第二百八十三話:二日酔い
翌日。俺が起きると、みんな起きていた。
まあ、カイン以外の三人はカインに起こされたと言った方が正しいかもしれないけど。
案の定、顔を青くして凄く気持ち悪そうにしている。
吐きはしないけど、頭痛に悩まされているのだろう。額に手を当ててうーうー唸っている。
「二日酔いの恐ろしさはわかりましたか? これに懲りたら、今後は飲みすぎないことですね」
「なんでカインは平気なのよ……」
「なんで俺あんなこと言ったんだろう……」
「ウェ……気持ち悪い……」
比較的無事そうなのはサクラかな? 頭は痛そうだけど、顔色がそこそこましな気がする。
それぞれの種族で酒の強さと関わるのかな。
俺のイメージだと、ドワーフはめちゃくちゃ酒に強いイメージ。逆にエルフは弱いイメージがある。
ホビットに関してはよくわからないけど、体が小さい分、酔いが回りやすい印象。
獣人は、どうだろう。人間と同じなんじゃないかな。動物もお酒飲ませたら酔うだろうし。
「ほら、シリウス、あなたの出番ですよ」
「わかってるよ……【キュア・ディジーズ】」
シリウスのスキルによって皆の二日酔いが治っていく。
頭痛もきれいさっぱりなくなって、いつもと変わらない状態に戻っているはずだ。
それでも、シリウスとイナバさんはちょっと顔を赤くして俯いてしまっているけど。
まあ、記憶はなくならないからね。昨日の発言はしっかりと残っていることだろう。
むしろ、もっと飲んで記憶にすら残らないくらいならば幸せだったかもしれないね。
いつもはきちんとしてるのに、あんなに甘えまくってるシリウスとかめちゃくちゃレアだろう。
「さて、とりあえず報告に行きますか。イナバ、ポータルを開いてください」
「はーい……」
今はまだ早朝とも言える時間である。今ならば、まだ寝ていると判断されて呼びに来ることもないだろう。
でも、昨日の反応からして、町の人達は突撃してきてもおかしくないから早めに済ませないといけないね。
イナバさんが開いてくれたポータルを通り、城へとワープする。
今日は来客はなかったはずなので特に問題はないだろうけど、急用とかあるかもしれないしね。
「おや、アリス陛下。朝帰りとはずいぶん遅いお帰りですね」
「え、えっと、その、ごめんなさい、なの……」
ナボリスさんに会うと、いつもと変わらない様子ながら、ちょっと棘のある言葉が返ってきた。
まあ、毎日帰ってくるという約束の下、旅を許してもらっている状況なので、それを仕方なかったとはいえ怠ったのだから怒るのも無理はない。
例えば、何者かに襲われてそれどころではなかったとか、傷ついた人を助けるために一晩看病したとか、そう言う理由ならまだしも、ただ単に酔っぱらってポータルが開けなかっただけだからね。
体調管理もろくにできないのは王様として失格である。そう思ったからこそ、素直に謝った。
まあ、謝ったのは俺じゃなくてイナバさんだけど。
「まあ、今回は許しましょう。ですが、今後はあまり飲みすぎないように気を付けてくださいね」
「はい、肝に銘じます、なの」
「お願いしますね」
そこまで強く突っ込まれなかったのが幸いか。
その後、報告をしたわけだが、ドラゴンと一戦交えたというのが一番の衝撃だったようで、珍しく顔色を変えていた。
強さを求めるヘスティア王国としてはドラゴンに挑むくらい普通かと思ったけど、流石にそれは無理らしい。
ファウストさんだとしても一人で戦うのは避けるだろうと言っていたので、やはりとんでもないことをしたんだなと思った。
そう言えば、スターコアを手に入れたから神様と話ができるかもしれないんだよね。
今はカインが保管しているけど、そのうち試した方がいいかもしれない。
果たして兎の姿で話をしてくれるのかは疑問だが……。
俺以外の、例えばカインとかに試してもらうのも手だが、最初に俺が会話したのに、その次は別の人となったら神様も面倒だろう。
ある程度俺の方から説明したとはいえ、俺自身が対応した方がスムーズに話ができると思う。
今日の夜にでも試してみようか。
「さて、報告も終わりましたし、戻りましょうか。そろそろ戻らないと怪しまれそうですし」
「そうだな。朝御飯も用意してくれてるだろうし」
泊めてくれたのは宿屋の好意で、別にお金は払っていないのだが、かなり感謝しているようだったから、あの調子だと朝御飯も用意していることだろう。
もちろん、去る時にはきちんと料金は払うつもりだが、ここで朝ご飯を食べて帰っていったらがっかりされそうである。
観光地の料理がどの程度かも気になるしね。今日はあちらで食べるとしよう。
「朝ご飯を食べたら温泉入りましょうね。皆さんも入りたいでしょう?」
「そういえば、まだ入ってなかったな」
「温泉楽しみー」
朝風呂になってしまうが、むしろ朝の方がお客さんも少ないだろうし、ゆっくり入れるかもしれないね。
温泉を楽しみにしつつ、俺達は宿へと戻る。
ちょうどいい時間だったようで、戻るとすぐに扉がノックされ、朝食が運ばれてきた。
あ、温泉卵がある。どんな味なのか気になるけど、俺には野菜の端材だったので後で感想を聞くとしよう。
「お風呂に入るのはいいけど、そんな悠長にしてていいの? 戻りたかったんじゃないの?」
「きゅっ」
「戻りたいは戻りたいけど、温泉も大事だってことだ。温泉なんてめったにないからな」
「まあ、確かに温泉が湧いてるからって町を作ることはあんまりないけど」
町ができるにはそれなりの強みが必要だが、温泉はそこまでの強みとは言えない。
もちろん、この町のように入るだけでバフが得られるというなら話は別だが、温泉すべてがそう言う効果があるわけでもない。あったとしても、あまり役に立たない効能だったりしたら意味がないしね。
こうして温泉の町として人気が出たのは割と凄いことなのかもしれない。
「まあ、僕はそれでもいいけど。だいぶ体にも慣れてきたし」
「きゅぅ」
「慣れたからって変なこと考えるなよ?」
「わかってるよ。薬で戻るっていうなら、ちゃんと受け入れます」
すでに薬を作るための【アルケミスト】はサクラが取得している。
【ポーションクリエイトⅣ】まで覚えたし、材料さえ揃えば今すぐにでも作ることができるだろう。
残る材料はもう少し北の方だろうから、またしばらくは馬車移動になるだろうな。
「さて、朝飯も食ったし、温泉行くか!」
「おー!」
「ちゃんと食器を返してからですよ」
目に見えてテンションが上がっているシリウスとサクラをカインが窘める。
なんかこう見るとお母さんみたいだよな。本人に言ったら怒られそうだが。
サクラが行ってしまったので、しょうがないからイナバさんの肩に飛び乗る。
自分で歩いていくのは面倒なんでね。なにせ歩幅が違いすぎるし。
イナバさんはちらりとこちらを見たが、特に何か言うことはなく好きにさせてくれた。
まあ、自分の体なんだし、これくらいは許されるよね。
みんなで食器を返した後、温泉へと向かう。さて、入れるといいけど。
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