第二百九十三話:訳ありの少年
「さて、色々聞きたいけど、とりあえず名前を聞かせてほしいの」
「……シュライグ、です」
「シュライグ君ね。じゃあ、何で襲われてたの?」
「それは……」
俺の質問に、シュライグ君は押し黙った。
何か訳ありなのは確かなのだろう。お忍びで来ていたとかならともかく、貴族の子供っぽいのにこんなところで一人になるのはおかしい。
貴族でなく、豪農とかの子供だとか、あるいは剣術などの覚えがあり、脅威を撥ね退けられるとか、そう言うのでない限り、護衛の一人や二人いそうなものである。
もちろん、分断されたとか、たまたま一人の時を狙われたとか色々考えられることはあるけど、一体何があったんだろうか。
「喋りたくないならそれでもいいの。一人じゃ危ないから、親御さんのところまで送っていくの」
「それはダメです!」
「どうして? 親御さんのところに帰りたくない理由でもあるの?」
「……はい。お話します」
親の元に連れて行くと言ったら、シュライグ君は慌てたように話し始めた。
まず、シュライグ君はどうやら王族の一人らしい。
ここアフラーク王国では正妃の他にも側室が一人いるらしく、シュライグ君はその側室の子だという。
シュライグ君は第一子として生まれ、このままいけば次期国王となるはずの人物だった。
しかし、その後正妃との間に第二子が生まれ、王位継承権を持つことになった。
本来であれば、第一王子であるシュライグ君が第一位の継承権を持つはずである。しかし、側室との子と言うことで難癖をつける人が現れ、後に生まれた第二王子、アレクトール君が第一位の継承権を持つことになったとのこと。
シュライグ君はお役御免とされて、その後は静かに王宮で暮らすことになるはずだった。
しかし、それでは王様は納得しなかったようだ。
「父上は、僕の存在をなかったことにしようとしたんです……」
確かに王位継承権はアレクトール君が受け継いだが、一応シュライグ君も第二位の継承権が残っていた。
本来であれば、このまま進めば王位継承権第一位のアレクトール君が次期国王となるはずである。
しかし、それではいつシュライグ君が横やりを入れてくるかわからない。
今は子供だからおとなしくしているけど、大人になれば知恵を付けて妨害してくる可能性もある。
だからこそ、国王はシュライグ君の存在をなかったことにし、排除しようとした。
「僕はずっと、部屋に閉じ込められていました。毎日のように、お前は必要ない、お前を生むべきではなかった、消えてなくなればいいと言って、食事も最低限のものしか与えられなくて、本当に辛かったです」
「でも、ここにいるってことは、逃げ出してきたってことなの?」
「はい。あのまま、あそこで自分を否定され続けるなら、外の世界に出ていきたいと思いました。ばれないようにロープを用意してもらって、それを繋いで窓から逃げました。それで僕はようやく自由になれたんだと思いました。でも、町に出たら、いきなりあいつらが襲ってきて……」
「なるほどなの」
いちゃいけない人間と言うのはそう言う意味があったわけか。
まあ、この男達は王宮の追手と言うよりはただのチンピラ臭いけど、シュライグ君が逃げたことがわかれば、きっと追手も出されることだろう。
この国の王様にとって、シュライグ君はいてはいけない存在みたいだから、何が何でも捕まえて、また閉じ込めておくに違いない。
殺さないのは、曲がりなりにも王子だからだろうか。あるいは、すでに王子のことを喧伝してしまって、露骨に殺してしまったら支持が下がるのを警戒したか。
このまま弱るのを待って、病死したということにしたいのかもしれない。
それにしても、酷い王様もいたものである。
確かに、血筋的には側室との子より正妃との子の方が好まれるのはあるだろうけど、だからと言って正妃との子が生まれたからもう用済みだというのは違うだろう。
そもそも、このままアレクトール君が健やかに成長してくれるならともかく、何らかのアクシデントで事故死とかした場合、その時シュライグ君がいなければ後継ぎがいなくなってしまう。
言い方は悪いが、もしものことがあった時のストックとして取っておくほうがまだ頭がいいと思うけど。
よほどアレクトール君が頭がよかったんだろうか。シュライグ君なんていらないと思うくらい、優秀さに差があったとか?
なんにしても、親のやることじゃないね。
「だから、あそこには戻りたくないんです。今戻ったら、今度こそ殺されてしまうかもしれないし……」
「まあ、多分殺されはしないと思うけど、扱いは酷くなりそうなの」
ここでシュライグ君がこの男達に殺されていたのなら、不幸な事故だったとして処理して終わりかもしれないが、曲がりなりにも生き残ってしまったのだから、ここで帰ってしまったら逃げ出したことへの責任を追及されるだろう。
それがシュライグ君にとって当然の権利だとしても、王様としては都合の悪いことなのだから。
そうなってくると、このまま帰すわけにはいかなくなった。
俺だって、せっかく助けた相手が理不尽な目に遭うのは見たくないしな。しかし、かといってこのまま別れるのも違う。
見たところ、武器の類は何も持っていない。当然護衛なんて存在するはずもないし、次また変な輩に目を付けられたら今度こそ死ぬ。あるいは酷いことをされて精神が折れてしまうだろう。
この国の治安がどの程度かは知らないが、こうしてチンピラが現れているところを見ると、万全とは言えないかもしれない。
そうなってくると、俺が守ってあげなくてはならないと思うけど、四六時中そばにいるわけにもいかない。
俺にだってやるべきことはあるし、一生面倒見ろと言われても無理である。
まあ、ヘスティアに連れて帰って仕事に就いてもらう、とかならできるかもしれないけど、他国の王族を誘拐してもいいものか。
いくら存在を否定しているとはいっても王子は王子である。もしばれたら、国際問題にもなりかねない。ばれることはない気もするけど、少し心配ではある。
さて、どうしたものか。
「……あ、そうだ。一応王子ってことは、城の内情について何か知ってたりするの?」
「城のことですか? 一応、僕付きのメイドは僕に同情的で、色々なことを話してくれます。だから、ある程度のことは知っていますが」
「それなら、ライルの町から更迭された領主の話を聞いたことはあるの?」
幽閉されていたとはいえ、城にいた人物の証言なら信頼もできるだろう。
まあ、幽閉されているのだから情報は入ってこないとも考えられるが、一人くらいは味方がいたようである。
その人も少し心配だな。ロープを用意してもらったと言っていたし、王子を逃がした責任を負わされる可能性もありそう。
助けるなら早めにした方がいいかもしれない。
「それなら聞いたことがあります。剣聖を逃がしてしまい、その責任を取るために城に移送されたとか」
「その人が今どこにいるかは知ってるの?」
「そこまでは……ただ、牢に閉じ込めると言っていたので、恐らく地下牢かと思います」
「やっぱり地下牢なの。地下牢の構造はわかるの?」
「城の見取り図を見たことがあるので大体でよければ」
「完璧なの。ちょっと聞かせてほしいの」
とっさに助けてしまっただけだけど、どうやら助けた甲斐はあったようである。
まあ、どこまで信用できるかはわからないけど、この状況で俺に嘘を言うほどひねくれた性格には見えないし、多分大丈夫だろう。
俺は少し笑みを浮かべながら、情報を聞き出していった。
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