第百七十二話:まずはレベルアップ
結局、やることと言えばサクラの運に頼った行き当たりばったりな作戦になる辺り、割と適当だよなと思う。
そもそもの話、運がよかったのは中の人である春斗の話であって、サクラ自身の運が高いかと言われたら微妙なところだ。
判定のようなものがあるかもわかっていないし、それにすべてをゆだねるのは脳死もいいところである。
でも、だからと言ってうまい案がないのも事実。
いやまあ、ヘスティア王国が全面的にバックアップして、結界の強化や物資の輸送なんかをしてあげれば行けなくはないだろうが、そこまですると国としての利益も考えないといけないし、交渉が大変そう。
ものは結晶花でいいとしても、話し合いがね。
それだったら、俺達とサクラが頑張ればなんとかなるこちらの作戦の方がまだましなような気がしてくる。
「で、問題はサクラが一時的にでもここを離れなければいけないということなの」
サクラの運によってすべてを解決するというのがうまく行くとしても、結局のところサクラにはあちらの里に出向いてもらわなければならない。
しかし、俺達の足でもここに来るまで二週間近くかかっている。往復するなら一か月近くだ。サクラを抱えて移動したのだとしても、ちょっと時間がかかりすぎる。
もちろん、一か月程度では何も起きないとは思うけど、何らかの形でサクラが不在だということが周囲の里に知られれば、その隙に襲撃される可能性もあるだろう。
一度はサクラに退けられているのだから、サクラがいない間にと考えるのは自然のことだ。
他のエルフ達でも迎撃できる可能性はあるとはいえ、やっぱり不安なところである。
「あちらから来てくれたら一番楽なんだが」
「それは無理でしょう。連れて来いと言ってるんですから、自分から動く気はなさそうです」
場所を知っている以上は来れないことはないだろうが、行くのが面倒だから俺達に任せたわけで、それなのにわざわざ出向いてくれるとは思えない。
逆に言えば、あの里自体はこちらに攻めてこないとも言えるだろうが、他の里はそうではないだろう。
やはり、結界を強化して、サクラがいない間は大人しくしてもらうべきか。
「その里の人は私を呼び出してどうする気なんだろうね?」
「そりゃお前、わからせてやるって感じじゃないか?」
「わからせるって?」
「あん? それは、うーん……」
確かに、あの里の人はサクラに何をするつもりなんだろうか?
呼び出す理由は、サクラが女王というのが気に入らないからって感じだろうけど、サクラにどうしてもらいたいんだろうか。
普通に女王から降りろというのだろうか、それとも、邪魔だからと殺す気なのだろうか。
襲撃されたことはあるとは言ったけど、それも滅ぼす気だったのかまではわからないし、何をしたいのかは割と不明である。
まあ、予想としてはサクラを女王の座から引きずりおろして、里を取り込むとかそんな感じじゃないかと思う。
こんなに離れてる里を取り込むのかと言われると自信ないけど。
「まあ、サクラにとってあんまりいいことでないのは確かなの」
「そっかぁ。なんか行きたくないなぁ」
「確かに、わざわざ出向くのも面倒ですよね」
一応、手紙で連れて来いとは言われているが、別にそれを守る必要はないわけで、このまま知らんぷりしてもいいと言えばいい。
ただ、サクラに魅了してもらうというならそれに乗じて連れて行った方が楽だよねってだけで。
「だったらさ、出向かなきゃいいんじゃない?」
「でも、それだと魅了もできないの」
「そうかな。前だって襲撃してきたんだから、待ってたらそのうち来ると思うんだけど」
「……確かに」
言われてみれば、相手はこちらを疎んでいるわけで、実際に襲撃もしてきているのだから、そのうちまた襲撃してきてもおかしくはない。
であれば、その時にどうにか話し合いの場を用意してやれば、魅了することも可能ではないだろうか。
もちろん、あちらの里は離れすぎているから来ることはないだろうが、離れているからこそ襲撃の心配はあまりないわけで、とりあえず近場の里さえなんとかできればしばらくは何とかなる。
うまく近くの里を魅了して、協力を得ることができれば、それに対抗することも可能だろう。
そりゃ、今すぐどうにかできるというならそちらの方がいいに決まっているが、この問題は割と大きなものだし、ゆっくり腰を据えて見極めていってもいいだろう。
そう考えると、わざわざサクラが離れる理由というのはないかもしれないな。
「そうなってくると、襲撃された時にいかに話し合いに持っていくかを考えるべきか?」
「それくらいなら何とかなりそうな気がするの」
サクラのことが気に入らないのなら、やはりサクラの力を認めさせるのが一番手っ取り早いと思う。
今の時点でも、サクラの力は割と強いし、他の里の長とも引けを取らないだろう。しかし、それでも認められないのはサクラが若すぎるからだ。
エルフは若いというだけで侮られるし、年長者は敬わなければならない。
それを覆すとしたらやはり、年長者でも絶対に敵わない圧倒的な力が必要となるだろう。
レベルを上げて物理で殴れという奴だ。
「どうする気なの?」
「まず、サクラにはレベルアップしてもらうの」
「レベルアップ」
サクラの今の構成は火力特化の魔法職。エルフは知力が高いから魔法の威力は元々高いし、特化しているからレベル5にしては異常なほどの火力を持っている。
だから、それをさらに高める。まあ、あんまり高めすぎて森を破壊しないとも限らないけど、そこに関しては【植物魔法】で何とかしてほしい。
こちらが下だと思っているからつけあがるのだ。こちらが上で、どうあっても勝てないということを心に刻みつけてやる。それがこの里を守る方法だ。
「サクラ、今まで魔物を倒したことはあるの?」
「あるよ。外に出ると結構出会うから、その度に倒してるけど」
「なら、経験値は大丈夫そうなの」
この付近の魔物は割と強い。強ければそれだけ一体当たりが持つ経験値量も多いだろうし、それを複数体狩っているとするなら経験値もそこそこあるだろう。
ひとまずキャラシで確認してみたが、十分な経験値が溜まっていた。
「レベルアップって、シナリオクリアしないとできないんじゃなかったっけ?」
「正確には、ゲームマスターが許可を出せばいつでもできるの。そして、私はゲームマスターなの。だから、レベルアップもできるの」
「へー」
なんだかよくわかっていなさそうだが、とりあえずレベルアップできるということだけでもわかってくれたらそれでいい。
「そう言うわけで、レベルアップするの。特別取りたいスキルとか、上げたい能力値とかはあるの?」
「そう言われてもなぁ……あんまり詳しくないし、アリスに任せるよ」
「なら、こちらで調整するの」
考えてみれば、サクラは『スターダストファンタジー』を始めてから一か月程度なんだよな。そりゃ定石もあまり知らないし、どんなスキルがあるのかも知らないか。
これに関しては経験の差があるから仕方がない。せいぜいこれから生きる上で不自由しないくらいに割り振ってあげよう。
俺は早速『レベルアップ処理』から、サクラのレベルアップを始めた。
感想ありがとうございます。
 




