第二百三十四話:神様の言葉
「あ、アルメダ様が何の用なの……?」
『そんなに緊張しないで。楽にしてくれていいわ』
楽にしろとは言うが、仮にも神様に話しかけられて緊張しない奴はいないだろう。
ただでさえ、この頭の中に響く声っていうのが慣れないのに、落ち着くのは無理というものだ。
幸い、大声を上げることはなかったので誰かがすっ飛んでくるということはなかったし、今はベッドの中で一人だから怪しまれることはなかったけど、もし昼間とかで誰かが周りにいる状態で話しかけられていたらやばかったかもしれない。
「質問に答えてほしいの」
『ええ、わかっているわ。単刀直入に言うと、あなたには世界を救ってほしいの』
アルメダ様が話す内容はこんな感じだ。
まず、この世界は今、神様がかなり不足している状態らしい。
本来ならば、創造神を含めて数多くの神様が世界の管理を行っているが、今は数人の神様を除いて、世界に干渉できるような状態ではないのだとか。
なぜそうなったかと言えば、三千年前に起こった粛正の魔王による時代の粛正が原因らしい。
本来、神様は地上とは違う、神界と呼ばれる場所に住んでいる。だから、仮に地上が魔王によって滅ぼされたとしても、神界にいる限り神様に影響はないはずだった。
しかし、その時は違ったようで、なぜか神界にまで影響が及び、油断していた神様はそのほとんどが粛正に巻き込まれて消滅してしまったらしい。
そのせいで、世界を管理する者がいなくなり、世界は滅びを待つのみとなってしまった。
それでも、残った数少ない神様が何とか立て直し、滅びを待つだけから、ゆっくりと衰退していくという形にまで立て直したのだとか。
しかし、元々数多くの神様で支えていた世界をたったの数人で管理しきれるはずもなく、これ以上はどうしようもない。
今のままだったらまだ均衡を保つことができるが、ここでもし再び粛正の魔王が現れるようなことがあれば、世界は確実に崩壊するだろう。
なので、そうなる前に魔王をどうにかできる戦力を整える必要があった。そのために行ったのが、異世界召喚だという。
『本来なら、私達は消滅しても再び生まれ変わることができるのだけど、魔王の呪いのせいなのか未だにそれもかなわないの。だから、魔王を倒してくれる力が必要だった』
「それが、私達ってことなの?」
『そういうことよ』
予想していたこととはいえ、まさか本当に魔王を倒すために呼び出されていたとは……。
そうなると、俺の言う黒幕は神様ってことになる。どうやらアルメダ様ではないようだけど、この依頼を完遂すれば、元の世界に帰してくれる可能性は高そうだ。
「事情はわかったの。でも、なんで今になって言ったの? 魔王を倒してほしいなら、呼び出した時に言えばよかったの」
『それにも少し事情があってね……』
異世界召喚を行ったのは、次元の神ディア様らしい。
その権能は次元の裂け目を作り出し、様々な場所へ自在に移動したり、物を送り込んだりすることだった。
しかし、流石のディア様と言えど、世界を超えるほどの次元の裂け目を作り出すのは難しかったらしく、それを開くことができたのはほんの一瞬のことだったらしい。
本来なら、開いた後でその先の情報を調べ、適切な人間を選び、きちんと意思を確認してから呼び出したかったが、そうもいかなかったようだ。
なので、この世界と特につながりが深い者に限定し、意思を確認する間もなく転移させることにした。
その結果、この世界をモデルにしたと思われるゲームをしていた俺達が呼び出されたということらしかった。
『こんな危険なことに巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思ってる。でも、私達には時間がなかったの。どうか理解してくれると嬉しいわ』
「まあ、理屈はわかるけど……」
あの時『スターダストファンタジー』を遊んでいたというだけで世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるだなんて誰が思うだろうか。
理屈はわかる。一度この世界の人達は大敗しているし、だったら別世界から強い人を、というのも何となくわかる。
でも、それが俺である必要はないだろう。もちろん、俺の友達である必要もないはずだ。
世界が滅びてしまうかもしれないというのは確かに一大事ではあるけど、ぶっちゃけそんなの俺には関係ない。助けてほしいなら、その意思がある人だけを連れてくればよかった。
意思を確認する暇がなかったというけれど、本当かどうか怪しいところである。
こうして連れてきて、帰るためには魔王を倒さなければいけないと言えば、否が応にも従わざるを得ないのだから。
そんな命がけの戦いに、ただ平穏に暮らしていた俺達を巻き込まないでほしかった。
『気持ちはわかるわ。でも、こうでもしなければ間に合わないと思ったから』
「粛正の魔王が現れてから三千年も経ってるのに今更焦るの?」
『仕方がなかったの。私達も、こうして動けるようになったのはごく最近だったものだから』
ほとんどの神様は消滅してしまったが、中にはかろうじて生き残っていた者もいたらしい。
しかし、そういう傷を負って生き残った者は損傷が激しく、今まで満足に権能も使えなかったようだ。
ディア様もその一人であり、無理をして力を行使した結果、俺達を呼び出した後で消滅してしまったとか。
それを聞くと、確かに時間がなかったのは間違いではないのかもしれない。
動けるようになってすぐに活動し、その結果消滅することになってまで俺達を呼び出したのだから、相当切羽詰まってたのは想像に難くない。
だからと言って怒りが収まるわけでもないが、同情くらいはしてあげてもいいかもしれない。
「じゃあ、私達が帰るためには、魔王を倒さなければならないの?」
『ええ。魔王さえいなくなれば呪いも解けるでしょうし、ディアも復活できるでしょう。そうすれば、あなたやお友達も含めて元の世界に帰すことは可能だわ』
結局、やるべきことは変わらない。黒幕がはっきりとし、元の世界に帰る方法が明確になっただけだ。
粛正の魔王に勝つのは相当難しいだろうが、勝算がないわけでもない。
何とか頑張って倒すしかないだろうな。
「聞きたいんだけど、まず粛正の魔王って今どこにいるの?」
せっかく色々事情を知っていそうな神様が現れたのだ、これを機に情報を聞き出しておいた方がいいだろう。
しかし、俺の質問に対して、アルメダ様は困ったような声色で答えた。
『わからないわ。生き残った仲間に聞いてみてはいるけど、みんな知らないと言っている。消滅したってわけではないと思うけれど、詳細は不明ね』
「場所がわからなきゃ倒しようがないの」
『それについては今後こちらでも調べておくわ。あまり時間もないようだし、ひとまず魔王を倒すことが目的だと理解してくれればいいわ』
「時間がないって?」
『今の私は精神体のようなもの。そのスターコアを通じて話しているに過ぎないの。だから、あまり話しすぎるとスターコアの魔力を吸いつくしてしまう。それは重要なものだから、ただの石ころにするわけにはいかないわ』
なるほど、だからスターコアの色が薄くなっていたのか。
あまり話しすぎるとスターコアとしての力が失われ、ただの石ころになってしまう。だからそんなに話している時間はないと。
まあ、それなら仕方ないか。色々聞きたいことはあるけど、逆に言えばもっとスターコアを集めることができれば話す時間を作ることができるということでもある。
スターコアの入手を目的として、色々駆けまわるしかなさそうだ。
「わかったの。今度スターコアを見つける時までに調査が進んでることを祈るの」
『ありがとう。最後になるけど、私の権能の一部をあなたに授けます。加護のようなものだと思ってくれたらいいわ』
「アルメダ様の加護って言うと……植物操作?」
『よく知っているわね。ええ、これである程度植物を操ることができるはず。役に立つかはわからないけど、うまく使ってみてね』
「まあ、貰えるものは貰っておくの」
『それじゃあ、またね』
そう言うと同時に、頭の中に巣食っていた気持ち悪い感覚がなくなった。
どうやら回線が切断されたらしい。スターコアもすっかり色が薄くなってしまって、ちゃんと効力が残っているのか不安になるほどだ。
とりあえず、使命はこれではっきりした。俺達は粛正の魔王を倒さなければならない。
まだ情報は少ないけれど、とにかくレベル上げをしながら頑張っていこう。
そう思いながら、スターコアを【収納】へとしまった。
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