第三百二十八話:気になる話
港町と言うだけあって、名産は魚のようだ。
リヴァイアサンによって船の航路はだいぶ制限されているようだが、それでも近海で魚を捕ることくらいはできるのか、市場を覗けばそれなりの数の魚が並んでいる。
魚なー、別に嫌いではないけど、好きでもないという印象。
一度、釣り堀でマスを釣りに行ったことがあるけど、そこで捌かれていくマスを見て微妙な気分になったことを覚えている。
別に、気持ち悪くなったとかそう言うのはないんだけど、なんとなく好きになれないというか、そんなよくわからない気分になるんだよね。
まあでも、せっかく魚が新鮮な場所まで来たのだから、食わず嫌いはいけないか。何匹か買っていくとしよう。
「よく見ると結構船の出入りもありますが、やっぱり停泊している船が目立ちますね」
「そりゃな。漁船とかはともかく、貿易船は完全に止まってるだろうしな。そう言うのは大体大きい船だから、余計に目立つんだろうよ」
「あのどれかでも動かしてくれたらいいんだけどね」
停泊している船は結構な数ある。
これだけあっても港がいっぱいにならないのは港の広さを実感するが、逆に言えばいつまでもお金を産み落とさないでくの坊が量産されているとも言える。
船だって維持費もあるだろうし、このままの状態が続けば、大変なことになりそうである。
「あそこらへんは隣の大陸の人かな? 明らかに服装が違うね」
「帰れなくなったやつかな」
サクラが指さす先には、なんとも日本情緒溢れる格好をした人がいた。
あれ着物だよね? 一緒にいるのは侍だろうか。ファンタジーな世界にいきなり日本風の人が出てきてびっくりである。
ただ、別におかしな話ではない。『スターダストファンタジー』の中には、日本を参考にしたであろう国も登場している。
クラスで言うなら【サムライ】とか【カンナギ】とかがそれに当たるだろうか。割と別大陸にも進出しているような書かれ方をしていたけど、位置関係的に、確かにここが基本舞台となる大陸なら、隣の大陸はそれになるのか。
普通に行って見たいよね。もしかしたら、俺が今から行く場所はそう言う場所なのかもしれないし、ちょっとワクワクしてきた。
「言葉も違うしで大変そう」
「一応、人間語があるので通じはするみたいですけど、大陸共通語が使えないのは確かに面倒そうですね」
俺達が使っているのは大陸共通語と言う、大陸で共通して使われる言葉ではあるが、この大陸と言うのは、それぞれの大陸でしか効果がない。
基本的に、『スターダストファンタジー』の舞台は基本大陸となるエルガリア大陸なので、正確に言うとエルガリア大陸共通語となるわけだね。
あの人達が来たのは隣の大陸。ええと……マスカニア大陸だっけ? だから、マスカニア大陸共通語が主流言語と言うことだね。
まあ、獣人の国とかに行かない限りは人間語でも十分通じるだろうし、別に問題はないだろうけど、使い慣れた言葉が使えないのはちょっと大変そうだ。
「そういえば、今の俺達ってどれくらいの言語話せるんだ?」
「全部なの」
「え?」
「だから、全部話せるの」
基本的に、冒険者が覚えられる言語は知力に依存する。
初期に覚えているのは生まれた大陸の共通語で、それ以外はその種族の言語を覚えている状態だが、知力が上がればそれだけ多くの言語を覚えることができる。
で、俺達の知力だけど、すでにめちゃくちゃ高い。そりゃそうだ、本来レベル20でもそんなに達成しないのに、そのはるか上のレベルにいるのだから。
普通は、知力が上がる度にどんな言語を覚えるのか決める必要があるんだけど、すでに知力が上がりすぎてすべての言語を覚えても余りあるほどだったので、自動的に全部の言語を覚えた形である。
これで聞きとれなかったり読めないのは、古代言語とかくらいだろうか。あれは大体シナリオの都合上読めないものだから、いくら知力が上がっても無理だと思う。
そんなの読む機会ほとんどないだろうけどね。
「いつの間にかめっちゃ賢くなってたんだな」
「いや、エルフの里を探そうって時点でわかってたでしょ?」
「あの時はまだそこまで読めなかっただろ」
「そうだっけ?」
「エルフ語の手紙を読んだのは、アリスとカインだっただろうが」
「ふむ、確かにそうなの」
なんか、あの時点ですでに結構な言語を覚えてた気がするのだけど……気のせいだっただろうか?
まあ、別にどっちでもいいけど。今の俺達はどんな言葉も読めるし、聞き取れる。それだけわかれば十分だ。
「それはいいんだけど、どうする? お昼でも食べる?」
「まあ、せっかくだから食堂でも行くの」
特にやることもないので、適当な食堂へと入る。
港町だから魚料理ばっかりかとも思ったけど、別にそんなことはないらしい。
それどころか、ヘスティアでは見ないような割と豪華な料理でびっくりした。
恐らく、別の場所で畜産もやっているんだろう。あるいは、貿易品として持ってきたものの一部を使っているという感じなのかもしれない。
「うちも畜産とかやってないの?」
「やってないことはないでしょうが、畜産できるほど広くて安全な場所と言うと、王都からは少し離れてしまうんじゃないですか?」
「すぐ近くに草原があるのにもったいないことなの」
まあ、もしかしたら戦争しまくっていた影響で王都に近くは危ないと思って早々に離れて行ってしまっただけかもしれないけど、そのうち近くに牧場を用意してもいいかもしれない。
一応、城では肉も普通に出てくるけど、町ではあんまり見たことないから高級品であることに間違いはなさそうだしね。
育てるなら牛がいいだろうか。肉としては鳥が一番好きだけど、牛もいいよね。
こんなこと言ったら動物に失礼かもしれないけど。
「おい、聞いたか、またラッシュの野郎がリヴァイアサン退治に出たってよ」
「なんだまたかよ。懲りねぇ奴だなぁ」
と、そんなことを話していたら、ふと隣のテーブルで食べていた人の声が聞こえてきた。
リヴァイアサン退治と聞いたけど、もう諦めたんじゃなかったんだろうか?
というか、本当にリヴァイアサンだとしたら、多分国が騎士とかを動員してようやっと相手が務まるかと言ったところだと思う。
それも、海でなく平地でだ。リヴァイアサンのテリトリーである海で戦おうものなら軍団でもすぐさま海の藻屑だろう。
でも、聞いている限り、そのラッシュと言う人物は何度もリヴァイアサン退治に出ているらしい。
この世界だと、リヴァイアサンと遭遇して生きて帰れるなんて相当な幸運だと思うけど、それを何度もとなるとちょっと気になる。
俺はみんなと顔を見合わせると、そっと耳を傾けた。
「いくらやっても勝てねぇのはわかってんだから諦めりゃいいのにな」
「まったくだ。まあ、病気の妹のために薬が必要だってのはわかるが、流石に一人で行ったって勝てるわけねぇだろうに。生きて帰れてるだけでも奇跡ってもんだ」
「今回で何回目だったか。確か、五回目か?」
「七回目だな。一度は船から投げ出されたらしいが、偶然船に跳ね上げられて事なきを得たって話だ。運のいい奴だよ」
「そんだけ運がいいなら、何かの間違いで倒せたりしねぇかな」
「期待しすぎんな。確かに倒してくれたら万々歳だが、あいつにそんな力はねぇよ」
聞けば聞くほどよくわからなくなってくる。
てっきり三回程度かと思っていたら、七回も挑んでいたとは。しかも、そのすべてで生還している。
確かに、今回のリヴァイアサンは子供と言う話ではあったが、いくら子供だからと言って、海の王者にそんな何度も生還するなんてありえるだろうか。
一回や二回なら偶然や奇跡が重なって、と考えられなくもないが、そこまで回数を重ねているなら、恐らく何かしら原因がある。
そのラッシュと言う人物の操船技術が並外れているのか、あるいはリヴァイアサンの方に何かあるのか。これはちょっと調べてみた方がいいかもしれない。
しばらく耳を傾けていたが、やがて食べ終わったのか、その人達は出て行ってしまった。
もしかしたら、事はもっと複雑なのかもしれない。俺はひとまず情報を集めようと思った。
感想ありがとうございます。




