第三百二十九話:噂の真意は
町で色々聞いて回ってみたけど、ラッシュと言う人は割と有名な漁師らしい。
普段は一人で漁を行っているようだが、病気の妹がいるらしく、その薬が隣の大陸でしか作れないものだからか、稼いだ金の大半を薬代に当てているらしい。
一応、治ってきてはいるようだったのだが、リヴァイアサン騒ぎのせいで貿易がストップし、薬が手に入らなくなってしまった。
その影響で病気も悪化していってしまっているらしく、このままでは死んでしまうのではないかと思い、単身リヴァイアサン退治を決意。
しかし、当然一人で退治できるはずもなく、命からがら帰還する。それでも、諦めずに何度も挑戦しているうちに、七回と言う膨大な数になったようだ。
被害状況だが、そこまで大きくはないらしい。
確かに船にはいくつかの傷ができていたようだが、リヴァイアサンに襲われたにしては傷が浅すぎるらしい。それこそ、迂回ルートの魔物に付けられた傷の方が尋常じゃないくらい大きく、中には退治に行くと言って途中で怖くなって帰ってきてるんじゃないかと言っている人もいるようだ。
本人も怪我らしい怪我はしておらず、強いて言うなら焦りから来ているであろう寝不足に悩まされている程度。リヴァイアサンに関してはほとんど無傷のようである。
聞いている限り、確かに途中で臆病風に吹かれて引き返してきたっていう方が信じられるけど、そのラッシュさんが言うには本当に挑んできたというからよくわからない。
ラッシュさんは元々群れるような人ではなく、一人で何でもこなすような人だったらしいので、うまく人を集められないのかもしれないが、もしそんなに大人しいリヴァイアサンなら、貿易も可能な気がする。
もちろん、いないに越したことはないが、それだったら普通に通してくれそうだよね。
まあ、そんなうまく行くかはわからないけど。
ラッシュさんだけが特別気に入られていて見逃されているって可能性もあるわけだし、油断は禁物。
ただ、どちらかと言うと、そのリヴァイアサンは人を襲うということを知らないような印象を受ける。
確か、まだ子供なんだよね? 子供だからと言って、幻獣が人間に友好的と言う資料はないけど、もしこの話が本当ならそのリヴァイアサンはラッシュさんにとても友好的な気がする。
食堂で聞いた、海に投げ出されたけどうまく跳ね上げられたというのも、リヴァイアサンが助けたと考えれば辻褄は合う。
そう考えれば、リヴァイアサンにそこまでの脅威はない気もする。
「噂話を繋ぎ合わせるだけならこう考えられるけど、どう思うの?」
「確かに、ラッシュ殿が特別な何かをしているというのでなければ、そのリヴァイアサンが友好的と言うことになりますが、正直眉唾ですよね」
「別に、退治に行くと宣言して、途中で逃げ帰ってきても、それは退治に行ってきたと言えなくもないし、リヴァイアサンが人を助けると考えるよりは現実的だよな」
「でも、七回全部逃げ帰ってくるなんてありえるかな? 一人でやってるとは言っても、漁師なんでしょ? プライドとかあると思うんだけど」
確かに、黙っていくならともかく、リヴァイアサンを退治してくると宣言しているのだ。一回や二回なら、まだ臆病風に吹かれたで済むし、町の人達だってまあ仕方ないと諦めてくれるだろう。
でも、流石に七回も言っていたら、いい加減にしろと思われても仕方がない。
もちろん、行く前は本当に戦うつもりで言っていて、でもいざ本番になったら結局尻込みしてしまったという可能性はなくはないけど、だったらもう宣言しなくてもいいと思う。
別に自分がリヴァイアサンを倒して英雄になりたいってタイプにも聞こえなかったし、宣言しているのは純粋に戻らなかった時は妹のことを頼むって意味なんだと思う。
そうなると、少なくとも何回かは本当に行っていると思う。でも、勝てなかったって感じなんだろう。
「そのラッシュって人に会えれば一番早いんだけど……」
「ちょうど最近また向かったようですね。今すぐ追いかけられれば合流できるかもしれませんが、流石に分が悪いですか」
「そもそも船もないしな。ラッシュのことを信じてる奴もあんまりいないみたいだし、その真意を確かめるため、なんて言っても誰も来ないだろ」
「やっぱり飛んだ方が早いんじゃない?」
「うーん……」
仮に、リヴァイアサンがあまり脅威にならないとして、結局それを確かめるためには海に出なければならない。
しかし、海に出てくれるような船乗りはいない。いくらリヴァイアサンが脅威が低いという話であっても、リヴァイアサン自体がネームドドラゴン級に恐れられている相手である。
仮に子供だったとしても、その脅威度にあまり差はないだろう。だから、脅威がないと言われても信じる人はいないわけだ。
せめてもう少し情報があればいいんだけどね。ラッシュさんだけでなく、他の船乗りとかも体験しているなら、信憑性も増すだろうし、確かめようと思う人も出てくると思うんだけど。
「ラッシュ殿が戻ってくるのを待つというのも手ですが」
「そのリヴァイアサンが出る海域ってここからどれくらいなの?」
「聞いた話では、ここから二週間ほど行ったところらしいですね」
「割と遠いの」
いや、近海に漁に出られているのだから、割と近い方だろうか?
船で二週間なら、俺達が飛べば多分一週間もかからなそうではあるが……。
戻ってくるのを待つなら、最近出て行ったことを考えると、約一か月後ってところだろうか。何事もなく帰ってこれたらの話だが。
流石にそこまで待つのは……ちょっと面倒だよなぁ。
「……一応、まだ募集から来てくれる可能性は残ってるの」
「ほぼゼロに等しいですけどね。船はアラメク殿が用意してくれるとしても、一人や二人来た程度じゃ無理ですよ?」
「ぐぬぬ……」
まあ、指示をくれれば俺達も動けるから、最低でも三人かそこら来てくれたら最悪動かせるかもしれないけど……心もとないよなぁ。
それだったら、自力で飛べて、小回りも効く【コンキスタドール】の方がいい気がしないでもない。
みんな割と乗り気だったし、最悪邪魔なら後で『リビルド』するという手もある。
ここは一つ、試してみるのもいいかもしれない。
「……わかったの。これ以上待ってもしょうがないし、みんなを【コンキスタドール】にしてみるの」
「お、待ってました」
「そう来なくっちゃね」
「これ以上時間かける方が問題なの。ここは時短で行くの」
別に、【コンキスタドール】になったからと言って特に制限が付くわけでもない。
強いて言うなら、スキルが独特すぎて他のクラスと相性が悪いってくらいだけど、別に全く使えないわけでもないし。
普段は普通に戦って、ピンチの時は魔物の力を使って豪快に戦うなんてロールプレイもありだしね。
まあ、この世界でロールプレイをしている余裕はあんまりないかもしれないが。
「とりあえず、今日はもう遅いの。明日、城で一回集まって、練習してから行くの」
「オッケー」
「朝一で行くからねー」
「それじゃあ、今日は帰るの」
一日情報収集していただけあって、もう夕方である。
リヴァイアサンがもしかしたら脅威ではないかもしれないという情報は割と有用ではあったけど、真意のほどはよくわからない。
果たして、本当に大人しいのかどうか。もし大人しいのなら、交渉して別の場所に移ってもらうというのもいいんだけどね。
そんなことを考えながら、城へと戻っていった。
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