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幕間:小さな剣聖

 アフラーク王国の第一王子、シュライグの視点です。

 僕はアフラーク王国と言う国の第一王子として生を受けた。

 優しい母に優しい父、それに使用人達に囲まれて、僕は何不自由なく育ったと思う。

 一人で立てるようになってからは、模擬剣を握ってみたり、魔法を使ってみたり、色々とチャレンジもしていたが、それも王族だからこその贅沢だったと今なら思う。

 まあ、まだ小さかったこともあって、そんなに触る機会はなかったけど、しっかりと教育も施されて、子供ながらに、次期国王となるのかなと思ったりしていた。

 そんな優しい世界が崩れ去ったのは、アレクが生まれた時である。

 僕はいわゆる側室との子で、アレクは正妃との子。血筋としてはそう変わりはないけど、父上はそれを酷く気にする人だった。

 しばらくの間は少し放置されるくらいで何も問題はなかった。僕もアレクの世話が忙しいんだなと理解していたし、それで我儘を言ってはいけないとも思っていた。

 けれど、アレクが少し成長し、同じように教育を受け、剣やら魔法やらに触り始めたら、扱いが一変した。

 今まで優しかった父上は、僕をゴミを見るような目で見下し、部屋に閉じ込めた。

 今まで世話をしてくれたメイド達も全員いなくなり、代わりとばかりに与えられたのは犬獣人のメイドであるアスターだけだった。

 最初は訳がわからなかった。何か悪いことをしてしまったんじゃないかと思って必死に謝った。

 けれど、僕が部屋から出されることはなく、罵倒を浴びせられるだけだった。

 後からわかったことだけど、父上はアレクを次期国王にしたいらしい。しかし、そのためには第一王子である僕の存在が邪魔だったようだ。

 だから、僕の存在をなかったことにしようとした。

 外界からの情報を一切遮断し、みんなに僕がいないと思い込ませようとした。

 冷静に考えて、その企みはうまく行くはずもないことは僕でもわかった。だって、僕はすでに城中の人に知られているし、町の人達にだってお披露目したのだから、知らない人の方が少ないくらいである。

 だから、今更なかったことにしようとしたところで無意味だし、そもそもアレクを次期国王にしたいのなら喜んでその座を譲ろうとも思っていた。

 才能と言う意味で、僕はアレクにかなり負けてしまっている。剣にしても魔法にしても、今の時点でアレクの方が上だろう。

 国王は優秀な者の方がいいに決まっている。であれば、僕は潔く身を引くつもりだった。

 けれど、父上はそれでも僕を出してはくれなかった。いずれ裏切るかもしれない、誰かに操られて野心を抱くかもしれない、そんなことばかり考えているようだった。

 だから僕は待つことにした。またいつか、元の優しい父上に戻ってくれる日を。

 幸いにして、僕の味方はたくさんいたようだ。アスターから聞いた話ではあるけど、母上は毎日のように父上を説得してくれようとしたようだし、お世話になったメイド達や騎士達も同情してくれる人が多かった。

 みんなから諭されれば、いつの日か元に戻ってくれる。そんな日が来ると思っていた。

 けれど、一年経ち、二年経ち、三年も経った頃にはそんな希望を持つことも難しくなってきた。

 代り映えのない景色、代り映えのない食事、延々と繰り返される同じ毎日に僕は狂ってしまったのかもしれない。

 だから僕は、町に出ることにした。

 僕は部屋に閉じ込められてはいるけど、味方は大勢いた。

 アスターに頼めば、窓から脱出するためのロープを用意してくれたし、降りた後で町の外まで送り出してくれる兵士もいた。門番だって、無言で見逃してくれたのだ。

 そうして町に出た僕は、早々に現実を見せつけられることになる。

 町に出さえすれば、誰かが守ってくれると思っていた。哀れな王子として同情してくれると思っていた。

 けれど、出会ったのは僕を利用してお金をふんだくろうとした悪人だった。

 もしかしたら、僕は物凄く運が悪かったのかもしれない。幽閉されたのだって、アレクが生まれなければこんなことにはならなかったのだから。

 もちろん、アレクのせいだというつもりはないけれど、少しくらいは考えてしまう。

 このまま僕は城に送り帰されるか、もしくは悪人達の手によって殺されてしまうだろう。

 諦めかけていたその時、奇跡は起こった。

 目の前に現れたのは兎族の少女。その少女は、瞬時に悪人の前に立ちはだかると、軽くひねって気絶させてしまった。

 そこまで詳しくはないけれど、兎族は非力で戦う力はないという話を聞いたことがあった。そうでなくても、僕とそう変わらないくらいの年の少女があんなに簡単に倒してしまうなんて思いもしなかった。

 アリスと名乗った少女は、何と城に忍び込むつもりだったらしい。その時は無謀だと思ったけれど、実際にやり遂げて、捕まっていたアスターを助け出してくれたし、本当に凄い人なんだと思う。

 本人は冒険者と言っていたけど、あれは多分、そんなくくりに収まらないと思う。

 それこそ、剣聖のような特別な役職に就く人じゃないだろうか。

 剣聖といえば、どうやら僕はその剣聖になれる器であるらしい。

 以前剣を握った時はとてもじゃないけど戦えないと思ったのに、そんなことあるのだろうかと思ったが、アリスさんは何か確信めいた様子でそう言っていた。

 実際、その後に行われた特訓で、僕は見る見るうちに強くなった。怖いくらいに。

 とてもじゃないけど、あれは普通ではないと思う。そもそも、教会にも行っていないのにレベルが上がっているのだから、アリスさんはもしかしたら教会の関係者なのかもしれない。

 あっという間に僕のレベルは50を超えた。

 レベル50なんて、この国の騎士より強い。まだ子供である僕が、騎士より強いなんて何の冗談だろうか。

 でも実際、相手にした魔物に負ける気はしなかった。剣を握れば手に取るように動かし方がわかるし、魔物の動きも簡単に読むことができた。

 いくらレベルが上がったからと言って、こんなに変わるものなのかという疑問もあったが、もうその時にはアリスさんだからと思うようになっていた。

 だって、あの人は色々規格外なんだもん。

 隣町とはいえ、馬車で数日はかかる距離を一日もかからずに走り切ったり、妙なゲートのようなものをくぐったら全く別の場所に転移していたり、あれだけ強くて本当の得物は弓だったり、もうアリスさんなら何でもできるんじゃないかって思ってしまった。

 アスターもその毒牙にかかって、銃と言う特殊な武器を扱えるようになったしね。

 近衛騎士を一瞬で気絶させるほどの威力を遠距離で出せるのは凄いと思った。


「貴様を正式に剣聖として認める」


 僕もイビルワームを倒し、父上から剣聖になる資格を得た。

 けれど、別に剣聖自体に興味はなかった。

 元々、父上からの暴言に耐え切れずに逃げ出した身である。本来であれば、そのまま国を離れて、どこかでひっそりと暮らせればそれでよかった。

 あえて剣聖の道を選んだのは、アリスさんが必要としてくれたからと言うのもあるけど、力があれば国を守れるかもしれなかったからだ。

 止められているにも拘らず会いに来てくれるアレクや、同情してくれるメイドや騎士達、それに町の人達のことは好きだったから、それを守れるなら剣聖になってもいいかなと思った。

 そして何より、剣聖になれば、父上が認めてくれるかもしれないと思ったから。

 ほんのわずかでも、元の優しい父上に戻ってくれるかもしれないと思ったからこそ、必死で強くなったのだ。

 でも、結局父上は僕を認めてはくれなかった。父上が見ているのは、剣聖と言う強者だけ。僕はただのおまけで、力がなければ見捨てるんだろうなとわかってしまった。

 だから、もう期待しないことにした。

 剣聖として国を守る。それは良しとしよう。けれど、父上を守る気にはもうなれなかった。

 国を離れ、アリスさんの下で暮らす。それが一番、僕にとって幸せになれる道だと思った。

 アリスさんなら、決して見捨てないだろうとも思ったしね。本人はあくまで自分のためとは言っていたけど、あれは絶対そんなの関係なしに手を差し伸べてくるタイプだと思う。

 未だにその正体は謎だけど、もうどうでもよくなっていた。


「どこまで役に立てるかはわからないけど、精一杯頑張ろう」


 経緯はどうあれ、僕は剣聖になった。であれば、その責務を全うしなければならないだろう。

 ずっと閉じ込められていた僕だけど、せめて足を引っ張らないように頑張らなくては。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒牙www 言い方が辛辣w
[一言] アリスちゃん達はそういった概念がありますし ヘスティア王国の人達は強くなってこそという面がありますので シュライグくんがあり得ない期間でどんどん強くなっていくのに引いているのが新鮮でした
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