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第三百二十六話:難航する状況

「預かっていた大事な船を守れなかったことは謝罪する。すまなかった」


「まあ、こちらはそれをされて当然なことをしていたの。そこまで気にする必要はないの」


 アラメクさんは素直に謝ってくれた。

 まあ、元々無事だとは思っていなかったし、そこまで問題はない。

 むしろ、こうして原型が残っているだけましというものだ。流石にマストが折れた奴を治すのは無理かもしれないけど、その他の奴なら時間をかければ普通に修理もできるかもしれないし。

 まあ、もうこの船は古い型のようだし、新しく作るのもありだとは思うけどね。


「そう言ってもらえると助かる。詫びと言っちゃなんだが、俺にできることならある程度融通はしよう」


「それなら、別の船は用意できない? 私達、隣の大陸に渡りたいの」


「隣の大陸に行くのか。まあ、船は用意できるが、今はリヴァイアサンの騒ぎがあって、とてもじゃないが出してくれる船乗りはいないな」


 預かっている船以外にも、アラメク商会が所有している船はいくつかあるらしい。

 まあ、用意しろと言っても別にそいつをよこせと言うわけではないけど、アラメクさんは最悪そうなっても仕方ないと思っているようだった。

 借りるにしろ貰うにしろ、船は用意できる。ただ、やはりここでネックになってくるのはリヴァイアサンのようだ。

 結局、迂回ルートも開拓できずじまいになったようなので、リヴァイアサンがどこかに行かない限りは隣の大陸に渡るのは難しいらしい。

 わかってはいたけど、面倒なことをしてくれるなぁ。


「どうします? 私達だけで操船するのも手ですが」


「船なんて操縦できるの?」


「さあ? アリスさんならできるのでは?」


「私を何だと思ってるの」


 いくら何でも船の操縦なんてできない。

 ……いや、頑張ればできないことはないのか?

 クラスの一つに、【ヴァイキング】と言うクラスがある。このクラスは、いわゆる海賊を現すクラスで、船上や水上、水中で真価を発揮するクラスである。

 スキルの中に操船に関するスキルはないが、彼らは一様に船乗りだ。もしかしたら、なるだけで操船技術が身につくという可能性もなくはない。

 まあ、これはあくまで希望的観測なので、そんなこと全くないのかもしれないけどね。だから、本当にできるかどうかはわからない。

 それを承知でなってみるというのも手ではあるけど……どうしようかな。

 なるからには有用なスキルを取得したいところだけど、【ヴァイキング】で強いスキルと言うと……【メイルシュトローム】とかか?

 水上、または水中にいる時に巨大な渦巻きを起こすスキルではあるけど、範囲がシーン全体なんだよね。渦巻ですべてを飲み込んでいくという形だ。

 その代わり、シーン中に一回しか使えないけど、それでも強力なスキルであることに変わりはない。

 他にも、船長と言う意味合いがあるせいなのか、同じギルドメンバーに対して行動を消費せずに移動させることができたり、水中でのペナルティをなくしたりと色々できるけど、うまく連携を取れるのならそこそこ強いクラスではある。

 後、肉を素早く食うことができるってスキルもあった気がするけど、元々自分の手番で食料系アイテムは食べられるからそんなに意味はない。

 一応、素早く食えるってことだから、この世界だとちゃんと戦闘中でも食事をとれるって意味では有用かもしれないけどね。


「まあ、やるだけやってみるの」


 別に、操船技術が手に入らなかったとしても、【ヴァイキング】になること自体はそこまで問題でもない。経験値は余っているしね。

 そのうちリビルドしてスキルの整理はしたいけど、今は必要になったら取っていくというスタンスでいいだろう。

 『レベルアップ処理』からレベルを上げ、【ヴァイキング】にクラスチェンジする。

 ある程度スキルを取得し、使えるようにはしてみたが、果たして操船技術は身についているのだろうか?

 今のところ、めっちゃ船を操縦したい、とかは思わないけど。


「とりあえず、その船を見てみたいの。案内してくれるの?」


「あんたらだけじゃ操縦できないと思うが……まあ、見るだけならいいか」


 そう言って、アラメクさんは再び歩きだした。

 続いて案内された場所にあったのは先程の船にも負けないくらい大きな船だった。

 いくらか新しい型のようで、側面には砲がいくつか並んでいる。

 素朴な疑問だけど、砲があるのに銃はあんまり知られていないのか。

 いやまあ、確かに砲と銃じゃ大きさが全然違うし、作りやすさに違いがあるのかもしれないけど、砲が作れるなら銃を知っててもおかしくはないと思うけどな。

 それとも、銃は【ガンスリンガー】と言うクラスがあったけど、砲にはそう言うクラスはないから、クラスと一緒に廃れてしまったとか?

 その辺はよくわからないけど、まあ、砲がなかったら攻撃手段がないということだし、それだと海を旅することもしないだろうからある意味助かったと言えば助かった。

 これで船すらなかったら、自分達で作らなければならないところだった。


「一応、この船を渡そうと思っていたんだが」


「結構新しそうだけど、ほんとにこれでいいの?」


「ああ。今はうちの貿易船として使っているが、そっちがよこせと言うなら明日にでも。貰っていくかい?」


「いや、別にそこまでしなくていいの。貸してくれるだけでいいの」


「そうか。その方が助かるからいいが、随分とお優しいことだな」


「別に優しくはないの。ただ、当たり前のことを言ってるだけなの」


 そりゃ、本格的に貿易をしたいとなったら船は欲しいけど、今のところ別にそこまで欲しいものはない。

 一応、別の大陸限定で手に入る破魔矢とか呪符とか丸薬とかポーションとか色々あるけど、それらの入手は別に俺達がやる必要はない。

 アラメクさんが取引し、それをこちらに卸してくれればいいだけの話で、自分達ですべて完結する必要は全くないのだから。

 バーンド王国の情勢からして、いつまでもヘスティアを無視し続けることはできないだろうし、近いうちに貿易は再開されると思うしね。

 再開されなかったら、その時に渡してもらえばいいだけの話だ。


「しかし、ダメそうなの」


「やっぱり無理ですか?」


「流石に舵を握っただけで操縦できるとは思えなかったの」


 船に乗せてもらい、舵を取ってみたが、操縦できるって感じはしなかった。

 まあ、実際に操縦したらできるのかもしれないけど、流石に確証もないのに海に繰り出すなんてことはしたくない。

 流石に、それらしいスキルもないのに操船は無理か。なんかそんな気はしてたけど、ワンチャン行けると思ったんだけどな。


「こうなると、操縦してくれる船乗りが必要になるけど……」


「それはいないって話だったな」


 リヴァイアサン騒ぎのせいで、わざわざ死にに行くような真似をしたい船乗りはいなくなってしまったらしい。

 それでも、諦めずに迂回ルートを通ろうとしている船乗りはいたようだが、そのこと如くが帰ってこれなかったようで、もう察したようだ。

 船乗りが現れるとしたら、それはリヴァイアサンの脅威が取り払われた時だろう。

 リヴァイアサン自体は、俺達が倒すこともできる。しかし、そのためには海に出なければならないわけで、そのためには船を操縦する人が必要。でも、その人がいない。

 これが負のループと言う奴か。流石に、俺達でも水上走ることはできない。

 一応、泳ぐことで進むことはできるだろう。【ヴァイキング】のスキルの中には水中にいる時のペナルティを打ち消すものもあるから、仮にリヴァイアサンが大津波を起こしてきたとしても、ダメージを受けるくらいで済むはずだ。

 だから、無理すれば行けないことはない。ただ、船で何か月もかけて進む道のりを泳いで進むなんて馬鹿な真似ができるのかという不安があるだけで。


「これは、ちょっと難航しそうなの……」


 もし、途中で力尽きるようなことがあれば、もれなくお陀仏である。

 そんな間抜けな死に方はしたくないし、それでみんなを死なせるなんてもってのほかだ。

 何か他に方法はないだろうか。俺は腕を組んで考えを巡らせた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 珍しくアリスにも出来ないことが……
[良い点] 今まで色々やってきたからついに操船まで期待されてしまった笑 [一言] 肉を素早く食べれるってTRPG上は意味があったんですけど この世界ではただ単に肉を素早く食べるだけになってしまいそうで…
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