第二十七話:レベルアップの方法
スケジュールとしてはこの後昼食を挟み、少し間を置いてから午後の訓練という風になっている。
今後はこれがルーチンと化しそうだ。学校の授業よりもよっぽど長い時間集中して教えることになるから疲れそうだけど、さっきやってみた感じだとそこまでの疲労はない。やはりアリスの身体は優秀なようだ。
それでも、多少汗をかいたりはしているので昼食前にお風呂に入ることにする。もちろん、今回はメイドさんの補助は全力でお断りしておいた。
シュテファンさんとしてはそれなりの待遇をしているつもりなんだろうけど、お風呂に関してだけはお節介という他ない。というか、いくら貴族でもお風呂の度にメイドさんに洗ってもらうって贅沢すぎる気がする。そんなことをやるくらいだったら別の仕事をさせるか、メイドさんの数を減らして経費を削減した方がよっぽどいいだろうに。
それとも、この世界の貴族はそれが当たり前なのだろうか? よくわからない。
「アリス、昼食は準備させるがこれでも仕事が忙しくてな。一緒に食べることはできないが、午後の訓練までゆっくりしていてくれ」
屋敷に着くなり、シュテファンさんはそう言って去って行ってしまった。
まあ、領主だし色々と忙しいのはわかる。もしかしたら、お昼を抜くのはデフォなのかもしれない。
一人で食べることに不満はない。むしろ、一人で気兼ねなく食べられる方が楽でいい。シュテファンさんやミラさんは気にしていなかったようだけど、テーブルマナーとか全然わからないしな。
いくらアリスの身体が万能とはいえ、流石に冒険者が貴族の作法を知るはずもない。いや、一応は上級冒険者だったわけだし、もしかしたら知っていてもおかしくないかもしれないが、アリスには当てはまらなかったようだ。
ただ、そういう礼儀作法を出来るようになる方法はある。それはスキルで【礼儀作法】を取得することだ。
シュテファンさんのキャラシを見た時に見つけたのだが、そういうものもスキルとして存在するらしい。
そんなものスキルがなくても知識として知っているくらいはできそうな気はするが、それだけでは実際に行動に移すことはできないということだろうか。
確かに知識で知っているだけなのと実際にやってみた場合では感じ方は違うだろうし、練習を重ねることでだんだんできるようになっていくというのはなんとなくわかるけど、なんかぴんと来ない。
いや、でも『スターダストファンタジー』でもそういう知識系のスキルはあったし、そういうものと考えればわかるかも? あっちの場合は特定の場面での判定に強くなるというものだったけど。
ともあれ、レベルを上げて【礼儀作法】のスキルを取得すれば俺も恐らくちゃんとしたテーブルマナーを使えるだろう。迷惑をかけないようにするというならそれもありかもしれない。
まあ、今は経験値も足りないし、しばらく先のことになりそうだけどな。
「さて、手ごたえのほどは、なの」
昼食を食べ、割り当てられた部屋へと戻ると、俺は早速キャラシを確認した。
【弓術】のスキルが取得できていないかの確認のためだ。流石にさっき教えたばかりで取得できているとは思わないが、どのタイミングで取得することになったのかは重要だから確認しておくことに越したことはない。
さっき教えた十数人のうちほとんどはまだ未取得ではあったが、予想に反してすでに取得している人もいた。
案外教えればすぐに取得できるものなのかもしれない。
肝心なのはスキルレベルの上がり具合だが、それも今後観察していくことにしよう。
「それにしても、いろんな職業の人がいるの」
農民や猟師、防具職人に武器職人、肉屋に雑貨屋など本当に多種多様な職業の人物が兵士として働いているのがわかる。
完全に兵士が職業な人は50人程度。半数以上は通いということだ。
これは維持費の問題だったり人手の問題だったり、色々と理由はありそうだけど、魔物の蔓延る未開拓地域の開拓のために集った人達だから元々戦闘に長けた人が多かったのかもしれない。お金もあまりないようだし、町の防衛をしつつ未開拓地域に睨みを利かせ、且つ万が一隣国に攻め込まれるような事態があった時に時間稼ぎをする。それをクリアするためには住民に力を貸してもらうしかなかったのかもしれないな。
シュテファンさんの評判がいいのは、苦労を掛けている住民達に対して心を砕いてきたシュテファンさんの思いやりがあるからかもね。
「これだけいろんな職業がいるなら、得意を伸ばしてあげるのもいいかもなの」
今回、弓を教えることになったが、猟師は初めからある程度弓を扱うことが出来ていた。それは山に入った際に魔物に弓を射かけ、弱らせたりそのまま仕留めたりしていたからこそ扱いに慣れていたのだ。つまり、猟師は弓が得意武器とも言える。
それと同じように農民なら鍬のような長物の扱いに慣れてるだろうし、武器職人なら様々な武器の知識を持っているだろう。弓を教えることも大事だけど、一人一人の得意に合わせて訓練してやれば効率的にスキルレベルを上げていけるかもしれない。
まあ、そのためには一人一人の顔と名前、そして出来ることを把握し、さらにそれに合わせた適切な訓練を考える必要があるんだけど。
一応、今のところ昨日会った80人余りの人達の顔と名前はすべて把握しているし、ある程度は何ができるかも把握している。アリス譲りの記憶力でどうにか頑張っていくしかないか。
「あ、そう言えばレベルアップについて聞き忘れたの」
根本的な能力値不足の解消のためにできれば兵士達のレベルアップをさせたい。ある程度技術が身に着けば、意図的に魔物を狩りに行ってレベル上げするのもいいだろう。
あわよくば自分も経験値を得て色々とスキルを獲得したいところだ。近くにいい狩場はないものかと考えながら、俺はしばし部屋でくつろいでいた。
午後の訓練が始まる前にシュテファンさんにレベルアップのことについて聞いてみることにした。すると、こんな答えが返ってきた。
「レベルアップは教会で行える。軍の規則では年に一度赴き、レベルアップをすることになっているな」
もちろん金はかかるがな、と若干疲れたような表情で言っていたあたり、レベルアップには結構な金額がかかるようだ。
詳しく聞いてみると、レベルアップを行うのは兵士や騎士、あるいは冒険者と言った一部の人達のみらしい。基本的にそれまでいかに修行してきたか、魔物を倒してきたかによってレベルアップの幅は変わるらしく、中にはレベルアップできない者もいるそうだ。
まあ、それはそうだろう。レベルを上げるには経験値が必要であり、経験値を得るためには魔物を倒すのが一番手っ取り早い。修行でも手に入るというのは意外だけど、恐らく魔物を倒すよりは少ないんじゃないだろうか。
そして、レベルアップできなかった人って言うのは単純に経験値が足りなかったということだろう。レベルが高い人ほどレベルアップできない可能性が高いということだし、間違いないと思う。基本的に、レベルが高いほど次のレベルアップに必要な経験値は多くなるしな。
「教会以外ではレベルアップできないの?」
「世界樹の種を使えば例外的にレベルアップできるそうだが、ほとんど出回っていないから実質不可能だな」
レベルを上げるアイテムなんてものがあるのか。手っ取り早くレベルを上げられるなら凄いと思うけど、数が少ないならあんまり意味はないか。
教会でレベルが上げられるとのことだったけど、内容としては神様にその者が強くなるにふさわしいかを見極めてもらい、お眼鏡に適ったらレベルが上がる、ということらしい。
なんか、結構壮大なんだな。ちなみに、レベルの確認に関しては鑑定石というものがあり、それでレベルや能力値を確認することが出来るらしい。
うーん、この話が本当だとすると俺は神の御業を行使できるということになるんだが……もし俺が他人をレベルアップさせることが出来るとばれたら教会に目を付けられそうである。
兵士達をレベルアップさせるのは止めた方がいいのだろうか? 曖昧な聞き方で同意を得てレベルアップさせることはできそうだけど、レベルアップさせた時に相手はそれを認識できるのかどうか、それでも変わる。
うーん、どうしたものか。
俺は密かに頭を抱えた。
感想ありがとうございます。
 




