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第百八十話:あっけない決着

「き、貴様、一体何をした!?」


 明らかにうろたえた様子のナラさんは、椅子を倒しながら立ち上がった。

 まあ、あれだけ弱い弱いって言ってた相手に部下を瞬殺されたらそうもなるか。

 しかも、反応的にサクラが何をして倒したかもわかっていなさそう。

 エルフは魔法に長けているというのはこの世界でも同じはずなんだけど、あれだけの魔法を見逃していたのだろうか。

 確かに、風魔法は見えにくいけど、エルフなら普通にわかってもおかしくなさそうだけど。


「ただ【エアカッター】を撃っただけだよ。でもびっくりしちゃった、こんなに威力上がってるなんて」


「そりゃレベルが高いもの。当たり前なの」


 そもそも、レベル5の時点でも火力面では相当強かったのだ。

 このあたりに住む魔物は、この世界では割と強い部類に入るようだけど、サクラならレベルアップ前でもそれらを普通に倒すことができた。

 対人戦は慣れてないにしても、一度は襲撃を退けたわけだし、その威力には信頼があっただろう。

 それでも驚いているということは、予想を上回っていたってことなんだろうね。

 俺からしたら一撃で倒すのはむしろ当たり前に見えるけど、サクラにとってはそう言うわけではないということか。

 なんか感覚がずれてきているのかもしれない。ちょっと気を付けないとだな。


「なぜだ、なぜまだ幼い貴様がそんな高等魔法を使える!? そんな魔法、私だって……」


「高等魔法でもないと思うけど……アリス、これって初期魔法なんだよね?」


「そうなの。基本魔法の一つなの」


「基本魔法だと!? あ、ありえない……こんなのありえない!」


 これがただの基本魔法だと知ってナラさんは頭を抱えて呻いている。

 この世界の魔法だと、【風魔法1】みたいにスキルレベルによってその熟練度が表されるけど、その中でも【エアカッター】はレベル1で覚えられるくらいの基本魔法だと思う。

 もちろん、他の火力系スキルを考えると威力はすでに10に行っていてもおかしくはないけど、10で放つ魔法は基本魔法とは呼べない。

 だから、基本魔法と言われて動揺してしまったのかもしれない。

 今更ながら、サクラの実力に気づいたって感じだね。


「まだこれでもサクラが女王にふさわしくないって言えるの?」


「ぐ、ぬ……だ、だが、若さゆえの判断力不足はあるだろう。いくら強い力を持っていたとしても、それを十全に扱える知恵がなければ……」


「呆れたの。まだそんなこと言ってるの?」


 言いたいことはわかるけど、自分よりも圧倒的に強い力を持つ相手が目の前にいるのにそんな戯言を吐けるのはある意味で凄い精神力かもしれない。

 どうあってもサクラを認めたくないらしいが、それでサクラが逆上してこの里を滅ぼしてしまう可能性は考えないのだろうか?

 年長者は、たとえ失敗したとしてもそれをリカバリーできるだけの知恵があるから王様としてふさわしいという話があった気がするんだけど、これでは里を危険に晒すただの愚王である。

 今こそご自慢の知恵で冷静に状況を分析し、最適な行動をすべきなんじゃないの?

 強い強いともてはやされているから、いざ自分より強い相手に出くわした時に何もできない。そう考えると、エルフの風習はやはり間違っているのかなと思う。

 せめて、若いエルフを奉仕させるのではなく、力をつけさせる訓練をすべきだよね。里を守るためにも、後任を育てるという意味でも。


「ねぇ、なんでそこまで若い人を目の敵にするの? 若い人が何かしたの?」


「目の敵になどしていない。た、ただ、若い者は年長者を敬うべきだと……」


「うーん、確かに子供が大人を敬うようにするっていうのはわかるけど、それって大人も子供をしっかりと保護してはじめて成立するものじゃない?」


 エルフの言う若い層というのは別に子供というわけではないだろうから、子供と大人という表現は少し違う気もするけど、でも言っていることは大体合っている気がする。

 強くて知恵もあるから頼られる存在である年長者は、若い者に敬われる。しかし、ただ強くて知恵があるだけでは敬うことはできないだろう。その強さを十全に発揮し、その知恵を持って生活を豊かにしたりなどきちんと役目を果たして初めて敬われる存在になるはずだ。

 サクラはその力を使って、里を襲う魔物や他の里の侵入者を追い返しているし、生活が豊かになるように、食料を外から買うなどの新しい手段も取っている。

 では、この里はどうだろう。

 ここに来るまでにざっと見た程度でしかないから詳しくはわからないが、とてもそれらの役目を果たしているようには見えない。

 むしろ、こんな微妙な椅子まで作らせて、完全にお山の大将って感じだ。

 王様であるというなら、その役割を果たすべきである。それを棚に置いて、ただ若いからという理由だけでサクラを非難するのは明らかに間違った行為だ。


「あなたはこの里ではとても強いのかもしれない。知恵もあるかもしれない。でも、私はどうにもあなたよりも私の里のエルフの方が賢く見える。人に王様をやめろという前に、まずは自分の行いを振り返った方がいいんじゃないかな」


「わ、私が王としてふさわしくないというのか……!」


「そうは言わないけど、ここで冷静さを取り戻せないようじゃそう言われても文句言えないと思うよ」


「くっ……!」


 状況を冷静に分析できれば、今のサクラに逆らわないほうがいいというのは嫌でもわかるだろう。

 さっき倒したエルフがどれほどの実力かは知らないが、こうして逃がさないようにするための壁役と考えるなら、そこそこの実力を持っていただろう。

 それが瞬殺され、自分は明らかに見逃されている状況。ここで下手なことを言えば、自分のみならず、里まで危険に晒すことになるかもしれない。

 まあ、集落のことまで気が回らないにしても、自分に身の危険が迫っていることくらいはわかってもいいだろう。

 もちろん、サクラはそんなことしないだろうけど、そんな状況でまだ自分の意見を変えないのはある意味凄い。でもそれは、場合によっては愚かな行為だ。

 これが戦争なら既に完全敗北している状況、ここは不服でも相手の意見を受け入れ、再起を図る方がいいに決まってる。

 それができず、引くに引けなくなって喚いている時点で冷静とは呼べない。

 この里では強いのかもしれないが、所詮は井の中の蛙というわけだ。


「私としては、私の里を認めて、今後襲わないでいてくれたらそれでいいの。私が王様としてふさわしくないというなら、辞められるように努力はするけど、口うるさく言わないでほしいかな」


「き、貴様のことを認めろというのか……!?」


「だからそう言ってるじゃん。私や私の里に手を出さない、関わらない、ただこれだけのことだよ? まさかこんな簡単なことすらできないわけじゃないよね?」


「と、当然だ。貴様の里など、若者ばかりの取るに足らぬ存在。わざわざ足を伸ばしてやるほど暇ではない!」


「そう、それじゃあ、これ以降は手を出さないでね。もし手を出したら……わかってるよね?」


「ひっ……!」


 サクラの威圧にこくこくと頷くナラさん。

 なんかもう、王としての威厳もあったもんじゃないが、サクラもなかなかやるじゃないか。

 これで少なくともこの里は手を出してくることはなくなっただろう。もちろん、サクラの里に手を出そうとしている里はここだけではないが、こんな風にうまく行くならじきに何とかできそうではある。

 俺はとりあえず一段落したことに安堵し、ほっと息を吐いた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思考の停止は緩やかな衰退よ( ˘ω˘ )
[気になる点] 今までの流れ的にもなろうテンプレ的にも、原始な思考なのはわかってたが、すごい残念な気持ちになるね。 負けるにしてもせめて抵抗できるくらいの武力位はもっとかんかい。 ナーロッパの思想は…
[一言] やはり力! えぇ、後進を育てていなかったんですか サクラさんの事がなくても遠い未来で先細りになって廃れていそうです
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