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第二百九十七話:小さな決意

「シュライグ、剣に興味はあるの?」


「剣、ですか? いえ、僕はそんなに力がないので……それに持ったこともありませんし」


 いきなりの質問に、シュライグ君は少し戸惑ったように答えた。

 剣を握ったことがないのにこのスキル持ってるのか。となると、これは生まれつきのスキルなのかな?

 【カリスマ】は各クラスに基本的に存在するスキルの一つである。

 ルール的な効果としては、それぞれの武器種の命中率にダイスを一つ追加するというものだけど、それに加えてカリスマ性、要は人を引っ張る力を多少なりとも発揮することができるというテキストがある。

 つまり、【カリスマ】のスキルを持っているだけで、人の上に立つ度量は十分というわけだ。

 そう言う意味では、シュライグ君は十分王様になれる素質があると思うんだけど、まあスキルは正確に把握できているわけではないみたいだし、気づかれなかったんだろう。

 こうなると、アレクトール君の方も少し気になる。もし、何も有用なスキルがなかったなら、まじで王様は見る目がなかったってことになるけど。


「私が見る限り、シュライグには剣の才能があるの。鍛えれば、それこそ剣聖にだってなれるくらいに」


「剣聖に、ですか? そんな、ありえないです。力も弱いし、体力もないし、勇気だって……」


「それは才能に気が付いてないだけなの。私はその才能を開花させてあげることができる。私がシュライグを欲しいと思った理由はそれなの」


「そう、なんですか?」


 いまいち納得いってなさそうなシュライグ君。

 まあ、今まで剣を触ったことない人間にいきなり君は剣聖になれるよと言われても信じられないだろう。

 でも、シュライグ君は今までずっと幽閉されて育ってきた。であれば、思わぬ才能が埋もれていてもおかしくはない。

 少なくとも、このまま幽閉されているくらいなら外に出てみたいと思った勇気は本物だと思う。


「剣なら私達が教えてあげられる。それに、もしシュライグが剣聖並みに強くなれば、お父さんも見返してやれるかもしれないの」


「父上を……?」


「まあ、選ぶのはシュライグ自身なの。私はシュライグが剣の道を極めてくれると嬉しいけど、無理強いはしない。シュライグはどうしたいの?」


 磨けば確実に光る原石。でも、自ら輝きたいと思うかどうかはシュライグ君自身が決めること。

 もちろん、アスターさんを助ける以上はできれば俺の下でその力を振るってほしいと思うけど、助けたんだから当然協力するよね? みたいな感じに圧をかけたいとは思わない。

 あくまで恩を売るだけ。それに恩義を感じてきてくれるかどうかは相手に任せる。

 無理矢理連れてきたって、それは信頼できる戦力にはならないからな。


「……僕は、強くなりたいです。父上を、見返してやりたい!」


 しばし悩んでいた様子だったが、シュライグ君は決意を固めてくれたようだ。

 少なからず、父親に対して思うところはあったらしい。

 自分はいらないと言われ続け、それに慣れてしまったのか、それに応えたいと無意識のうちに思っていた。けれど、100パーセント言いなりになりたいというわけではなかったんだろう。

 できることなら見返してやりたい。自分を要らないと言った父親に一泡吹かせてやりたい。そんな思いがあったからこそ、出た言葉だと思う。


「その意気なの。これから、シュライグには色々と学んでもらうことになると思うの。辛いこともあるかもしれないけど、頑張って乗り越えてほしいの」


「はい、頑張ります!」


「ふふ。さて、これでシュライグの扱いは決まったの。みんな、異存はあるの?」


「いいや? そう言うことなら協力するぜ」


「剣なら私が教えられるでしょうし、剣聖はちょうど必要でしたからね。渡りに船じゃないでしょうか」


「新しい仲間ができたね」


 みんなも反対意見はないようで、受け入れる構えだった。

 カインが言っていたが、今剣聖はちょうど欲していたものだ。

 まあ、その役割はグレイスさんの代わりに押し付けるためのデコイだったわけだけど、シュライグ君自身が欲しいと思っている今、そのために育てることはできなくなった。

 剣聖の身代わりを用意して丸く収めようと思うなら、さらに新たに剣聖になってくれる人を探す必要がある。

 まあ、この国がどうなってもいいと思うなら、別にそんなことする必要はないと思うけどね。

 まだ断定はできないけど、この国は割と腐っているんじゃないかと思う。

 領主が報告してきた剣聖の情報を鵜呑みにし、確定する前に情報を拡散させてしまったのもあるし、シュライグ君のように人の命を何だと思ってるんだという部分もある。

 まだ、聞いただけの話だから本当にそうかはわからないけど、もし本当にそんな国だったとしたら、わざわざ助けるために奮闘しなくてもいいのではないかと思う。

 別に国がなくなるわけではないと思うし、俺はこの国に思い入れなど何もない。

 まあ、例えばいつの日か粛正の魔王と戦う時に、各国と連携するために仲良くしておいた方がいいというのはあるかもしれないが、大国ならともかく、小国だし、どこかの国の属国になるならその国と仲良くすればいいだけの話である。

 最悪、潰されても仕方がなかった国と考えれば別にそれでもいい気はする。

 もちろん、助けられるなら助けたいけどね。関係ないとは言っても、人が酷い目に遭うのを見るのはあまり気持ちのいいものじゃないし。


「さて、そうすると、今度の行動は、まず城に忍び込んで領主と会話、その後、アスターさんを助ける、ってことになるか?」


「ひとまずはそれですね。領主の意見次第で今後の方針を変えましょう。もし、新しい剣聖を用意する時間もないとなったら素直に打ち明けるか、あるいはその時点で領主も救出してしまいましょう」


「あと、早めに謁見の申請を出しておいた方がいいんじゃない? どうせ今日中は無理だろうし、素直に打ち明けるにしろ身代わりを立てるにしろ、王様にも話を聞かないといけないでしょう?」


「確かに申請してすぐに謁見できるとも限りませんし、早めにしておきましょうか」


 この国を助けるか否かはまだ考え中である。

 剣聖を新しく用意してやって、国を救うとしたら、その役割は多分シュライグ君が担うことになりそうな気がする。

 別に、新しく剣聖候補を探してもいいけど、【剣聖のカリスマ】のことを考えるとこれ以上の逸材はいないだろうし。

 でも、だからと言ってシュライグ君をこの国に置きたくはない。

 今まで幽閉して、心無い言葉をかけ続けてきた背景もあるし、そんな人達のために働くのはシュライグ君も嫌だろう。

 もちろん、正式に剣聖と認められれば、扱いはがらりと変わるはずである。幽閉だってされないだろうし、自由に外に出ていくことも可能になるはずだ。

 ただ、少し心配なのは、今まで酷いことをしてきた自覚があるのなら、報復で殺されるかもしれないと思って逆に暗殺して来ようとする場合である。

 まあ、せっかく手に入れた剣聖をみすみす殺してしまうことはない気もするが、シュライグ君の性格によってはそれも十分にあり得ると思って実行する可能性はある。

 せっかく強くなったのに暗殺されるなんて幕引き絶対に許さない。

 そう言う理由もあって、この国の正式な剣聖としてシュライグ君は推したくないのだ。

 適当な人材を送り込んで、仮初の平和を押し付けるか、それとも正々堂々とシュライグ君を立てて、目の前で奪い去っていくか。

 何はともあれ、領主の話を聞いてから考えるべきだろう。

 俺はそう考えて、忍び込む算段を考えていた。

 感想ありがとうございます。


 こちらの小説ではないですが、『捨てられたら転生していた話』の方でレビューをいただきました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうなるかねぇ
[一言] 前話てっきりシュライグくんをこの国の剣聖に据えるのかと アリスちゃんの予想通り暗殺とかの危険がありそうです 扱いも酷かったので堂々と貰って行きたい
感想一覧
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