第三百四話:行動開始
ひとまず、探さないことには始まらないということで、それらしい人を探してみることにした。
探すのはカインとサクラ、そしてシリウスである。後一応ライロも。
街行く人を軽く見たところで、その人が努力家だとか忠誠心が高いとかはわからないだろう。
まあ、努力家かどうかは手のたことか、筋肉の付き方とかでもしかしたら判別できるかもしれないが、そんなものを見分けられるほど俺達の目は肥えてない。
まあ、設定に準拠するなら、ベテラン冒険者であるアリスならもしかしたら見分けられる可能性もあるけど、絶対ではないだろうし、そもそも俺自身がそんなに信用していないのでそれで探すのは難しい。
なので、みんなにはフードで顔を隠してもらい、それとなくその人の人物像を聞き出してもらうことにした。
何回もやってたら怪しまれはするだろうけど、それで警備隊を呼ぶようなことはあまりないはずである。
もし仮にそんな事態に陥ったなら顔を晒して信用を得てもいいし、何なら逃げてしまってもいい。
最悪、王都でなくても近くに町はあるので、多少のタイムロスをしてもそちらに回るのも手だ。
では、みんなが探している間俺は何をするかと言うと、シュライグ君の育成である。
俺の容姿はかなり幼い方だし、フードで顔を隠しても特定されやすい。まあ、油断は誘えるかもしれないけど、何回も使える手ではないだろう。
どのみち、シュライグ君に剣を教える人は必要だし、アスターさんを含めて保護する人物は必要。なので、その役を俺が買って出たわけだ。
できれば今日中にそれなりに鍛えておきたいところである。
「一つ聞きたいんだけど、シュライグはどうやったら強くなれるのかわかるの?」
「えっと、戦いを生業にする人はレベルが上がりやすいという話は聞いたことがあります。昔はどんな職業の人も戦う術を持っていて、かなり多様な冒険者がいたと聞いたことがありますね」
「まあ、大体合ってるの」
戦いを生業にする人がレベルが上がりやすいとされているのは、正確に言えば、魔物を倒して経験値を稼げるからだ。
経験値を稼ぐ主な方法は、魔物を倒すか、あるいは模擬戦をする、訓練をするなどの修業を行うことである。
後者の場合、特に危険もなく簡単に経験値を手に入れることができるが、前者と比べると得られる経験値量には圧倒的な差がある。
それに、この世界の人々は1レベルアップさせるのに、通常の冒険者がレベルアップするのに必要な経験値の何倍もの経験値を要求される。
最初の3レベルくらいなら、修行だけでもレベルアップできるかもしれないが、それ以降は魔物を倒すなどの戦闘経験を積まない限りはレベルアップは厳しいだろう。
そう考えるとこの年で3レベルあるのは割と凄いことなのかもしれないが、恐らくは王族の英才教育の賜物ではないだろうか。
シュライグ君も最初はちゃんと次期国王としての教育を施されていただろうしね。
「強くなるには戦うのが一番なの。だから、シュライグにはまず戦う術を身に着けてもらうの」
「剣術、ってことですよね。そんな簡単に覚えられるんですか?」
「まあ、初歩なら簡単なの。そこから成長できるかどうかはシュライグのやる気にかかっているの」
実際、【剣術】と言うスキルはあるけど、覚えるだけならそう難しくもない。適当に剣を振り回しているだけでもレベル1、もしくは0で取得することができる。
0の場合はほとんど才能がないから諦めた方がいいようだけど、逆に一あればどんどん成長できる。
シュライグ君はどちらかと言うと魔法の方を練習していたようだけど、力が足りないだけで剣の方がよっぽど伸びしろがあるはずである。
「とりあえず、これを渡しておくの」
俺はひとまず王都を離れ、人気のない平原までやってくる。
シュライグ君に渡したのは移動前に俺が作成した剣だ。
練習用の剣なので特に追加効果はないが、シュライグ君に合わせて剣の長さを調整したのと、軽量化が施されている。
なので、今のシュライグ君でも十分に扱えるはずだ。
「軽い……剣って、もっと重いものじゃ?」
「そりゃ本物の剣はもっと重いの。ただ、それを使って戦うのはもっと大人になってからでいいの。シュライグはどちらかと言うとテクニックが必要になるの」
剣は力任せに振り下ろして、その重さで敵を切り裂くことが目的だけど、シュライグ君にそんなことしろと言われても無理な話である。
だったら、剣と言うよりは刀のように、引き斬るように力を使った方がいい。
刀と剣では形状が違いすぎるけど、理屈は似たようなものだろう。仮に斬れなくても、叩きつけるだけでも十分効果はあるから問題はない。
今は、いち早く剣の振り方を覚えてもらうのが大切だ。
「まずは私の真似をしてみるの。細かい点はその都度注意するの」
「はい、よろしくお願いします」
「シュライグ様、ファイトです!」
俺はもう一本剣を取り出し、軽く振ってみる。
俺の得物は弓ではあるが、以前マリクスの町で先生をしていた時にある程度学んでいたこともあって、【剣術】もそれなりに扱える。
スキル的には剣よりも短剣の方がいいんだけど、ただ単に基礎を教えるくらいだったら十分できる。
俺に合わせてシュライグ君が剣を振るう。
初めて剣を握ったと言っていたが、確かにかなり足元がおぼつかない。
これでもかなり軽量化はしているのだが、それでも剣に振り回されている感じがする。
あの時教えたのは兵士だったけど、今回は子供だし、普通に教えて行ったらもっとかかりそうだな。
それほど時間がないことを考えると、あまり悠長なことはしていられない。
基礎は最低限必要だから教えるが、ある程度覚えたらさっさと次のステップに移ってしまおう。
「足運びを意識するの。目線は前に、斬るべき場所をよく見るの」
「はい!」
しばらくの間、シュライグ君のえいやという掛け声が続いた。
まあ、いくら【剣聖のカリスマ】なんてスキルを持っているとはいっても、半日程度剣を振るった程度じゃ流石にものにはならない。
一応、【剣術】自体は生えてきたので、後はこれを育てつつ、レベルアップさせてクラスを与え、スキルも付与していく形になるだろう。
この世界基準で剣聖を作るのは無理だ。どうしても、スキルに頼ることになる。
流石に一か月足らずで【剣術】を8とかまで上げるのは無理だよ。
まあ、【剣聖のカリスマ】の効果で成長補正がかかってるとかならあり得るかもしれないが、そんな効果ないよね?
「さて、今日はここまでにしておくの。お疲れ様なの」
「はぁはぁ……あ、ありがとうございました」
空も暗くなり、太陽に変わって月が見え始めた頃、シュライグ君は地面に大の字に寝転がりながら息を荒くして礼を言ってきた。
かなり向上心があっていいと思う。やる気がなければ、この時点で諦めていてもおかしくはないしな。
やはり、剣聖になるべくして生まれたようなスキルを持っているのだからある意味当然なのかもしれないけど、この調子で頑張っていってほしいものだ。
「さて、向こうは見つけたかな」
一日程度で見つかるとも思っていないが、もし見つけてくれたらかなり大きいんだけど。
とにかく、今日も宿屋に戻って報告を聞くことにしよう。
俺は動けない様子のシュライグ君をアスターさんに任せると、宿屋へと戻っていった。
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