第三百二十四話:リヴァイアサンの子供
しばらく兵士達のレベル上げや残った仕事を片付けつつ、体を休め、そろそろ動くかと言うことになった。
まあ、動かなければ物事は進まないからね。一応、あちらも転移者で、神様から何かしら話を聞いているなら、同じ転移者を探すために動くかもしれないが、俺達がこの世界に降り立った状況からして、動くしとても一緒に遊んでいた仲間がいるかもしれないってくらいだろう。
同じ卓を囲んでいたからと言って、必ずしも近くに降り立つというわけではないようだし、俺のようにキャラシからこの世界にいることを予想できるわけでもないだろうから、ちょっと難しそうではあるよね。
それに、キャンペーンシナリオを回っているようなレベルの高い冒険者ならともかく、始めたばかりでレベルの低い冒険者だと単純に移動するのも大変だろうし、中には町に辿り着けずにそのまま餓死、なんて人もいるかもしれない。
そう考えると、彼らを助けるために色々動いた方がいいのかなとも思うけど、今更な気もする。
だって、もう三年も経ってるし、生き残れなかった人はもうとっくに死んでいるだろう。
いや、それでもなんとかぎりぎりの生活をしている人もいるかもだから、手を広げるのは間違いではないかな?
まあ、その辺は近くの国で少し試しておいてもいいかもしれない。いるかは知らないけど、そう言うのが普通となれば、後々遠征に出しやすいだろうし。
そう言うわけで、これに関してはナボリスさんに進言しておいた。
もちろん、転移者を探すという名目ではなく、戦力拡充のために特異な力を持つ者を探すという感じで。
これなら、転移者も見つけられるかもしれない。まあ、そんなうまく行くとは思ってないけどね。
「とりあえず、船が必要なわけだけど、うちって船持ってるの?」
「持ってるみたいですね。ナボリス殿に聞きましたが、以前は港を持つバーンド王国とも仲が良かったようで、商船をいくつか預けていたそうです」
ヘスティア王国は海に面していないので船を持つ意味はあまりないが、それでも港を持つ国に船を預けておき、国お抱えの商人などがそこに赴いて使うということはあったようだ。
ただ、それはかなり前の話のようで、今どうなっているかまではわからないらしい。
「国所有の船なのに、今は所在がわからないの?」
「それはヘスティアの国策の影響でしょうね。忘れてるかもしれませんが、この国はちょっと前まで隣国に喧嘩を売りまくっていた国ですよ? 賢い商人なら、この国に先はないと思って早々に離脱していてもおかしくはないですし、仮に商人が残っていたとしても、敵対国となったバーンド王国がいつまでも船を残しているかと言われると微妙なところでしょうね」
「あー……まあ、確かにそうなの」
バーンド王国は以前戦争したサラエット連合の加盟国である。
今でこそ、不可侵条約を結んで戦争は終わったとはいえ、禍根が残っていないかと言われたらそんなことはないだろう。
まあ、バーンド王国自体はそこまで大きな国でもないし、立地的にも先には海しかないので、ヘスティアもあんまり狙わなかったようだけど、それでもちょっかいを出していたことに違いはないので嫌われているのは間違いない。
そんな国の所有する船をわざわざ守っておいてくれているかと言われたらどうだろうか。
明確に敵対しているなら壊してしまうかもしれないし、あるいは別の商人に権利を譲っていてもおかしくはない。
仮に残っていたとしても、整備されていない可能性もあるし、まともな船は残っていないだろう。
そうなると、ちょっと厳しくなりそうである。
「……まあ、最悪船が残っていなくても、別の商船とか定期便とかに乗せてもらえれば済む話ではあるけど、そっちは大丈夫なの?」
「ヘスティア王国の人間だと堂々と言ったなら少しは不快な顔はするかもしれませんが、乗せてはくれると思いますよ。あちらも商売なわけですし、ちゃんと対価を払うなら断る理由はあまりないでしょうから」
「それならまだ安心できるの」
船は必ずしもヘスティア所有のものでなければならないというわけではない。
目的は隣の大陸に渡ることなのだから、そこへ行く船であればどんな船でも問題はない。
まあ、定期的に城に戻るのにポータルを設置しなければならないから、できれば自国所有のものがいいというのはあるけどね。
別にいつでも消せるから問題はないけど、やっぱり他の人がいる船だと事故があるかもしれないし。
「その話なんだが、ちょっと面倒なことになってるみたいだぞ」
「面倒なことって?」
「なんか、リヴァイアサンが航路に陣取っていて、とてもじゃないが通れないらしい」
「は? リヴァイアサン?」
リヴァイアサンと言えば、『スターダストファンタジー』の中でも結構な強敵に位置する魔物である。
幻獣というカテゴリーに入り、大津波を引き起こして全体攻撃を仕掛けてくるのが特徴。
弱点はわかりやすいけど、基本的に海などの水中にいることが多いから、地形ペナルティを受けやすく、それと合わせてちょっと面倒な相手という印象である。
まあ、勝てないことはないと思うけど、問題はそこではない。
本来、幻獣は滅多に人前に姿を現さないという設定がある。幻獣界と呼ばれる別世界に住んでいるとされており、神の遣いと呼ばれることもあるようだ。
だから、そんな航海ルート上に現れるなんて普通じゃないと思う。
もちろん、現実となった影響で何かしら変わっている可能性もあるけど、何か事故や事件があったと見るのがよさそうだ。
「他に情報はあるの?」
「目撃されたのは三か月くらい前かららしいが、まだ子供なのか、そこまで被害は大きくないらしい。一応、大きく迂回するルートを取ればいけないことはないらしいが、そっちはそっちで魔物の駆除が間に合っていないようだから、危険なことに変わりはないみたいだな」
「となると、どうにか駆除しないといけないわけなの」
まあ、ちゃんとした船に乗れるなら、地形ペナルティはあんまり気にしなくても大丈夫だとは思う。だけど、大量の魔物が残っているであろう迂回ルートと、子供らしいリヴァイアサンだったら後者の方が駆除は楽だ。
問題があるとすれば、幻獣は【サモナー】にとっては神聖な魔物と言う扱いで、倒すのはもってのほかと言う考えがあるくらいかな?
と言っても、そんなの関係なしに幻獣を倒そうとする【サモナー】もいるわけだけど。
どっちにしろ、俺達の中に【サモナー】はいないし、そこまで気にする必要はないと思う。
「なんでそんな場所に現れたかは知らないけど、邪魔になってるなら倒すしかないの」
「そうだな。これ以上遅れてもまずいだろうし、さっさと仲間は集めたいしな」
「でも、ほんとになんでそんなところにいるんだろうね? アリスの話だと、そこにいるのはおかしいんでしょ?」
「さあ? 幻獣界も大変ってことなんじゃないの?」
以前、粛正の魔王が現れた時、幻獣が戦っていないわけはないと思う。
幻獣は神の遣いとも言われる神聖な魔物だとされているから、神界がめちゃくちゃにされているのに、幻獣が黙っているわけがない。
そうなると、戦った結果負けて、数がめちゃくちゃ減ったとか、神界と同じように幻獣界もめちゃくちゃにされてしまったとかは普通にありそうである。
そもそも幻獣の子供が幻獣界から出てくるというのが稀なことだろうし、幻獣界に留めておくことができないくらい幻獣不足、あるいは境界が曖昧になってるってことなんじゃないだろうか。
それなら、子供の幻獣が現れてもおかしくはない。
まあ、そこらへんは実際に調べてみればわかるだろう。まずは行って見てだな。
そう考えて、出発の準備を進めるのだった。
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