第百九十話:獣人差別の理由
それから二日ほど。王様はきちんとミスリルを用意してくれた。
量まで指定していなかったのだけど、ぱっと見でわかるくらい大量に用意してくれたのは驚きだった。
確かに、ミスリルで馬車を作りたいとは言ったけど、普通に考えたら主要な部品とか車輪とかの部分に使う程度で、そこまで使うとは考えにくいだろう。
ミスリルは高価だし、量まで指定していないのだから少しくらいケチってもいいと思うけど、まあ量があるのはありがたいからいいけどさ。
あれかな、こんな量一回で持ち帰れないだろうから、少しでも長くこの国に滞在させたいとかそんな狙いがあるとかか?
残念ながら俺には【収納】があるし、筋力もかなりあるのでこれくらいの量では止められないぞ。
まあ、単純にお礼だから奮発したってこともあるかもしれないけどね。
器の小さい王様だって思われたくもないだろうし。
「そういえば、この国はどうして獣人を差別しているの?」
ミスリルを受け取る際、エミリオ様とフローラ様がいたのでついでだから聞いてみた。
二人もどうやら詳しくは知らないようだけど、どうやらいつだったかの王様がやらかしたのがきっかけらしい。
当時の王様はたいそうな獣人好きで、町を訪れる見目のいい獣人を片っ端から城に呼び、閨を共にしていたらしい。
本来であれば、兎族などの例外を除いて、獣人が人間を相手にそういうことをすることはないらしいのだけど、王様は金に物を言わせて強要していたようだ。
問題行動ではあるが、相手は相応のお金を貰っていたし、一晩だけの付き合いだったということもあって、まあこれくらいならと許していたそうだ。
しかし、ある日手を出した獣人がまずかったらしい。
「確か、その獣人はある国の王女で、今まで見たことがないくらいの美女だったとかなんとか」
獣人好きな王様はいつものように金を見せびらかして閨を共にするように言ったが、仮にも王女だけあってそんな誘惑には乗らなかった。
そこで諦めればよかったのだが、当時の王様はあろうことか強引に王女を誘拐し、犯してしまったのだという。
そんなことをすれば、当然王女の国は大激怒で、クリング王国は責任を負わされる羽目になった。
しかし、いくら獣人好きで有名な王様と言えど、他国の王女を誘拐して犯しましたなんて広まったら失脚はおろか王族自体がそう言う目で見られ、誰もついてこなくなる。
そこで当時の王様は一計を案じ、責任をすべて獣人側に押し付けた。
共に閨をと誘ってきたのは王女の方だし、それに怒って責任を追及するのは獣人側のマッチポンプだと言って自分は悪くないとアピールしたのだ。
普通だったら、こんなの通るわけないと思うけど、当時から獣人と人間の考えの違いによるいざこざはあちこちで多発していたし、今回もそう言うことだろうと国民達は納得してしまった。
それにより、獣人は卑劣で卑怯な奴だという考えが浸透し、今の獣人差別に繋がっているのだという。
「なんというか、馬鹿なの?」
「どこまでが本当かはわからない。実際に獣人が城に侵入した形跡も見つかったという話もあるし、王女の誘拐に加担したという者の証言もある。だから、真実は謎のままだ」
「完全に私達の落ち度だと私は思うけどね」
フローラ様は呆れたようにエミリオ様の方を見ている。
確かに、エミリオ様はどちらかというと獣人差別に賛成だったもんな。
それを考えると、俺に対する態度もだいぶ軟化したものだと思う。あの時の誓約が効いたかな。
「獣人すべてがそうとは思わんが、野蛮な奴が多いのも確かだ。お前も獣人なら覚えがあるだろう?」
「え? あ、あー、確かにあるかもなの?」
そんな設定あったかなぁ……。
確か、『スターダストファンタジー』の獣人は、獣の力を宿した人間に似た種族という話だったかな。
戦闘能力に長けており、その種類によって様々な場面での活躍が期待できる。その代わり、魔力に乏しく、魔法を使うのは少し苦手。
熟練の冒険者の中には姿を獣そのものに変化させ、戦闘力を飛躍的に上昇させることができる者もいるとかなんとか。
うん、まあ、戦闘力が高いってことは強いってことだから、それで野蛮なイメージがあるのかね。
良くも悪くも動物寄りだから、細かいことを考えるのが苦手で、先に手が出てしまうっていうイメージもあるかもしれない。
今のところ獣人に会ったことがないからよくわからないけど、ほんとにそんな感じなんだろうか。ちょっと見てみたい気もする。
「いや、アリスはそう言うのとは無縁か?」
「むしろ囲まれてたんじゃない? ほら、アリスってめちゃくちゃ強いし」
うーん、データ上でならいくらでも囲まれていたけど、実際に会ったことは一度もない。
いや、アリスの幼少期、それこそ生まれた時なら親がいただろうし、そう言うのなら会ったことがあるかもしれないけど、この世界にはいないだろうしな。
そこまで細かく設定してないからあんまり思い浮かばない。
「私はそんな魔境で育ったわけじゃないの」
「本当か? あの時の体術、とても素人とは思えんが」
「我流なの」
「我流でそれならアリスは才能の塊だな」
そう言って自嘲気味に笑うエミリオ様。
そう言えば、エミリオ様って戦えるのかな? 一応剣は持ってるみたいだけど、振っているところはあまり見たことがない。
戦争の助っ人としてくるくらいだから多少は使えると思うけど、どれほどの実力なんだろうか。
「お前と比べられても困るぞ」
「まだ何も言ってないの」
「そう言う顔をしていたからな」
そんな顔に出ていただろうか。俺はポーカーフェイスはそれなりに得意だったと思うけど。
まあ、自分ではそこまで強いとは思ってないってことなのかな。
どちらにせよ、王族であるエミリオ様は指揮官だろうし、そこまでの戦力はいらないと思うけどね。
「それにしても、アリスって馬車も作れるの?」
「いや、作れないの」
「それなのに、ミスリルだけ欲しいの?」
「自分用にカスタマイズしたいの」
一応、馬車も作ろうと思えば作れると思う。
【クラフター】というクラスがあり、このクラスは物作りに特化したクラスだ。
素材さえあれば、どんな道具も作ることができる。ただし、【ブラックスミス】のような武器や防具を作ることに特化したクラスもあるせいか、性能は割と抑えめにされることが多い。
でも、自分で作成した道具を使って戦うとバフを受けられるなどのスキルもたくさんあるので、使いにくくはあるがそれなりに面白いクラスではある。
このクラスにクラスチェンジすれば、馬車も多分作れるだろう。そこまでする必要があるかはまた微妙なところだけども。
今の考えでは、馬車自体は専門の場所で作ってもらうのも手かなと思ってるけど、自分でカスタマイズするなら自分で作った方がいいのかな? ちょっと迷うところではある。
「よくわからないけど、いい馬車が作れるといいね」
「これだけあれば十分なの。感謝するの」
とりあえず、ゴーレムを作る分にはこれだけあれば十分だろう。
馬車本体まで作るかどうかは追々って感じかな。
今回の旅で使われることはないと思う。ちょっと残念だけどね。
実際の形を思い浮かべながら、いつ使うことになるのかを考えた。
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