幕間:移動手段
主人公、アリスの視点です。
サクラを見つけて里の問題を解決することができた。それは喜ばしいけれど、肝心なことが何一つ解決していないのが問題である。
すなわち、サクラを連れ出すことだ。
今、サクラの里は若いエルフ達が集まって協力して暮らしている。
サクラの訓練のおかげでスキルレベルも高く、戦闘力もその辺のエルフよりは高いし、魔物か何かに攻め込まれるようなことがあったとしても、守り切ることはできるだろう。
それはサクラがいなくても同じことであり、サクラが里を抜け出したとしても問題ないように見える。
しかし、結局サクラは女王なわけで、里のエルフ達はサクラのことを深く尊敬している。
そんな人がいなくなれば、士気はがた落ちだろうし、下手をすればナラさんが言っていたように近いうちに傾いていくかもしれない。
それを防ぐためにも、しばらくはサクラは里にいなければならないだろう。そして、エルフの言うしばらくがひと月やそこらで済むはずもないため、数年、数十年と一緒にいなければならないかもしれない。
流石に、そんな長い時間待つわけにはいかないため、何かしらの策を講じる必要はある。
エルフ達を納得させて、サクラを連れ出すにはどうしたらいいだろう?
「まあ、普通の方法では無理だろうな。サクラが認めたところで、エルフ達には関係ないだろうし」
「ですね。誰かに交代してもらうというのも無理でしょう。サクラはとても愛されているようですから」
サクラの家でみんなで話し合う。
これが解決しない限り、帰るわけにはいかない。せめて、数日だけでも連れ出す算段を付けなければいつまで経っても無理だろうから。
しかし、シリウスとカインが言うように、いくらサクラが出たいと言ったところでダメと言われるだろうし、サクラ以外の人を女王にと言っても聞かないだろう。
サクラの魅力のせいもあるだろうが、これはサクラの人柄も要因に入っているかもしれない。
「考えられるとしたら、エルフ達と仲良くなって、俺達と一緒にいることを認めてもらうとか」
「そんなうまく行くの?」
「うまく行くかどうかはわかりませんが、やらないよりはましではないですか? サクラが絶対に無事に帰ってくるとわかれば、もしかしたら認めてくれるかもしれませんし」
確かに、どこの馬の骨とも知れない相手に自分の里の長を預けるのは怖いだろう。
ナラさんの里に行く時に俺だけで済んだのは、俺が呼ばれていたのと、サクラが説得したからだ。
これがもし、俺達がサクラを守れる程度には強いことを知ってもらい、サクラに何があっても無事だとわかれば、もしかしたら少しくらい外出を許してくれるかもしれない。
ただ、それをやる場合、何かしらそれを見せる見せ場が必要になる。
模擬戦とかでもいいけど、それで納得するだろうか?
「まあ、やるにしても今じゃねぇだろ。せっかく落ち着いているのに、内輪揉めして瓦解したと思われるのもしゃくだし」
「確かに」
仮にうまく行って、サクラを連れ出せるとしても、それではサクラが他の里から非難される要因になってしまう。
若いエルフでもやればできるんだというところを見せなければ、ナラさんを初めとした里が攻めてくるだろう。
まあ、エルフのことだからしばらくが何十年という単位の可能性もあるけど、せっかく手を出さないと約束してくれた直後なのだから、少し間を置いた方がいいとは思う。
どのみち、俺もヘスティアの王様としての地位をどうにかできなければ自由に動けないし、それを何とか出来てからでも遅くはないだろう。
「じゃあ、それは後回しにして、次の問題だ」
「次の問題?」
「ほら、ここに来るまでに結構時間かかるだろ? 今回は許してもらえたが、また許してもらえるかわからないんだから、何か手段を考えないと」
「ああ、なるほどなの」
俺は王様という立場の関係上、あまり国を長く空けることができない。
今回は結構長い外出となっているが、これは例外だろうし、次に同じことを許してくれと言っても許してくれない可能性がある。
流石に片道二週間は長すぎる。もっと早く移動できればいいのだけど。
「そう言うことなら、一ついいのがあるじゃないですか」
「なんなの?」
「わかりませんか? 【テレポート】ですよ」
「ああ、その手があったの」
【テレポート】は【サイキッカー】というクラスが覚えるスキルである。
超能力によって物を浮かせたり、透視したりできるのが特徴で、スキルの命中判定が知力ではなく精神力で計算される少し珍しいクラスである。
そして、【テレポート】は瞬間移動のスキルで、あらかじめ決めておいた地点に一瞬で移動できるというスキルである。
これを使ってサクラの里を登録しておけば、一瞬で移動できるというわけだ。
ただ、【テレポート】よりももっと使いやすいスキルがあるんだよね。
「それだったら、【ワープポータル】の方がいいと思うの。【テレポート】だと、自分しか対象に取れないの」
「あれ、そうでしたっけ?」
「確かに、アリスだけ移動するよりは俺達も移動できた方がいいか」
【ワープポータル】は【テレポート】と似たスキルで、ポータルという時空の穴を作り出して、そこに入ると別のポータルがある場所まで移動できるというスキルである。
これのいいところは、使った本人以外も移動できるという点。
【テレポート】だと自分しか移動できないが、ポータルは設置さえしておけば誰でも利用することができる。
まあ、その分誰かに勝手に利用される可能性があるという欠点はあるけど、そこは設置場所に気を付ければ多分問題はないだろう。
これなら、いつでも気軽にここに来ることができる。というか、もっと早く取っておいてもよかったかもしれないね、このスキル。
「なら、さっそく取っておいた方がいいんじゃないか?」
「うん。えっと、『レベルアップ処理』と」
俺は経験値を少し消費して【サイキッカー】へとクラスチェンジし、【ワープポータル】を取得する。
せっかくだから他のスキルもいくつか取っておこうか。経験値は余っているし、【サイキッカー】のスキルは割と面白いものが揃っているからね。
「みんな何してるの?」
「ああ、サクラ。ちょっと移動手段の相談を」
と、そこにサクラがやってきた。
戻ってきた当初、サクラはエルフ達に引っ張りだこだった。
エルフ達にとっては、ナラさんはいけ好かない老人だし、そこに単身挑んでいったサクラを心配する声は多かった。そして、それが無事に帰ってきたばかりか、里への干渉をやめさせたとあっては、喜ばない者はいない。
しばらくの間、サクラは数年ぶりに優勝した野球チームの監督の如く、わっしょいわっしょいされていたのだ。
帰ってきたってことは、それが終わったのかな? ちょっと疲れている様子だから、結構激しかったのかもしれない。
「移動手段?」
「私達はこれから帰るけど、またすぐに会いに来られるように」
「そっか、もう帰っちゃうんだね……」
寂しそうに目を伏せるサクラ。
まあ、約二年ぶりに再会したわけだし、もっと長く一緒にいたいと思うのは当然のことだろう。
俺だって、できることならこのままサクラを連れて帰りたい。でも、それはできないから、せめてすぐにでも会いに来れる手段を用意したのだ。
いずれは連れだすことは決定しているけど、しばらくの間はこうやって遠距離恋愛のように頑張るしかないね。
「そんなに心配する必要はないの。私達も頻繁に会いに行くし、サクラだって来たい時に来ればいいの」
「そんな簡単に行けるの?」
「もちろんなの。私に不可能はないの」
「おお、アリスは頼りになるねぇ」
まあ、不可能はないは言い過ぎかもしれないけど、ゲームマスターとして自由にクラスチェンジできるのだから、スキルとして存在するものなら何でもできると言っていい。
その後、サクラに目立たない場所はないかと聞いて、ポータルを設置しておいた。後は、帰って城のどこかにでもポータルを設置しておけば、いつでも瞬時に行き来することができる。
できることなら、すぐにでも使われなくなってくれた方がいいけどね。
俺は喜ぶサクラを見ながら、薄暗く輝くポータルを見つめていた。
感想ありがとうございます。
 




