幕間:憧れの種族
主人公の友達、サクラの視点です。
僕はエルフという種族が好きだった。
エルフは空想上の存在で、現実にはいないけれど、魔法が使えて、弓が得意で、清廉潔白で、自然を愛する美しい種族というのが僕の認識だった。
だから、キャラクターを作ろうとなった時、エルフがいると聞いて真っ先にそれを選んだし、自分の好みを詰め込んだ完璧な立ち絵も作った。
そして、そんな完璧な立ち絵の姿に自分が変身しまったと知った時、僕は柄にもなく舞い上がってしまった。
だってエルフだよ? 流石にコスプレは色々と費用が掛かるからできなかったけど、こうしてなることができるならぜひなりたいと思っていた。
まあ、唯一誤算があったとすれば、立ち絵を女性にしてしまっていたことだろうか。
僕はよく女の子っぽいと言われることがあったけれど、別に女の子になりたかったわけではない。
あくまで理想がこの姿であっただけで、この姿にそのままなりたかったわけではなかったのだ。
でも、そこはサクラとしての性格なのか、特に落ち込むことはなかった。
本当に、うまく事が運んでいたと思う。
サクラの姿になったからなのか、きちんと覚えていたスキルも使うことができたし、【収納】に入れた道具も使うことができた。
初期地点が森の中だったというのはちょっとマイナスだけど、サクラのスペックならすぐにでも脱出できるだろうとも思っていた。
「運はよかった、んだろうけど、これはねぇ……」
その後、森を歩くエルフに保護され、僕はエルフの里へと招待された。
自分がエルフになっただけでも嬉しかったのに、さらに本物のエルフに出会うことができるなんてなんて幸運なんだろう。僕は舞い上がる気持ちを抑えながら、エルフの手を握っていた。
しかし、幸運だったのはそこまでだったのかもしれない。なぜならば、本物のエルフは僕が思っていたようなものではなかったからだ。
確かに、思っていた通りに魔法は使えるし、弓の扱いもうまい。それに美形で、自然を慈しむ心も持っている。
ただ、清廉潔白かと言われるとそんなことはなかった。
エルフは基本的に外の世界に対して不干渉で、他のエルフの里ともあまり交流を持たないらしい。
しかし、僕が案内されたこの里だけは、いろんな里から目の敵にされているらしかった。
その理由は、エルフの風習にある。
エルフには古い風習があり、年を経たエルフが敬われ、若いエルフはそれを支え奉仕するというもの。
一見何の問題もなさそうな風習ではあったが、この奉仕をするというのは僕が思っている以上に過激なものらしい。
例えば、狩ってきた獲物はすべて王様に献上しなければならず、狩った本人は碌になにも貰えないとか、少しでもミスをすれば厳しい体罰が待っているとか、まるで小説とかによく出てくる貴族と奴隷のような関係性だと思った。
この里では、その風習に疑問を持っており、若いエルフでもきちんと人権が認められ、協力して暮らしているとのことだった。で、他の里から見るとそれは異質なものなので、早く改めろとぐちぐち言われているわけである。
僕としては、この里の女王様の言うことは間違っていないと思うし、ただ若いからと言って奉仕しなければならないというのはおかしいと思う。
エルフの醜い部分を見てしまったようで、一気にテンションが下がったのを覚えている。
しかも、厄介だったのはこの里の人達が、みんな僕のことを凄い凄いと讃えてくることだ。
確かに、僕の魔法はこの里の人達と比べると威力が高かったし、戦闘力という意味では確かに凄いのかもしれないけど、それがいつの間にかエスカレートしていって、ついには女王になる羽目になってしまった。
本当はエルフでも何でもない僕が、エルフの女王だなんて、どう考えてもおかしい。
しかも、いくら自分は女王の器ではないと言っても、みんな讃えてくれるばかりで降ろしてくれない。
まあ、エルフに囲まれているのは悪い気はしないけど、僕が女王になったせいで以前の女王様に向いていたヘイトが一気に僕に向いてきた。
エルフとはこうあるべきだとか、若いお前が上に立つべきではないとか、色々チクチク言われることもあった。
とはいっても、元からエルフ同士の繋がりが薄いからなのか、そのスパンはかなり長かったからそこまで苦ではなかったけど、永遠に終わらないと考えるとちょっと憂鬱にもなってくる。
それに、僕がこうしてサクラの姿になっているということは、他のみんなももしかしたらこの世界に来ているかもしれない。
みんなに会えないのもつらかったし、元の世界に戻れないかもしれないと思うと怖くて泣きそうになったこともあった。
でもそれでも、気が付けば前向きに考えているところを見る辺り、サクラは相当明るい性格なのかもしれない。
自分で考えた設定ではあるけど、そう言う点では救われたと言ってもいいのかな。
「でも、アリスはちゃんと会いに来てくれた」
この世界に迷い込んでから約二年。親友である秋一を始め、冬真や夏樹とも出会うことができた。
本当なら、ほぼ出会うことはできなかったであろう出会い。なぜなら、エルフの里には目に見えない結界が張ってあり、エルフ以外の人はそもそも存在を知ることすらできないのだから。
みんな、キャラとしての種族は人間にホビット、それに獣人と、エルフとはかけ離れたものばかり。僕が意図的に外に出ない限り、出会うことはないはずだった。
でも、アリスは会いに来てくれた。
それは偶然だったのかもしれないけど、寂しくて夜ひっそりと涙を流していた身としてはたまらなく嬉しかった。
「それにしても、アリスがゲームマスターとはね」
予想外だったのは、アリスがゲームマスターとしての力を持っていたことだろう。
ゲームマスターっていうのは、ゲームの進行役で、僕達のようなプレイヤーを導く役割の人のことを言うらしい。
アリスはゲームマスターでありながら、お助けNPCとして参加していたせいなのか、ゲームマスターとしての権限を持ちながらこの世界に来てしまったようだ。
そのせいか、今やレベルは70越え。あんまり詳しくない僕でもわかるほどに高レベルになっていた。
元から凄い人だったと思うけど、ここまでくるともう敵はいないんじゃないだろうか。
ずっと頼るのはどうかと思うけど、そんな人が味方でいてくれるっていうのは凄く心強い。
聞けば、僕もいずれはそのレベルに達することもできるという話だし、いつか並び立って見たいと思った。
「そのためにも、頑張っていかないとね」
レベルアップをするには経験値が必要。そして、経験値を手に入れるには魔物などを倒す必要がある。
幸い、エルフの里は森の中にあるせいか魔物はそこらへんにたくさんいるし、防衛の面でもどっちにしろ戦う必要はある。
まあ、それは僕じゃなくて警備の仕事かもしれないけど、一緒に戦っていれば経験値も貯まっていくことだろう。
やろうと思えば、ゴーレムを作っては倒しを繰り返すパワーレベリングもできるらしいけど、できれば自分の力でレベルを上げたいなと思う。
そこまでおんぶにだっこじゃ並び立っても誇れないだろうしね。
「アリスのためにも頑張らないと」
この里のことも大事だが、アリスのことも大事である。
いつかはこの里から飛び出して、みんなで一緒に冒険できたらいいな。
感想ありがとうございます。
 




