第二百三十三話:不思議な声
その後、適当にだべって時間を潰した後、ご飯を食べてお風呂にも入って就寝する時間がやってきた。
今更ではあるけど、一人で寝るには広い部屋だよなここ。
まあ、王様の寝室なのだからある意味で当然なのかもしれないけど、ちょっと寂しい気がしないでもない。
以前は、休日は友達と夜遅くまで遊んで、寝る時はその辺のソファとか座布団の上で寝ていたというのに、随分と偉くなったものだ。
「あの頃に戻りたいの」
ベッドに横たわりながら、そんなことを思う。
確かに、この世界も楽しくないわけではない。
容姿はともかく、スキルが使えて、レベル上げも簡単で、お手軽に強くなれるし、その能力を使って魔物なんかを倒すのは少しワクワクする。
何の変哲もなかった高校生の自分からすれば、相当優遇された異世界転移だろう。
でも、強いからそこまで危険な場面はないとはいえ、そもそも魔物という存在がいること自体が異常なことなのだ。
もちろん、以前の世界でも強盗とか不慮の事故とか、そう言う脅威はあるかもしれないけど、この世界よりはよっぽど安全な場所である。
何の力もないけど安全な環境と、ちょっと危険な環境だけど強い力を持っている。果たしてどちらが幸せなんだろうか?
俺は前者だと思う。強い力は確かに欲しいけど、安全を犠牲にしてまで欲しいとは思わない。
俺はただ、友達と一緒に楽しく遊んでいられればそれでよかったのに……。
「どうせ連れてくるならもっと冷静な人を連れてくればよかったのに」
俺の予想では、いずれ復活するであろう粛正の魔王からこの世界を守るために呼び出されたと思っている。
いわゆる勇者召喚的な。魔王を倒して世界を救ってくれって奴ね。
その時に貰えた力がこのキャラとしての力なのはいいとして、それだったらもっと適任はいたんじゃないだろうか?
確かに『スターダストファンタジー』はそれなりにやったTRPGではあるけど、俺より古参のプレイヤーなんていくらでもいるだろう。
あの時点でやっていたのが俺達みたいな奴だけだったという可能性もなくはないが、それだとしてももっと適任がいてもおかしくないと思う。
いったい何人呼んでるのか知らないけど、こちらの迷惑も考えてほしいところだ。
「早く帰れるといいけど……」
魔王に関しては、実際に戦ってみないとわからない。
もし、あれを誰かが操って操作するというなら、データ量の膨大さから、かなりミスをしてくれるだろうから、そこを突くこともできそうだけど、きっとそれはないだろう。
粛正の魔王という意識を持った敵が現れるとしたら、あの無茶苦茶なステータスを十全に発揮した奴と戦わなくてはならない。
一人では絶対に敵わない。みんなで戦っても確実に勝てる保証はない。
最強の魔王なんだから当然と言えば当然かもしれないけど、確実でないというだけで凄く怖い。
下手をしたら、死んでしまうかもしれないのだ。この世界に来てから死の危険はほとんど感じたことがなかったけど、それが訪れるかもしれない。
それが自分ならまだ覚悟もできるかもしれないけど、シリウス達だったら耐えられるだろうか。たとえ魔王を倒せたとしても、全員揃っていなければ意味がない。
そう考えると、休んでいる暇なんてないんじゃないかとも思う。
がむしゃらにレベル上げを続けて、それこそレベル1000とかを目指すべきじゃないだろうか。
レベルを上げて物理で殴れという言葉があるが、それを体現すれば多少なりとも負ける確率は減らせるのではないだろうか。
まあ、レベル1000なんてどんだけ時間かかるんだって話だけど。
「七つ集めると何かが起こる、ねぇ……」
俺は【収納】からスターコアを取り出す。
鑑定能力で見てみた結果、普通はないであろうそんな文言が書き込まれていた。
恐らくだけど、これを七つ集めたら新たな力にでも覚醒するのではないだろうか。
すでにゲームマスターの能力で色々とできる自分が今更何の能力に目覚めるんだという話ではあるけど、俺はイレギュラーみたいなものだ。
センカさん達の話を聞く限り、一緒にプレイしていたゲームマスターはこの世界に来ていないらしい。つまり、本来ここに来るべきだったのはプレイヤーだけで、ゲームマスターである俺は弾かれるのが正常だったはずだ。
それが、お助けNPCという形でプレイヤーに混ざっていた結果、プレイヤーとして扱われてこの世界に飛ばされた。要はバグみたいなものである。
そう考えれば、覚醒してゲームマスターとしての力に目覚めるという特典でも何ら不思議はない。もしそうだとしたら俺はとんだチートだが。
「……? あれ、こんなに薄かったの?」
しばらくスターコアを眺めていたが、ふとあることに気が付いた。
というのも、色が若干薄くなっているような気がしたのだ。
最初に見た時、ルルブに載っているものと比べて色が濃いなと思っていたが、今はルルブに載っていたものと同じくらいの濃さになっている気がする。
劣化した? いや、【収納】に入れた時点で時間が進むことはないから劣化するなんてことはないはず。
気のせい? いや、確実に色が変わっているように見える。少し触ってみたが、質感は特に変わっていないようだ。
いったいなぜ?
『……い! ……いて!』
「うっ……?」
なんだろう、今頭の中に何か聞こえたような……。
とっさに耳を澄ませてみてもその声量は変わらない。テレパシーか何かだろうか?
いや、そんな高度なことができる人間がこの国にいるわけない。いるとしたら同じプレイヤーとかだろうが、それができそうな知り合いも知らない。
脳内に直接語り掛けてくるこの人は一体誰だ?
『お願い! 気づいて!』
「うぅ……誰なの?」
俺は片手で頭を押さえ、頭の中の声を振り払おうとする。
別に痛みとかはない。ただ、頭の中に声が響いているだけだ。でも、それがたまらなく気持ち悪かった。
時たま設定に操られてアリスの素が出てくる時はあるけど、それともまた違う。
何者かに頭の中を覗かれているような、そんな感覚。早く、それを追い出してしまいたかった。
でも、いくら頭を振ってもそれが離れることはない。
俺は目をぎゅっとつぶって、布団を頭からかぶった。
『ああ、やっと気づいてくれた……』
「私の頭の中に入ってこないでほしいの。さっさと消えるの」
『怖がらないで。私はアルメダ、決してあなたの敵ではないわ』
「アルメダ……」
アルメダという名前には聞き覚えがある。
『スターダストファンタジー』には数々の神様が登場する。
それは戦の神だったり、愛の神だったり、農耕の神だったりと様々だ。
アルメダはその中の一柱の名前である。確か、植物の神様だったかな。
思わぬ名前に頭の中が混乱する。
なぜここにきて神様が出てくるのか。なんで俺の頭の中に語り掛けてくるのか、全然理解できなくてフリーズしてしまいそうだ。
でも、一つわかることは、この神様は敵対したいわけではなさそうということ。それならば、まだ話し合いの余地がある。
俺はパンクしそうな頭の中を無理矢理まとめて、小さく声を絞り出した。
感想ありがとうございます。
 




