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第三十一話:レベルアップ検証

 森での実地訓練は中々に好評だった。

 兵士という肩書ではあるが、魔物の襲撃などほぼ皆無で、実際に戦う場面のある砦担当の兵士以外は結構退屈していたらしい。

 元々未開拓地域の開拓のために腕に覚えのある人が集められていた関係上、好戦的な人が多いようだ。

 今までは本職の傍ら、町の警備をしたりするくらいで活躍の場がなく、兵士とは名ばかりな日々が続いていたが、今回森に入って実地訓練をするという訓練内容が加わったことで彼らの闘争心に火が付いたらしい。

 弓という慣れない武器ではあるが、実際に魔物を狩るという体験はそれだけで心躍るらしく、しかもそれが割と圧勝気味だったとあれば自信が付くのもわかる。

 まあ、中には調子に乗って怪我をしてしまう人もいるがそれは自業自得だし、回復するついでに注意するくらいで見逃しているが、失敗から学んでもらえたらと思う限りだ。


「だいぶスキルレベルが上がってきたの」


 この一か月ひたすら実地訓練を続けた結果、兵士達の【弓術】スキルのレベルはかなり上がっていた。

 今では二割ほどがレベル4に、七割ほどがレベル3となり、残りも全員レベル2とだいぶ順調に育っている。

 単純に的当て練習をさせていた時と比べて明らかに成長が早い。やはり、実際に魔物を相手にするというのは重要なようだ。

 この調子ならばあと三か月もすれば全員が並み以上には扱えるようになり、半数以上は熟練と言ってもいい腕前になることだろう。

 いや、流石に無理かな? スキルレベルは高くなればなるほど上がりにくくなるし、今のペースよりは確実に落ちるだろうから予想よりは熟練者は少なくなるかもしれない。

 それでも、この短期間でこれだけ成長させられたのだから俺のやり方は間違っていなかったと言えるだろう。中々先生として板についてきたんじゃないか?


「問題はレベルの方なの」


 スキルレベルに関しては、この調子で訓練していけば十分魔物に対抗できる武器となるだろう。しかし、やはりレベルが上がらなければ素の能力は低いままだ。

 いくら遠距離で攻撃ができたとしても攻撃力が足りなければあまり効果はない。

 レベルアップさせること自体は可能だろう。キャラシから【レベルアップ処理】を選んでレベルアップさせるという力が俺にはある。

 問題はそのレベルアップがこの世界では教会の仕事ということだ。

 教会では神様に祈りを捧げ、神様にその者がレベルアップできるにふさわしいかどうかを見極めてもらい、その資格ありと判断されたらレベルアップすることが出来る、ということらしい。

 それが教会としての言い訳で、実際は俺と同じようにレベルアップさせることが出来る人が存在するのか、本当に神様が存在するのかどうかは知らないけど、どちらにしても安易にレベルアップさせてしまえば教会に目を付けられるのは間違いない。

 俺の目標は友達を見つけて元の世界に帰ることだけど、もしそれが叶わないならばこの世界で平穏に暮らしたいと考えている。それなのに、教会なんて明らかに力のある組織に目を付けられるわけにはいかない。

 別に、わざわざレベルを上げる必要はないだろう。俺が頼まれたのは【弓術】の指南であってレベルアップではない。

 もっと言うならばいつまでもこの町にいるつもりはないし、俺がいなくなった後に魔物に襲われるような事態になったとしても、俺には関係のないことだ。俺はちゃんと頼まれたことは果たしているし、それでなんとかならないならそれはシュテファンさんの采配不足ということになるだろう。

 そもそも本当にレベルアップさせることが出来るのかもわからないし、わざわざリスクを冒してレベルアップさせる必要性は全くない。

 ないはずなのだが……。


「やっぱり、みんなには強くなって欲しいの」


 砦でゼフトさん達が死にかけたのを見て、自然と助けたいと思った。それはアリスとして困っている人は見過ごせなかったからだろう。

 でも、それ以上に俺はあの人達の事を気に入っていたのだ。

 保護という形とはいえ、明らかに怪しい俺を砦に置いてくれたし、食事だって用意してくれた。俺はあの人達に救われたのだ。

 そして、それは町の兵士達だって変わらない。この一か月半ほどで、彼らにはすっかり愛着が沸いてしまった。

 一度頼られ、恩義を感じてそれを受けた以上はできる限りのことをするべきだと思う。もしそれで教会に目を付けられた時は、その時はその時と割り切ってしまおう。

 アリスならばどこでだって生きていける。根無し草の冒険者としては放浪の旅も悪くないだろう。


「……色々試してみるの」


 とはいえ、ばれないことがいいのに変わりはない。まずは色々実験してみよう。


 翌日、俺は午後の訓練終わりに一人の兵士を呼び出した。


「アリス様、何か御用でしょうか?」


 兵士としてはそこそこ若く、年齢は17歳。肉屋の店主の息子で、素直で真面目ないい子だ。

 彼を呼び出したのは他でもない、レベルアップの検証をするためだ。

 他者をレベルアップさせるには本人の同意が必要となる。しかし、明確にどうすればいいかは判明していない。

 どの程度の反応なら同意を得たことになるのか、そしてレベルアップさせた時に本人はそれを感じることが出来るのか、その結果によってどういう言い回しをするかが変わってくる。

 俺はコホンと咳払いをしてから質問を投げかけた。


「えー、カシュさんは強くなりたいの?」


「それはもちろん! アリス様のような立派な弓使いになるのが僕の夢です!」


 俺はあらかじめ開いておいたキャラシをこっそり確認してみる。『レベルアップ』を選択してみたが、相変わらず『本人の同意が必要です』と出てきた。

 流石に今のでは弱かったらしい。もっと明確に聞かないとだめだろうか。


「なら、レベルアップしたいの?」


「はい。ですが、僕はまだ若輩者なので、今年の審査には選ばれないと思います」


 国の騎士や軍の兵士達は年に一度レベルアップするために教会を訪れる決まりがあるらしい。しかし、資金不足であるシュテファンさんは全員を教会に連れていけるだけのお金を捻出できないらしく、連れていくのは審査を通った数人だけなのだそうだ。

 何とも世知辛い。レベルアップさせられるならぜひともしてあげたいところだ。

 さて、キャラシの方は……まだ駄目なようだ。

 まあ、さっきのはどちらかというと希望を聞いただけだし、レベルアップするかしないかを問う質問ではないからダメなんだろう。

 やはりもっとストレートに聞かなければだめらしい。


「じゃあ、今すぐレベルアップできるって言ったらしたいの?」


「え? そりゃあできることならしたいですが、そんなこと可能なんですか?」


 キャラシを見てみる。すると、『本人の同意が必要です』から『レベルアップが可能です。レベルアップしますか?』と変わっていた。

 この質問ならば同意を得たことになるらしい。この聞き方ならそこまで変な質問でもないし、誤魔化せるかな?


「多分できるの。レベルアップしてみるの?」


「は、はい、ぜひ!」


「わかったの。でも、このことは他言無用。誰にも秘密なの。約束守れるの?」


「もちろん、アリス様との約束を破るようなことは致しません!」


 カシュさんは俺の【アローレイン】に惚れ込んで最初期から熱心に俺の訓練を受けていた真面目君だ。そのせいか俺の事をだいぶ尊敬してくれているようで、こうして様付けで呼んでくる。

 正直、様付けで呼ばれるのはかなりむず痒いのでやめて欲しいのだが、言っても聞かないので諦めていた。

 でも、こうして秘密の会談をする分には都合がいい。俺が秘密と言えば絶対に守ってくれるだろうからな。

 最後にもう一度確認をとった後、俺は『レベルアップ』を選択する。経験値が消費され、レベルが一つ上がった。

 どうやら成功のようだ。俺はなんだかあっさりとレベルを上げれたことに困惑しつつも、どのような変化があるのかをしっかりと観察することにした。

 感想ありがとうございます。

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[良い点]  ついにGM権限が日の目に(´ω`)さてさてたった1レベルながらどれほどの効果が見られるのかワクワクですなー♪ [気になる点]  カシュさんは新米兵隊さんっぽいからレベルもそんな高くないっ…
[良い点] 遂にレベルアップ機能が使用された! さて、どう変化があるのでしょうか [一言] 教会の人はレベルアップさせるスキルなのか アリスちゃんみたいなシステムなのか新たな疑問が出ました
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