第百七十七話:出陣
遅くなって申し訳ありません。
しばらくして、サクラが戻ってきた。
エルフ達の反応は、「わざわざ行く必要はない」とか「サクラ様を認めない愚か者どもめ」とか「サクラ様が行くならついていきます」とか概ね予想通りの反応だったようだ。
この里のエルフ達にとっては、エルフの風習の方がおかしいわけで、実力があれば年齢は関係ないと思っている人がほとんどである。
だからこそ、この里のエルフ達は若い人が多いし、若いサクラが上に立つことができているのだ。
まあ、サクラの場合は若さというよりは魅力によって上に立ったような気がするけど、それはそれだろう。
若いエルフが上に立つことを認めない他の里もダメだと思うけど、古くからの風習を否定して自分達こそが正義だとごり押そうとしてるこの里のエルフ達にも問題があるように思える。
どっちが正解かはエルフではない俺にはよくわからないけど、俺はサクラが幸せになれる選択をするだけだ。
「それで、いつ出発する?」
「明日出発しようかなって。早い方がいいでしょ?」
「まあ、それはそうだけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。みんなも一緒にいるし、防衛のことは任せてきたから」
どうやら、ついてこようとするエルフも結構いたようだが、サクラはそれらを断って、自分がいない間、里のことを頼むという風に頼んだらしい。
いくら襲撃がかなり前のこととはいえ、サクラがいなければ襲撃の可能性はないことはないわけだし、その間の守りは必要だ。
もちろん、俺達もシリウスかカインを防衛に残していくつもりではあるけど、戦力は多い方がいいだろう。
「何か準備するものはあるか?」
「特にはないの。まあ、武器くらいなら作れるけど」
もしかしたら戦闘になる可能性もあると考えると、武器くらいは用意してもいいかもしれないが、今回活躍してほしいのはサクラである。
サクラの戦闘スタイルは魔法による遠距離攻撃だし、すでにサクラは杖を持っている。
もちろん、初期装備だから大した能力はないけれど、あんまり強くしすぎても森を破壊してしまうし、わざわざ新しく用意する必要はないだろう。
今の時点でも大変なことになりそうなのにこれ以上の強化はオーバーキルになってしまうと思う。
仮に足りなかったとしても、俺がいる限りサクラに手を出させるつもりはないし、多分大丈夫だろう。
「んじゃ、今日はゆっくり休むとするか」
「明日は朝一番で出るの。早めに寝ておくことをお勧めするの」
「はいよ」
その後、食料の残りを確認したり、エルフ達に指示を出したりしながら時は過ぎ、次の日になった。
準備を整えて里の外に出る。後ろには見送りに来てくれたエルフ達が勢ぞろいしていた。
「サクラ様、どうかお気をつけて!」
「あいつらに目にもの見せてやってください!」
「サクラ様なら勝てます! 頑張って!」
なんか戦争にでも行くかのような雰囲気だが、エルフ達からしたら実際そんなものかもしれない。
里同士の仲は最悪のようだし、そんな中女王の呼び出しとなれば戦闘になる可能性も十分あるだろう。
俺だってそうなると思ってるしね。
本来ならこんな呼び出しに応じる必要もないと言っていたところを、サクラが説き伏せて行くことにしているのだから、せめて相手を叩きのめしてやらないと気が済まないのかもしれないね。
まあ、それをお望みなら俺としては構わない。俺としてはサクラの方が大事だし、それで他の里がどうなろうと知ったことではない。
叩きのめすだけで解決できるならそれが一番楽だ。
ま、話し合いで済ませられるならそっちの方がいいかもしれないけどね。
「アリスさん、サクラ、どうかお気をつけて」
「へまするんじゃねぇぞ」
「カインとシリウスも、留守の間を任せるの」
「ええ、何が来ても守り切って見せましょう」
里の防衛に残るのはカインとシリウスの二人ということになった。
戦力的にはどちらか一人だけでも十分とは言え、大勢に囲まれたとなると一人では守り切れない可能性がある。
しかし、カインは守ることは得意だし、シリウスは回復が使えるから、二人揃えば多少崩れても何とかすることはできるだろう。
こちらも戦闘が起こって相手を怪我させてしまう可能性はあるが、治療するだけなら俺でもできるし、ヒーラーは分かれた方がいいだろう。
戦力のバランスを考えても、こういう分け方の方がいいと思う。
そう言うわけで、サクラについていくのは俺だけだ。責任重大だね。
「アリス、よろしくね」
「任せるの。サクラには指一本触れさせないの」
まあ、俺が何もしなくても倒せるとは思うけどね?
一応、いつでも【プロテクション】を張れる用意はしておこう。これがあれば、どんな攻撃でも一撃死はないはず。
「それじゃあ、行こうか」
大勢のエルフ達に見送られながら、里を後にする。
さて、うまく行くといいけど。
「こうして二人で歩くのは久しぶりだね」
「確かに、久しぶりなの」
里から離れ、完全に森の中となった。
確かに、こうして二人で歩くのは久しぶりかもしれない。
以前は、同じ学校に通っていたし、家も近かったということでよく一緒に歩いていた。
高校は少し離れたところに行った都合上、一人暮らしをすることになったけど、まさかサクラも一緒に来るとは思っていなかった。
友達にも恵まれたし、俺はある意味幸せ者だったのかもしれない。
なんだかんだ、今もこうして一緒に居られているわけだしね。
「ねぇ、アリスは、元の世界に戻る方法を知ってたりする?」
「何を急に。知るわけないの」
「そう? ゲームマスターなのに?」
「ゲームマスターでも知らないことくらいあるの」
確かに、この世界がゲームの世界だというのなら、ゲームマスターである俺は元の世界に戻る方法を知っていてもおかしくはなかっただろう。
だけど、この世界は微妙にずれている。スキルや種族、言葉など、似ている部分は多くあるが、『スターダストファンタジー』の世界とは少し違う。
前から思っていたことだが、この違いは何なんだろうか。
俺達がゲームをしていて、その世界に飛ばされたというのならまだわからなくもないけれど、全く違う世界に飛ばされるというのはあまり聞いたことがない。
俺達をこの世界に送った黒幕は一体何の目的でそうしたのだろうかね。
「そっか。みんな揃って元の世界に帰ってハッピーエンドってわけにはいかないんだね」
「それができたら一番なの。でも、それには色々謎が多いの」
「元の世界に帰れると思う?」
「帰るの。絶対に」
いつまでもこの世界に留まっている気はない。
元の世界に戻れる手段があるのなら、それを探すべきだろう。
まあ、他の人が戻りたくないというなら少しは考えるけど、きっとみんな同じ気持ちだと思う。
「ふふ、頼りにしてるからね、アリス」
「任せるの」
いくらみんなとは違う特別な力を持っているとはいっても、俺にもどうにかできるかなんてわからない。でも、頼られたのなら、それに応えなければいけないと思う。
俺はどうすれば元の世界に帰れるかを考えながら、まずは目の前の目標を片付けようと頬を叩いた。
感想ありがとうございます。
 




