第三百二十二話:周囲の確認
第十一章開始です。
アフラーク王国での一件を終え、ヘスティア王国へと戻ってきた。
あれから、トーマスさんを救出に行ったが、未だに責任を感じているらしく、罪を償わないままここから脱出することに抵抗を抱いていたようだが、ようやく決心したようで、一緒にヘスティアに来てもらえることになった。
確かに、トーマスさんは俺達が剣聖を育てきる前に処刑されることになった時、助けに入る時は任せるとは言っていたけど、これは少し違うと思ったようだ。
でも、あのままあそこにいても忘れられているか、全く関係ないシュライグ君のことで責任を負わせられるかの二択しかなかっただろうし、あそこで脱出して正解だろう。
ただ、ヘスティアには来てくれたが、アーミラさんとは一時離れて暮らすらしい。
まあ、アーミラさんが、ひいてはグレイスさんとハルバルさんが逃げ出した理由はトーマスさんにあるからね。元凶である自分がのこのこと戻ってきて一緒に暮らすのは違うと考えたようだ。
しかし、お互いに会いたいのは事実のようで、トーマスさんは城にほど近い場所に家を与え、そこで暮らすことになった。
ここでは領主と言う地位は意味をなさないが、その知識は役に立つ。だから、しばらくはその知識を生かして管理職をしたいと言っていた。
管理職……闘技場の管理でも任せるか。あそこの整備は地味に面倒くさいし。
人員の方はこちらで補充するし、その采配を任せればいいだろう。
「なんか、思ってたのと少し違うの」
俺は当初、トーマスさんはアーミラさんと一緒に城勤めすると思っていた。
領主としての能力だって、書類仕事や指示を出すのに向いているだろうし、だったら城で管理職をしてもいいと思ったのだ。
でも、結果は離れて暮らすという。
まあ、気持ちはわからないでもないけど、お互いに意地張らなくてもいいのに。
アーミラさんも、父親が生きていてくれたことは喜んでいたし、俺に何度もお礼を言っていた。それだけ、心配していたということだろう。
それなのに、いざ本人を前にすると、「まだ許していないんだから!」みたいな感じで突き放してしまう。
ツンデレかな? グレイスさんもそれには少し呆れているようで、どこかのタイミングで二人を引き合わせたいとも言っていた。
まあ、そのあたりはグレイスさんに任せておけばいいだろう。
トーマスさんを助けたことで、グレイスさんも正式にこの国に居つく決意をしたようだし、これからはきちんとした育成をして行ってもいいだろう。
特に、【レベルドレイン】なんて特異な能力を持っているわけだしね。それを生かしたスキルの一つや二つ覚えさせておきたいところである。
まあ、その辺は追々かな。今すぐにやらなきゃいけないことでもないし、しばらくはトーマスさんとアーミラさんの関係改善に努めてもらおう。
「にしても、ハルバルさんが意外と優秀なの」
ハルバルさんは料理人見習いとして城で雇ったわけだけど、かなり成長が早い。
最初は料理長に注意されることも多かったようだけど、今じゃ注意される余地もない完璧な料理を出せるらしい。
別に料理人と言うわけでもないのに、凄い成長力だな。
一度食べてみたが、確かにアフラーク王国に行く前と後で全然味が違うように思えた。
これなら、【シェフ】のクラスを与えてもいいかもしれない。
【シェフ】は料理を使って味方にバフを与えたり、敵にデバフをかけたりするクラスである。
まあ、リアルとなったこの世界で敵に料理を食わせるのはちょっと難しいだろうし、ちょっとしたネタクラスではあるけど、バフをかけながら回復もできるのでサポーターとしてはそこそこ優秀ではある。
……いや、戦闘中に料理食ってる余裕はないか? やっぱりネタクラスかもしれない。
こういうところはやはりポーションの方が強い。効果量自体は料理の方が高いかもしれないけど、即効性と言う意味ではポーションの方に軍配が上がるだろう。
なんか、丸薬みたいに圧縮して瞬時に食えるようにするならありかもしれないけど、味が犠牲になりそうな予感がする。
せっかく美味しい料理を作れるのだから、そこら辺を再現できればいいんだけどな。
「シュライグとアスターさんは、ひとまずは保留なの」
一応、シュライグ君は剣聖に並ぶ、と言うか余裕で凌駕する実力を持っている。
その実力はプレイヤーにも引けを取らず、おそらくこの世界の住人の中では最強クラスではないだろうか。
だから、ヘスティアとしては将軍クラス、あるいは王様でもいいくらいなんだけど、俺の後任として王様を任せるとしても、それは今ではない気がする。
シュライグ君はまだ子供だし、いくら強いとは言ってもそれ以外がおろそかになりやすいだろう。
いやまあ、見た目だけなら俺もそんなに変わらないし、細かな政務はナボリスさんがいるから何とかなるとは思うけど、流石に俺を下すのが子供ではちょっと外聞が悪い。
せめて、もう少し成長してから負けるか、あるいは副国王みたいな感じで俺がいない間の王様を任せるというのがいいかもしれない。
まあ、後者に関しては前例がないらしいから、ちょっと難しいかもしれないけど。
なんにせよ、シュライグ君はしばらくは成長するまでは最終兵器として温存しておくことにする。
貴族にしてもいいけど、下手に責任を持たせなくてもいいだろう。
アフラーク王国がピンチに陥った時に助けるという仕事もあることだしね。
アスターさんは、シュライグ君のメイドとしてそのままそばに置く。
今更引きはがして別のことをさせようとも思わないし、そんなことしても何のメリットもないからね。
一応、この世界ではかなり貴重な【ガンスリンガー】だから、シュライグ君と同じく最終兵器扱いしてもいいけど、銃自体はそのうち普及させたいと思っている。
別に、【ガンスリンガー】が特別強いというわけではないし、遠距離の攻撃手段なら弓が、サポートでも【アコライト】で十分と言う話ではあるんだけど、色々とクラスがあった方がいざという時に対応できる可能性が上がるかもしれない。
いずれは粛正の魔王との戦いが控えているのだし、そのためにも多くのクラスは必要だろう。
プレイヤーがその役目を担えれば一番いいけど、すでにそんなに数がいないみたいだしね。少しでもこの世界で戦力を整えないといけない。
その第一歩として、銃は有用だと思う。クラスなんかなくても、ただ撃つだけでそれなりの威力は出せるしね。
「後は、国の様子を見つつ、仲間を集めていくだけなの」
粛正の魔王との戦いがいつになるのかはわからない。けれど、いざ戦う時に味方が少ないのは心もとない。
せっかく俺と同じ転移者が何人かいるのだから、一致団結して戦った方がいいだろう。
そのためにも、アルメダ様に教えられた人材を探しに行かないといけない。
差し当たって、必要なのは船だろうか。隣の大陸は陸で繋がっていないし、渡るなら船が必要となるだろう。
確か、ヘスティアの南にあるバーンド王国は港があったよな? ひとまずは、そこに行って見るか。
そんなことを考えながら、久しぶりの王都を堪能していた。
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