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第三十三話:息抜き

 レベルアップに関しては割とすんなりとすることが出来た。

 あの後、カシュさんに色々聞いてみたが、確かに言われてみれば力が強くなったり体が軽くなったりといった感覚はあったが、意識しなければ気づかないほどの変化だったらしい。

 いや、むしろ意識すれば気づけるだけの変化なのだから凄いのだろうか? その辺の感覚は『スターダストファンタジー』では感じられなかったからよくわからない。

 レベルアップによる能力アップはクラスによって伸びやすい能力値と伸びにくい能力値があり、レベルが上がるにつれてそのクラスに特化していくことになるが、上がる数値自体は微々たるものでしかない。

 冒険者が強いのはレベルアップによる能力上昇に加え、追加で三つの能力を上昇させられ、クラス補正があるからこそだ。

 それらのうち二つがなかった状態が普通だったのだから強くなったと思うのは当たり前ではある。

 ただ、レベルアップしたぞー、とか新しいクラスが加わったぞー、とかそういう感覚はないらしい。実際、この世界のレベルアップでもレベルアップ前と後で特にこれと言って知覚できることはなく、鑑定石によって結果を表示されてようやくあ、レベルアップできたんだな、と感じとれるようだ。

 もちろん、レベルが高くなってくればレベルが低い時と比べて力が強くなったな、とかは感覚でわかるようだけど、レベル一や二程度の変化ならほとんど変わらないのが普通らしい。

 つまり、同意さえ得られればこっそりレベルアップさせてもばれないということだ。

 まあ、同意を得るには結構突っ込んだ聞き方をしなきゃいけないから怪しまれてしまうかもしれないけど、レベルアップしたかどうかなんてその場ではわからないし、こちらから言わなければ問題はないだろう。

 上昇させる能力値とクラスを得るかスキルを得るかを聞く必要もあるけど、これに関してはアンケートのようなものを実施して今後の訓練に取り込んでいくことにすれば、能力が上がったことに気付いた者がいたとしても誤魔化せるはずだ。

 ただ、レベルアップさせるには経験値が必要となるので、溜めていた経験値を使ってしまうのが少し気がかりではある。

 経験値と言えばレベルアップのために必要なものだけど、それは『スターダストファンタジー』での話。この世界でもレベルアップのために経験値を使うようだけど、もしかしたらそれ以外の使用方法もあるかもしれない。

 そうなった時に勝手に経験値を使ってしまうのは問題があるかもしれない。

 ただ、これに関しては多分大丈夫だとは思う。シュテファンさんに聞いた限りでは他の使い道なんてなさそうだったし、あったとしてもレベルアップで能力向上を目指した方が有意義だろう。

 それに俺のやるレベルアップはこの世界にはないクラスを付けることが出来る。他に有意義な使い方があるとしても、それをレベルアップ一回分無駄にするだけで恒常的に補正がかかるのだから、俺のレベルアップの恩恵は大きいはずだ。

 もちろん、望まない者までレベルアップさせるつもりはない。この世界でのレベルアップはとても名誉なことかもしれないし、その機会を奪ってまで強くしてあげようとは思っていない。

 すべては兵士達の意思次第だ。レベルアップを望むのか、これからどの武器をメインにしていくのか、どのような方向性で能力を伸ばしていきたいのか、それらをきっちり聞いて、それに見合った処理をする。それが俺にできることだ。


「さて、成果のほどは、なの」


 カシュさんをレベルアップさせてから数日。訓練の様子を見る限り、カシュさんはかなり強くなったように思える。

 【アーチャー】の補正のおかげか、狙いも割と正確になったし、弓を引く力も強くなったように思う。【弓術】も短期間の間にスキルレベルが一つ上がり4となった。

 もしかしたらこの世界でクラスは無意味なものかもしれないという考えもあったが、それは杞憂に終わったようだ。補正がなければ、あんな短期間であれほどうまくはならないだろう。

 カシュさんはちゃんと俺との約束を守っているようで、他の兵士達に何か聞かれてもレベルアップしたことは話していない様子。まあ、いずれ他の兵士達もレベルアップさせるつもりではあるけど、カシュさんのように面と向かってレベルアップさせますと言う気はない。

 ひっそりとレベルアップさせて、ひっそりと強くなってくれたらそれでいい。

 まあ、一番なのはその強さを使う場面が来ないことなんだろうけどな。

 あれから砦の方で強力な魔物が出たという話は聞かない。

 今までもシャドウウルフ級の魔物はあまり見たことがないというし、あの時はたまたま運が悪かっただけなのだろう。これからも来ない保証はどこにもないが、頻繁に来ることはなさそうである。

 それはそれで教えた甲斐がないかもしれないが、平和な方がいいに決まっているのでそこは気にしない。一年に数回起こるくらいの有事の際に役立ってくれればそれで十分だ。


「ひとまず、今やるべきことは……」


 カシュさんの例を見てレベルアップは有効であることがわかった。だから、まずはさっきも言っていた通りアンケートを取り、レベルアップさせるか否かを決めて行くことが重要だろう。

 できれば一人一人に聞いて回って直接声を聞きたいところ。紙とかに書いてもらう方法だと解釈の仕方によって行き違いが出てくるかもしれないし。

 せっかくクラスを付与できるのだ、そこらへんはきっちりと聞いて望み通りにしてあげたい。

 100人近くいる兵士全員に話を聞くのは大変だろうけど、時間には余裕がある。ゆっくり聞いて行けば問題ないだろう。それに、あまりいっぺんにレベルアップさせてしまっては違和感を持たれてしまうかもしれないし、少しずつやっていった方がいい気がする。


「まあ、コツコツやっていくの」


 ここに来てから約二か月ほど。ここでの暮らしにもだいぶ慣れてきてしまった。

 もちろん、貴族邸での高水準な暮らしに限定されているけれど、なんだかんだこの世界に馴染めているようで喜んでいいのかどうなのか少し悩む。

 第一目標は元の世界に帰ることだが、それには情報が必要だ。しかし、元の世界に戻る方法なんてどうやって調べたらいいのかわからない。

 そもそもここはどこなのか、それすらもわかっていないのだから。異世界なのか、夢の中なのか、ゲームの中なのか、俺には見当もつかない。

 だから、ひとまず元の世界のことは置いておいて、この世界の事を知ることから始めようと思う。そうすれば、いずれは夏樹達にも出会えると思うしな。

 そんなことを考えながら昼食を食べると、午後の訓練までの間に少し息抜きに出かけることにした。


 俺の身柄はシュテファンさんが保証してくれているが、何もずっとシュテファンさんの家に籠っているわけではない。

 別に拘束されているわけでもないし、訓練がない時間は街に出かけたりもする。

 図書館以外は特に見所のない町ではあるが、ファンタジーな世界観の街並みというのは現実とかけ離れていて見ているだけでも結構楽しい。

 最初に来た時は食料を買い込んだり図書館に行ってみたりしていたが、最近では適当な階段に腰かけてぼーっと町ゆく人達を眺めたりしている。

 この町の兵士達は大半が本業の合間に来ている通いだから、よく俺に挨拶してくる人もいるけど、基本はちらっとこちらを見るだけで何もしてこない。

 これに意味があるかと言われたらないけれど、でも、こうしているとゲームの世界の一員になったようで少しワクワクする。それがいいことなのかどうかはともかくとしてね。

 まあ、テンプレならここで冒険者ギルドにでも行って強面の冒険者に絡まれるとかやるべきなんだろうけど、生憎とこの町に冒険者ギルドはない。

 かなりの辺境だし、あるのは広大な未開拓地域のみ。冒険者としてはダンジョンにでも潜って一攫千金する夢を追った方がまだましだろうし、仮に討伐依頼なんかが出されてもこの町の人々の戦力なら冒険者の力なんて借りなくても大抵は倒せるらしい。

 その割にはシャドウウルフに苦戦していたのがあれだけど、あれは群れでかかられた上に人手も少なかったからという理由があるからしょうがないと言えるだろう。不意打ちでなく数が揃ってさえいれば俺がいなくても十分対処は可能だったはず。

 まあ、未開拓な以上はその先に何かしらお宝があるかもしれないけどね。以前の調査では見つからなかったらしいけど。


「あれ、アリスちゃん、今日もここにいるの?」


 そんなことを考えながらボーっとしていると、不意に声を掛けられた。

 顔を上げてみると、そこには宿屋でお世話になったミーアちゃんが立っていた。


「また休憩中?」


「うん、そうなの」


 ミーアちゃんは俺の隣に座ると、手にしたバスケットからパンを取り出して分けてくれる。

 礼を言って受け取ると、同じパンから千切ったものをちまちまと食べながら二人でボーっと街並みを眺めた。


「アリスちゃん、シュテファン様にへんなことされてない?」


「さ、されてないの」


「ほんとに? 何かあったらちゃんと言うんだよ?」


 近くに宿屋があるせいか、ミーアちゃんとは割とよく会う。大抵は俺のことを心配して色々聞いてくるのだが、毎回心配が過ぎる気がする。

 そりゃ、俺の見た目は少女だし、兎族はこの世界ではそういう目で見られる種族らしいけど、シュテファンさんはそんな変態じゃない。むしろ、俺なんかにも礼儀を払ういい人だ。

 何度も確認を取るミーアちゃんに大丈夫だと告げて安心させ、もらったパンをかじる。

 すでにお昼は食べているのでお腹はすいていないが、ミーアちゃんの厚意には素直に甘えることにしている。

 あわよくば友達に……というかもう友達なのかな? 割と話しているし。


「アリスちゃんは私がしっかり面倒見てあげないと……」


「あはは……」


 当の本人は友達というより妹のように見ているのかもしれないなこれは。

 ぶつぶつと独り言を呟いているミーアちゃんを見ながら苦笑した。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  確かにレベルアップを教会が請け負ってるだろうけどひとりひとりの能力値をいちいち書き残して次に来た何年も経ってるだろう頃まで管理してるとは思えないから秋一くんの『不自然な能力値の上昇を悟ら…
[一言] 教会に行かない限りレベルアップがバレないのでこっそりと強化しまくれますね 面倒見のいいミーアさんが心配してますが どちらかというと若干、邪な目で見ているのは面食いのアリスちゃんの方( ´艸…
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