第三百三話:そううまくはいかず
翌日。ギルドで依頼を確認してみたが、それらしい依頼はなかった。
この世界の魔物の名前は『スターダストファンタジー』の時と同じ名前だから、名前や特徴を見れば何となくどういう魔物かはわかるんだけど、そんなに強いのはいなかったという。
まあ、もしかしたらそう言う難しい依頼は高ランクの冒険者にのみ開示されているのかなと思って受付にも聞いてみたけど、あるかどうかすら答えてくれなかった。
そりゃそうか。話を聞いて興味を持った普通の冒険者が、俺でもやれるんじゃね、とか思って狩りに行って返り討ちに遭って死んでしまいましたじゃ困るし。
もちろん、そんな馬鹿はいないとは思うけど、何事にも例外はあるし、そもそもそう言う依頼は市民の耳に入れたらパニックを起こすかもしれないからあえて秘匿しているという可能性もある。
一応俺達は冒険者だが、この世界ではまだ登録はしていない。特に俺は、年齢制限を満たしているのに突っぱねられる可能性もある。
別に冒険者登録してまで冒険者しなくても似たようなことはできるし、お金にも困ってないから別にいいかなと思っているけど、いい加減対策を考えた方がいいんだろうか。
以前、冒険者登録をしようとした時に突っかかってきたあの冒険者に一泡吹かせたいというのもあるし、いつか冒険者登録はしたいと思っている。
ま、今はそれは後回しだけどな。
「どうします? 高ランクの冒険者に直接話を聞くというのも手ですが」
「流石に一般人にホイホイ依頼内容を話す馬鹿はいないと思うの。いたとしても、それは横取りになるだろうし、ちょっと申し訳ないの」
いくら急いでいるとはいっても、流石に依頼を横取りしようとは思わない。
冒険者同士で依頼の横取りが発生した場合は、示談に持ち込むか、それができなければ横取りした側が厳しく処罰されるらしいので、自称でも冒険者の俺達がそれをやっちゃダメだろう。
仮にその冒険者達が絶対にそいつに勝てないとわかっていたとしても。
まあ、手助けして、そのお礼に魔石を貰うとかならまだいいかもしれないけど、そう都合よくそんな冒険者がいるはずもない。
時間もないし、魔石の方は諦めた方がいいかもしれないな。
「となると、人探しですか。あてはあるので?」
「いや、まったく」
「でしょうね。これは難航しそうです」
努力家でカリスマ性があって国への忠誠心が高い人なんて、すでに国の要職についているだろう。
参謀とか、大臣とか、将軍とか、よほどこの国の王様の目が腐っていなければ出世していそうな気がする。
もちろん、ここはヘスティアではないから、例えば平民とかにはスポットが当たらず、くすぶっている人もいるかもしれない。
強いて言うならそう言う人をターゲットにして探すのが無難だとは思うが、果たしてそんな稀有な人がいるかどうか。
「人手が必要だと思いますが、サクラ達も呼びますか?」
「少なくとも、シュライグ達には一人はつけておきたいの。呼び出すとしたら、シリウスだけなの」
今、二人には宿屋でシュライグ君達と共に待ってもらっている。
シュライグ君はあんまり人目に晒したくないし、アスターさんもすでに抜け出したのは気づかれているだろうから指名手配されているだろう。
一応、二人にはフード付きのマントを上げたけど、それだけだと不安が残る。
だから、宿屋に残ってもらっているわけだ。
ライロを含めて五人で泊まるところを二人さらに追加しているわけだからちょっと問題だけど、まあその辺は去り際に二人分追加で料金を置いておけばいいだろう。
「では、一度戻ってみましょうか。案外、お客さんの中にいるかもしれませんよ?」
「いや、流石にそれはないの」
まあ、もしかしたらそう言う稀有な人もいるかもしれないけど、そんな都合よく見つかるはずもない。
見つかるとしたら、それは相当運がいいことになる。
……そういえば、スターコアを手に入れたのに神様とお話ししてなかったな。
結局、兎の時は話せなかったので後回しにしていたが、戻った後も全く試していなかった。
まあ、いつでもいいとは思うけど、何かわかったことがあるかもしれないし、今日の夜にでも試してみようかな。
ワンチャン、今探している人物についても聞けるかもしれないし。
「お、戻ったか。どうだった?」
「外れですね。それらしい情報はありませんでした」
「そうか……となると、本格的に人探さなきゃだな」
カインの予想は当然当たるはずもなく、そもそも昼時でもないので客とすれ違うことすらなかったという。
まあ、それはともかく、人探し。特定の個人を探すというならまだしも、その条件に当てはまる人物を探すというのは難しい。
なにせ、傍から見たらその人がどういう人物なのか全くわからないからな。
名前さえわかれば、キャラシを見ることによってある程度は把握することができるが、道行く人に片っ端から名前を聞いていくわけにもいかない。
ある程度、これだと思う人を見つけない限りは試せないだろう。
しかも、あんまりやりすぎるとマークされる可能性がある。別に悪意はないが、こそこそ怪しい動きをしていたら何をやってるんだと思われることもあるだろう。
特に、俺達は今ヘスティアの使節団として謁見を申し込んでいる最中である。
そんな立場の人があれこれ町の人に聞いていたらおかしいだろう。観光と言い張るにしても限度がある。
そう言うわけで、試せる人数も限られている。
顔を隠せばまだ何とかなるだろうか? 俺はかなり特徴的だが、カインやサクラならまだいけるかもしれない。
「えっと、剣聖になれる人を探しているんですよね?」
「そうなるの。もちろん、シュライグには剣聖のように強くなってもらうつもりだけど、この国に仕えるべき剣聖は別で用意したいの」
「僕じゃ、ダメなんですか?」
「シュライグがこの国に仕えたいっていうならそれでもいいの。シュライグはこの国に仕えたいと思うの?」
「それは……」
シュライグ君は俯いて押し黙ってしまった。
まあ、今までさんざんいらないだの必要ないだの言われ続けてきたのだから、わざわざ仕えたいとは思わないだろう。
もちろん、父親である王様に一泡吹かせたい、見返したいって気持ちはあるんだろうけど、だからと言ってそのまま国のために働きたいかと言われたらノーのようである。
多分だけど、シュライグ君の中では、父親に認めてもらいという欲求が一番強いんじゃないだろうか。
もし、シュライグ君が剣聖になったとして、その強さを目の当たりにした時、王様がその強さではなく、シュライグ君自身を欲したのなら、シュライグ君は国に仕えるという選択をするかもしれない。
でも、ただ単に強さに目がくらんで、その力が欲しいってだけなら、絶対に頷かないと思う。
親に認めてもらいたいのは子供なら誰もが思うことだ。いくら強くなっても、それが自分の功績でないと思われたならいい気はしない。
ま、十中八九シュライグ君はこちらに来るだろう。もしどうしてもこの国に仕えるというなら……まあ、その時は手助けしてもいいけどね。
シュライグ君には、なんとなく幸せになってほしいし。
そんなことを考えながら、どうやって探したものかと頭を悩ませた。
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