第百八十五話:毒か猛毒か
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思えば、クリング王国に行くのも久しぶりかもしれない。
元々、俺が最初にいた場所はクリング王国の辺境であり、その時は領主であるシュテファンさんによくお世話になったものだ。
王様に呼び出されて色々と嫌な思いもしたけれど、最終的には王女様や王子様とも仲良くなれたし、悪い結果ではなかったと思う。
こういうのって、最初に訪れた国に定住するのが普通なのかな? 本来ならそんなに移動力もないだろうから、別の国に移動できず、色々とその国で何かしている間に愛着が沸いて、結局その国に定住するって流れなんじゃないかと思う。
ただ、俺の場合は初めから長距離を移動する術を持っていた。
走れば馬車よりも速く走ることができるし、スタミナも底なしって程ではないけどかなりあったから、特に苦労することもなく、移動することができた。
それに、王都では獣人差別が横行していて、兎の獣人である俺にとってはとてもじゃないけど住みたいと思える場所じゃなかったしね。もちろん、中には優しく声をかけてくれる人もいたけど、兵士の様子を見ているとその印象が強すぎてあまり浮かんでこない。
そう言うのがない、マリクスの町ならワンチャン住んでもいいかなとは思うけど、あれが改善されない限りは俺がクリング王国に定住することはないだろう。
まあ、そもそも今はヘスティア王国の王様になってしまってそれどころではないんだけどね。
「クリング王国と言えば、前に王女と王子が来てたけど、そんなに仲がいいのか?」
「まあ、ちょっとした縁なの。王様を毒殺しようとしていた奴を捕まえて、毒を取り除いてあげただけなの」
「英雄じゃねぇか」
まあ、確かにやったことだけ聞けば英雄レベルなのかな?
実際、あの毒は通常の毒と違って【キュア・ポイズン】で治せなかったし、エリクサーを作れなければ危なかっただろう。
でも、今考えると変な話だよな。
そりゃ確かに、【キュア・ポイズン】は毒状態を治すことはできるけど、猛毒状態は治せないという設定がある。
これは、猛毒状態は状態異常ではなく、デバフの一種という設定があり、だからこそ【キュア・ポイズン】の範囲ではないということらしい。
正直よくわからない裁定だけど、毒と猛毒じゃ全然違うから差別化したかったってことなんだろう。それに関しては別に文句はないけど、問題なのは猛毒に当たるレベルの毒をどうやって用意したのかという点だ。
猛毒状態にしてくる敵は『スターダストファンタジー』の中でも結構な数がいる。
主に毒に特化した敵で、中盤以降に出てくるような強さなら大抵は持っているだろう。
ただ、この世界の人々は序盤の強敵くらいの強さでも苦戦する強さ。とてもじゃないけど、中盤に出てくるような強さで、当たったらほぼ助からない猛毒を持つ魔物を討伐できるとは思えない。
一応、人間の敵であるカルト集団なんかは持っていることもあるけど、そいつらがリアルになってるならどっちにしろどこから入手したんだって話になる。
まさか、そう言う役割のキャラだから、初めから猛毒の薬を持っているとかないよね? 流石にそんな沸き方じゃないと思いたいけど、この世界なら何があってもおかしくはないから怖いところ。
多分、俺が去った後に調査は行われたはずだけど、結果は出ているだろうか。もし会う機会があったら聞いてみたいところだね。
まあ、本当にイベント扱いで、そういう毒だったって可能性の方が高そうな気はするけど。
「せっかくだし寄ってみたらどうだ? その王様だって、命の恩人に会いたがってるかもしれねぇし」
「うーん、別に行くのはいいけど……素直に通してくれるかが微妙なの」
「そんな凄いことやってるのに警戒されるのか?」
「いや、クリング王国はどうやら獣人差別があるみたいなの」
「ああ、そう言う……」
あちらから呼び出しておいて門前払いされた時はどうしようかと思ったものだ。
ただ、それに関しては王女であるフローラ様から改善の兆しが見えているという話を聞いた気がする。
なんか、俺の活躍によって獣人の価値を再認識し、むやみに差別するのはいけないのではないかという話が上がったらしい。
フローラ様は元々獣人に対しても優しかったけど、それがきちんとした意見として通ったってことだね。
王様も自分が命を救われたこともあってそれに賛同し、王都では徐々に獣人差別をなくそうという動きが出ているらしい。
ただまあ、そんなすぐに差別がなくなるはずもなく、今でも獣人を差別する輩は多いらしい。
兆しが見えただけましだけど、完全になくなるのはいつになることやら。
その努力は称賛するけどね。俺のためではないだろうけど、俺のやったことが獣人のためになるならいいことだ。
「いっそのこと変装でもするか? いつまでもフードで顔隠すだけじゃいつかばれるだろ」
「変装ねぇ……」
変装するスキルなんてあっただろうか。
思いつく限りとしては、カメレオンゴブリンという魔物が【擬態】というスキルを持っていた気がする。
ゴブリンの中でも知能が高く、人間に擬態して町に潜入し、他人に成りすまして襲い掛かってくる、とかなんとか書いてあったような気がする。
俺はNPCスキルも覚えられるから、それを覚えれば似たようなことはできる気がするけど、そこまでの価値があるかどうか。
いやまあ、確かに獣人だからと言って差別されるのは嫌だけど、俺は元々獣人ではなく普通の高校生だったわけだし、自分に言われているという感覚があまりない。
もちろん、アリスに言われているとは感じるからむかつきはするけど、そう言う輩と真正面からやりあったところで疲れるだけだし、だったら聞き流した方が楽だ。
長い間滞在するというなら価値もありそうだけど、ちょっと寄るくらいだったら別にそこまでしなくても、と思ってしまう。
最悪拳でわからせればいいだけだし。
「まあ、着いてから考えるの」
「そうか」
「もしもの時は私達が守ってあげますから大丈夫ですよ」
「期待してるの」
今は二人もいるし、理不尽に何か言われるってことはないだろう。
カインの格好が騎士風だから、顔を隠している俺はその護衛対象と見られるだろうしね。
仮に獣人だとばれたとしても、護衛されているということはそれなりの地位にいる人だとわかるだろうし、表立って言うことはないはずである。
まあ、子供とかは別かもしれないけどね。
「にしても、ここから一か月って地味に遠いな。そんなに森が広いのか?」
「森が広いのもあるけど、単純に王都からヘスティアまで来た時の時間を参考にしているから、正確な時間ではないの」
確か、ルミナスの森は王都から三日くらいの場所だっただろうか。色々と森を回った後に辿り着いた場所だから、直線で行ったらもっと早いかもしれないけど、まあ大体そのくらいだろう。
方角的には一応ヘスティア側だったから、直接行けるなら一か月もかからなそうだけど、問題なのはそこまでの道がわからないということだ。
正確な地図はないし、地図があったとしてもルミナスの森は地図には載っていないだろう。
だから、行くとしたら一度王都に赴き、そこからルミナスの森を目指すという形をとるしかないわけだ。
遠回りにはなるが、直接行こうとして迷子になるよりはましだし、間違ってはいないと思う。
城に寄るかはともかく、王都がどうなっているかは少し気になるしね。
「ま、気楽に行くか」
「旅は楽しんだもん勝ちなの」
サクラがいないのは残念だが、冒険はやはり楽しいものだ。
俺は雰囲気を楽しみつつ、木にぶつからないように慎重に歩みを進めた。
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