第二百三十一話:か弱い女性
「えーと、サクラはどうしたの?」
「どうもこうもないよ。あいつらサイテー」
「?」
怒っているということはわかるが、いまいち要領が掴めない。
何か不機嫌になるようなことでもあったんだろうか。
今日は確か、町に行くとか言っていた気がするんだけど。
「あー、昨日冒険者がどうとか言ってただろ?」
「ああ、里の近くをうろついてたって奴なの?」
「そうだ。そいつらがやらかしたらしい」
ぷんすこ怒っていてよくわからなかったが、シリウスが代わりに説明してくれた。
まず、レキサイトさんと一緒にいた冒険者が隕石が落ちていた地点に出没していたという話を聞いて、サクラはレキサイトさんにそのことを聞きに行ったらしい。
町に行けば大抵は会うことができるが、まだ隕石の調査をしているのか、町に行っても出会えなかったので、そのまま研究所の方にお邪魔したようだ。
で、話を聞いてみたが、あの冒険者はあの時たまたま雇っただけで、今は特に依頼もしていないという。つまり、レキサイトさんは何にも関与していない様子だった。
これはおかしいと思い、だったら冒険者に直接聞きに行こうと思って冒険者ギルドへと行き、受付にその冒険者のことを聞いてみた。
名前を聞いていなかったので伝えるのには苦労したが、一応特徴から割り出すことができたのか、話を聞くことはできたようだ。
ただ、別に素行が悪いわけでもなく、いたって真面目な普通の冒険者ということくらいで、詳しいことはわからなかった。しかし、最近は森の方へ何度も赴いているようで、それを不思議がっている冒険者仲間は多いらしい。
森に現れているのは連日のようだ。里の近くに行ったのはたまたまだったのかもしれない。
それなら今日も行っているんじゃないかと思い、今度は隕石が落ちていた地点に行って見た。すると、あの時の冒険者がうろついていた。
サクラは何をしているのかと聞いた。そうしたら、いきなり襲い掛かってきたのだとか。
「いや、なんでそこで襲い掛かる選択肢があるの」
「そいつらの目的はスターコアだったんだよ」
冒険者達にとって、スターコアがどういうものかはわからないが、レキサイトさんの話を聞いて、とんでもないお宝だということは理解できたらしい。
それで、まだもしかしたら残っているかもしれないということで隕石が落ちていた場所を探し回っていたようだ。
でも、見つからなかった。あったのは、せいぜい隕石の破片と思われる石の欠片だけ。
無限の力が手に入ると言われていたけど、どれがそのスターコアなのかわからない。そんなところに、現物を持ち帰った俺の仲間であるサクラが現れた。
サクラがエルフだということはわかっていたが、そこまで強いとは思わなかったらしい。
まあ、見た目だけならただの見目の美しい女性ってだけだしね。それで、サクラを捕まえて人質にし、スターコアを身代金として要求しようと考えたようだ。
だが、当然ながらサクラはそんなに弱くない。瞬く間に返り討ちにされ、サクラは町にそいつらを連れて行ってギルドに報告。
冒険者達は他の冒険者達にぼこぼこにされた後、すぐに自分達のしたことを把握したようで、土下座する勢いで謝罪。ギルド側も、日頃の行いから一時の気の迷いだと判断し、罰金だけで済ませたようだ。
なるほど、サクラが怒っている理由がやっとわかった。
「まあ、サクラは可愛いからか弱いと思うのはわからないでもないけど、馬鹿じゃないの?」
「それな。少なくとも、めちゃくちゃ硬い隕石を軽く割ったカインがいるのは想像できるだろうに。きっと無限の力とか言われて正気を失っちまったんだろうな」
一般人ではないにしろ、そこまで詳しくないであろう冒険者なら、強さには貪欲だろうし、無限の力とか言われて舞い上がってしまったのはわかるけど、人から奪うのは違うだろう。
サクラに襲い掛からずに、跡地を探しているだけだったらまだよかったのに、なんとも間抜けな話である。
まあ、迂闊に話してしまった俺も悪いかもしれないけども。
「ねぇ、私ってそんなにか弱く見える?」
サクラがむくれた様子でこちらを見てくる。
まあ、か弱いかか弱くないかで言われたら、見た目だけならか弱いだろう。
確かに身長はかなり高いけど、女性らしい妖艶さもあるし、少女らしい可愛さも併せ持っている。
町を歩いたら何人かは振り返ってもおかしくないほどの美貌だ。これで強いと思う方がおかしいだろう。
「見た目はしょうがないの。私だって、見た目はそんなに強そうに見えないでしょ?」
「それはそうだけど、それはアリスが子供だからでしょ」
「子供じゃないの。もう大人なの」
「見た目は子供じゃない」
「むぅ……」
そりゃ確かに見た目は変わってないから子供なのに変わりはないけどさ。
あんまり刺激しない方がいいかもしれない。なんか余計にへそを曲げそうだ。
「まあまあ、冒険者は捕まえて、罰も受けさせたんだからいいじゃねぇか」
「シリウスは私のことか弱いと思う?」
「冒険者に襲い掛かられて、逃げるでなく、悲鳴を上げるでもなく、意気揚々と返り討ちにするような奴がか弱いわけねぇだろ」
「ふふん、そうだよね」
シリウスにか弱くないと言われて得意げになるサクラ。
普通、女性だったらか弱いって言われた方が喜ぶような気がするけど、サクラは違うんだろうか?
いやまあ、サクラの中身は男だから、そう言う意味では正常なのかもしれないけど、元の姿でさえか弱いって言えるくらいだったような……。
ああ、だからか。か弱いって言われるのが嫌なんだな。
「怒ってるのはそれだけが理由なの?」
「そうだよ。まあ、ここに来たのはそれ以外にも理由があるけど」
「? なにかあったの?」
てっきり愚痴を聞かせるために来たのかと思ったけど違うようだ。
サクラは俺の隣に腰かけると、テーブルの上に置いてあったラスクを一つ摘まむ。
ぽりぽりと小さく食べながら、話し始めた。
「途中で研究所に行ったってシリウスが言ったでしょ? そこでちょっと話を聞いてきたんだよ」
「研究所でってことは、レキサイトさんが何か見つけたの?」
「そんなところ」
まあ、確かにあれから一か月は経っているし、何かしらわかってもおかしくない頃か。
と言っても、隕石自体に何かあるとは思わない。せいぜい、未知の金属とかが見つかるかもってところだろう。
仮にその金属が強い武器とかになるっていうなら欲しいかもしれないけど、今のところ武器はミスリルでも十分強いし、そこまではいらないかな。
そもそも、未知の金属があったとして、武器を作れるほどの量はないだろうし。
「あの隕石だけど、どうやら一部がオリハルコンでできているらしいよ」
「オリハルコン、なの?」
オリハルコンと言えば、最強の金属と呼ばれている貴重な金属じゃなかっただろうか。
一般的に強いと言われているミスリルよりも丈夫で、追加効果も強力になりやすい。ただ、加工できる人は全然いない。そんな金属だ。
『スターダストファンタジー』の説明では、神界にしか存在しない幻の金属とか言われていた気がするけど、隕石はもしかして神の世界から降ってきたのだろうか?
俺は興味を惹かれて、少し身を乗り出した。
感想ありがとうございます。




