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第三十五話:一緒に食事

 あれから一か月ほどが経過した。

 当初の計画通り、訓練のついでに兵士達に聞き取りを行い、順次レベルアップさせる作業を繰り返していたらあっという間に時間が過ぎていた。

 多くの兵士はやはり弓よりも使い慣れた剣や槍をメインに使いたいらしく、成長もそれに合わせたものを望んでいた。一部、俺に憧れて弓使いを目指す者もいたが、全体的なバランスとしては悪くない。【弓術】専門の兵士ができるのはいいことだ。

 兵士達にはそれぞれの希望に合わせたクラスを当てはめてあげた。

 カシュさんがそうであったように、レベルアップ成長に加えてボーナスによる成長にクラス補正が加わったことによって飛躍的に能力値が伸び、大いに活躍してくれるようになった。

 最近では【弓術】に加えて【剣術】や【槍術】も同時に上げることにしている。スキルレベルは軒並み4以上。半数以上は5を達成しており、中でも優秀な者は6に届いている者もいる。

 砦に勤めている兵士も短期間に何度か入れ替えがあり、砦を守っている兵士だけ置いてけぼりなんてこともない。今であれば、たとえシャドウウルフの群れが襲ってきても同じ人数で十分に対処できることだろう。

 教えられることはほぼ教えた。後はスキルの研鑽をしてより高みを目指すのみだ。


「アリス、今から飯か?」


「ゼフトさん。うん、今からご飯なの」


 いつものように訓練を終えて戻ってくると、ゼフトさんに呼び止められた。

 本来は半年に一度交代するらしいんだけど、急遽【弓術】の訓練をすることになってその期間が短くなった影響でそうそうに戻ってきたらしい。

 ゼフトさんは相変わらず真面目で、俺が先生をやっていると言っても全く驚かず、喜々として指導を受けてくれた。

 砦では一番の槍使いであったが、今では【弓術】が4、得意の【槍術】に至っては7にまで上がっている。

 部下の方はちょっと腑抜け気味であれだったけど、ゼフトさんが一喝入れてやったらすぐにしゃきっとしたし、ゼフトさんはリーダーとしてうまくやっていけそうだ。


「よければ一緒に食べないか? いい店を知ってるんだ」


「そうなの? じゃあ、一緒に食べるの」


 いつもはシュテファンさんの家でご馳走になっているが、たまには外で食べるのも悪くないだろう。

 この三か月でお給料の方もそこそこ入っているし、ご飯食べに行くくらいは造作もない。

 久しぶりにゼフトさんとも話したかったしな。


「よし、では行くとするか」


 一度兵舎に戻り、着替えてから町へと繰り出す。

 街には頻繁に出かけているが、そういえばご飯を食べたことはなかったなと思い至る。

 せいぜい、旅用の食料を買い集めたり、武器防具屋に顔を出してみたりする程度。そりゃ、あまり見所のない町ではあるが、こういう町だからこそ掘り出し物があるかもしれないと思うと惜しいことをしたかなと思う。

 その点、ゼフトさんが案内してくれるなら安心だ。もし美味しかったら個人的にも食べに行こうかな。


「ここだ」


 入ったのはこじんまりとしたお店だった。外見では何のお店かわからなかったが、中に入ってみるとここが肉を扱う店だとわかる。

 じゅわっと焼ける肉の匂い。香ばしい煙。なるほど、ここは肉専門店と言ったところだろうか。

 ゼフトさんと共に席に着くと、ゼフトさんは慣れた様子でメニューを開く。ちらっと見てみたが、まあ肉一色だった。

 どうやら森で獲れた動物の肉を出しているらしい。牛肉や豚肉と言った見慣れた肉の名前はなかったが、逆にどんな味がするんだろうと興味を引かれた。

 おすすめというメニューがあったのでそれを注文し、店員を呼ぶ。その時、店員さんが俺の方を見て食べられますか? と聞いてきたが、まあ多分大丈夫だろうと適当に返しておいた。

 でも、店員が去った後でよくよく考えたらこの体は小食だったなと思いだしてちょっと後悔する。

 兵士らしくワイルドなお店を選んだのかもしれないが、小柄な女の子を連れていくお店としてはちょっとミスマッチかもしれないな。

 まあ、ゼフトさんの事だ。俺が残したとしても食べてくれるだろう。


「おお……」


 しばらくして料理が運ばれてくる。

 お皿に乗せられていたのは今さっき焼かれたばかりなのかジュージューと脂の音を滴らせる肉厚のステーキだ。

 ステーキは元の世界でも食べたことはあったが、ここまで大きなものは初めてかもしれない。

 これで食べてくださいと言う意味か、皿の端には小振りなナイフが置かれている。

 これ、解体ナイフとかそういう類のものだよな? まさか食器としてのナイフがないわけではないと思うが……まあ、元々冒険者だった人が作った町だしそれが普通、なのか?

 旅の途中で野営をする時は短剣を包丁の代わりに使ったりするとは聞いたことがあるけど、ちゃんとしたお店で出すのはどうなんだろうか。

 まあ、ゼフトさんは全然気にしていないようだし、これが普通なんだろう。別にナイフが汚いってわけでもないし、そこまで気にすることはないのかもしれない。

 ゼフトさんがザクザクと豪快に切って刺して口に運ぶのを見て真似してやってみる。

 若干硬かったが、噛んだ瞬間に肉の旨味が口いっぱいに広がって思わず目を見開いてしまった。

 なにこれ、普通に美味しい。程よく焼けていて臭みもあまりなく、がつがつ食べていける。

 何かソースがかかっているのか味も申し分なく、一緒にご飯が欲しくなるような美味しさだった。

 一応、男性の前で女性があまりがっつきすぎるのはどうかとも思ったが、元々俺は男だし、この店はそういう食べ方を推奨しているように思えるからいいだろう。

 気が付けば300グラムはあろうかという肉の塊をすべて平らげてしまっていた。

 アリスは小食でも満足できる身体ではあるが、たくさん食べることもできるらしい。なんて便利な身体なんだ。これで太らなかったら最高だな。


「いい食べっぷりじゃないか」


「む……まあ、久しぶりだったから、なの」


 夢中で食べていたせいか、途中からゼフトさんがこちらをじっと見ていることに気付かなかった。

 そうやって見られていたと思うと少し恥ずかしい。普段はこんな大食いキャラじゃないんだけどな……。


「そうか、アリスが嬉しそうで何よりだよ」


 そう言ってわしゃわしゃと俺の頭を撫でてくる。

 耳の根元に手が当たって少しくすぐったい。でも、悪い気はしないな。

 こうして頭を撫でられたのはいつぶりだろうか。全然記憶がないや。


「ゼフトさん、私ちゃんと教えられてると思うの?」


 兵士達は皆強くなった、アリスさんのおかげだと言っているけれど、ゼフトさんにとってもそうなのだろうか。

 ふと気になった疑問にゼフトさんは手を止めると、安心させるようにポンポンと頭を叩く。


「当たり前だろ。むしろ、この短期間でここまで練度を上げた奴を俺は知らない」


 本来、スキルレベルというのは地道な訓練によって何年も時間をかけて行うものらしい。特にスキルレベル3以降は一気に伸びが停滞し、生半可な訓練では上がらない。兵士としてならスキルレベル3あれば十分使えるレベルなのだそうだ。

 それを三か月足らずでスキルレベル5まで上げた。これはシュテファンさんを凌ぐ大きな功績らしい。

 やっていたことは単なる地道なレベル上げなんだけど、そう言われると凄いことのように思える。

 砦のリーダーであるゼフトさんから見てそうならばきっとちゃんと教えられているのだろう。

 少し、肩の荷が下りた気がした。


「これからも、先生として色々教えてやってくれ」


「わかったの」


 このまま先生としてここで過ごすのもいいかもしれない。

 得も言われぬ心地よさを俺は感じていた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  領主様の館での食事よりワイルドな焼き肉の方が『美味しー』と思う秋一くん( ̄∀ ̄)たぶん単純にお肉が大好きなんだろーなー、そりゃあ高校生だったんだからガツンとデカいお肉を頬張りたいです…
[気になる点] 肉300gは子供でも普通に食べれそうな気が……
[一言] いわゆるマンガ肉もいいですが、今話の様な 肉厚のステーキを豪快にかぶりつくのもいいですね あ、焼き加減はウェルダンでお願いします
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