第百七十四話:懐かしい思い出
あれから、再起動した護衛さんによって泊まる準備が整えられた。
なんか、エルフ以外の者が里に泊ることに慣れていないのか、ちょっと不安そうにこちらをチラチラ見ていたけど、今までエルフ以外が来ることはなかったんだろうか。
いやまあ、エルフの里には結界が張ってあるし、エルフ以外が入れるなんてそうそうないだろうけど、一人か二人くらいいてもおかしくはないと思うんだけどな。
エルフの寝床は草を編んだものらしく、自然の香りに満ち溢れていた。
まあ、野宿よりはましだろうか。柔らかい寝床があるだけましだろう。
贅沢を言うならベッドが欲しいけど、それはエルフに失礼というものだ。
「おおー、アリス凄いね! ほんとにお風呂だ!」
俺が作り上げた湯船に歓声を上げるサクラ。
現在は夜になり、夕食をいただいた後だ。
夕食は宣言通りサクラが作ったらしく、割と美味しかった。
元々、サクラは一人暮らしなので料理スキルに関しては結構高い。この世界でもちょくちょく料理していたせいか本当に【料理】というスキルが生えてきたらしいし、割と信用できる味である。
で、夕食を食べた後はお風呂に入ろうという話になったが、エルフの里にお風呂はなかった。
基本的には水浴びで済ませるようで、わざわざ大量の薪を使うお風呂に入るなんて文化はないらしい。
なので、つい最近作れるようになった湯船を披露してあげたら、サクラは大喜びしたというわけである。
やっぱり、日本人としてはお風呂に入りたいよね。
「邪魔にならないなら置いておくといいの」
「ありがとう! 私もお風呂は考えたんだけど、みんなお風呂なんていらないって言うからさ」
湯船を作るだけでも、結構な木がいる。エルフとて、全く木を使わないというわけではないけれど、無駄なことに使う気はないらしく、ただ体を清めるだけなら水浴びで十分だと考えているようだ。
まあ、沸かすのも大変だからね。【火魔法】があれば薪がなくても沸かせる気がしないでもないけど、そもそも水を入れるのが大変だろうし、魔力だって結構使うだろうしね。
水浴びで十分だと思ってるならわざわざそんなことしないよな。
「それにしても、アリスって魔法なんて使えたっけ? 弓一筋だった気がするんだけど」
「私もレベルアップしてるの。今は74なの」
「74って……よく知らないけど、それって凄く高いよね?」
「まあ、普通はこんなレベルにはならないの」
「だよね。凄いなぁ」
74まで上げるのに一体何シナリオ必要になるだろうか。
シナリオごとに配られる経験値はゲームマスターの裁量とはいえ、一回のシナリオで1レベル上がったとしても、73回は必要になる。
普通だったら、そんなにやったらどこかでキャラロストしていてもおかしくないし、そうでなくてもそんな回数のキャンペーンシナリオがないだろう。
まあ、アリスはNPCだからもっと簡単かもしれないけど、それでもすでに元のレベルの倍以上だからね。明らかにおかしい。
「私もアリスみたいに強くなれるかな」
「レベル上げすればいずれ追いつけるの。だから頑張るの」
「うん、頑張るね」
さて、お風呂に関してはこれでいいだろう。
ほんとは一番風呂をいただきたいけど、ここはサクラに譲るとする。
この二年間、サクラはまともにお風呂に入っていないようだしね。久しぶりに堪能するといいだろう。
そう思って、俺はその場にサクラを残し、部屋へと戻った。
「お帰り」
「ただいまなの」
俺達にあてがわれた部屋は割と広い一室だった。
元は女王の寝室ということらしかったが、サクラ自身が広すぎて落ち着かないということで別の部屋で寝るようになり、すっかり使わなくなっていた部屋らしい。
護衛の人はいくら使わなくなったと言っても、女王の寝室を使わせるのはどうかと迷っていた様子だったが、戻ってきたサクラによって諭されて結局この部屋を使うことになった。
客室があれば一番だったんだろうけど、エルフはほとんど人を泊めることはないだろうからね。ないのは当然か。
「なんか、こういう場所ってワクワクするよな」
「ワクワク?」
「アリスはしないのか?」
「んー、まあ、そこまでは」
一応、ツリーハウスっていういつもとは違う環境にいるわけだし、多少興奮しているのかもしれないが、そこまでではない。
ああでも、シリウスの気持ちはわかるかもしれない。
こういうのって、なんか秘密基地感あっていいよね。俺も幼稚園の頃にツリーハウスに上った時はワクワクしたものだ。
園長先生がものづくりが好きで、自分で建てちゃったんだよね。登る方法が縄梯子だったからすっごく登りにくかったけど。
「昔を思い出しますね」
「昔って言うと、あっちの世界のか?」
「はい。小学生の頃、空き家に忍び込んでよく遊んでいました」
カインの通う学校の途中には空き家がいくつかあったらしい。
大体の家は鍵がかかっていて入れなかったらしいが、一つ、壁も何もかも取っ払われて、支柱と屋根だけの廃墟のような空き家があったらしく、そこでよくガラクタを拾って遊んでいたんだとか。
まあ、結局その空き家は近くの家の人の持ち物で、見つかって大目玉を食らったそうだが、今ではいい思い出だとか。
「なんか似たようなことしてんな。俺は通学路の途中にあった林で蔓の塊を改造して秘密基地にしてたが」
シリウスも似たような経験をしていたらしい。
蔓の塊っていうのがよくわからないが、中に空洞がある草の塊って感じだろうか。
毎回帰り道で寄ってはスペースを広げたり、ハンカチなんかを持ってきてカーテンを作ったりと色々やっていたらしい。
「アリスはどうだ? 秘密基地とか作らなかったか?」
「まあ、一応サクラと一緒にそれっぽいことはしてたの」
俺の場合は、実家の隣にちょうど空き家があった。
もちろん鍵はかかっていたが、ベランダから屋根伝いに行くとちょうど二階の窓に辿り着くことができ、窓には鍵がかかっていなかったので普通に入ることができた。
中にはなぜかプラモの箱がいっぱいあって、中には未開封のものもあってなかなか面白かったが、すぐに親に見つかってしかられたのを覚えている。
いつもはサクラが遊びに来ている時に一緒に行っていたのだけど、その時はなぜかサクラがいない時にちょっと様子を見てみようって感じで、サクラが怒られることはなかったという。
一応サクラも一緒に入ってたとは言ったけど、信じてもらえなかった。
そう言うところもなんだかんだ運がいいよな、サクラは。
「みんな、子供の時はそんな感じなんですね」
「だな。今の子は秘密基地とか作るんかね?」
「さあ」
通学していてもあんまり小学生とかを見ないからそこらへんはよくわからない。
でも、今はそう言うのに厳しそうだし、もしかしたらそう言う文化は廃れて行っているのかもしれないね。
「ま、今は秘密基地なんかよりよっぽど面白い体験をしているわけだが」
「確かに。こんな世界に来ているなんて誰も信じないでしょうね」
「違いないの」
秘密基地ってだけで何となくワクワクするものだが、こんなファンタジー世界に来れているという時点でワクワク度は上回るだろう。
もちろん、本当に元の世界に帰れるのかとかそう言う心配もあるが、それを抜きにすれば楽しい世界だとは思う。
そう言う心が大事なのかな。あんまり気張りすぎてもいけないかもしれないね。
そんなことを考えながら、サクラが戻ってくるのを待っていた。
感想、誤字報告ありがとうございます。
秘密基地のくだりは大体実体験なので、主人公達の年齢を考えると、少し食い違いがあるかもしれないです。
 




