目指すだけだ。
明日はさっそく向かうとしよう。そう思いながら、その日は眠りについた。
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