第百六十九話:エルフの里
しばらくして、エルフの里へと辿り着いた。
同じように結界が張られているらしく、俺にはそこに何があるのか見えなかったが、シリウスはきちんと見えていたらしい。
それと、エルフであるサクラは種族スキルとして同じようなスキルを持っているので、問題なく見えるようである。
まあ、エルフなのに見えなかったら面倒この上ないからね。それは仕方ないと言えるだろう。
むしろ、『スターダストファンタジー』のエルフとこの世界のエルフがそれなりに似た点もあってよかったと思う。そうでなければ、サクラは保護ではなく迫害されていてもおかしくなかったのだから。
「それじゃ、みんなをお迎えして?」
「ほ、本当によろしいのですか? いくらサクラ様のご友人とはいえ、里に入れるのは……」
「いいの。もし何かあったら私が責任取るから」
「わ、わかりました」
エルフの結界は基本的にエルフしか通ることができないらしい。
これを通れるようにするためには、結界を解くか、エルフの承認が必要になるのだとか。
割と厳重なシステムだが、そうでもしないと森の中を蔓延る魔物に襲われることになるし、仕方のないことだろう。
エルフ達はしぶしぶと言った様子で俺達に通り抜ける許可を出したようだ。
どうやって判別しているのかはわからないけど、これもエルフの技術なのかね。
「ようこそ。エルフの里へ」
結界を通り抜けると、そこには壮大な光景が広がっていた。
エルフの里というと、ツリーハウスとかに住んでいるのかなと勝手に思っていたけど、それ自体はあながち間違いではなかった。
大きな木々の上にいくつかの家が存在しており、それらが橋で繋がっている。
それはそれで面白い光景ではあるが、驚いたのはそこではなく、むしろ地面の方だった。
地面には、色とりどりの結晶花が咲き誇っていた。
結晶花自体、作られる場所が限られているのに、ここではそんな貴重な花が咲き乱れている。
まるで絨毯のように広がるそれは光の加減で虹のように輝き、とても幻想的な光景を映し出していた。
里の外にも結晶花があったからまさかとは思ったが、ここまでとは思わなかった。
これ、一つ持ち帰るだけでも相当な額で取引されることだろう。これがエルフの宝だと言われても納得できそうな雰囲気だ。
「すげぇ……」
「綺麗ですね。ここまでとは思いませんでした」
シリウス達も感動しているのか、辺りをきょろきょろと見まわしている。
流石に今は下手に近づくことはできないが、ピュアクリスタルもいくつもあるし、後でじっくり見てみたい。
「サクラ様? そちらの方々は」
「紹介するわ。こちらは、アリス、シリウス、カインよ。私の友達なの!」
「と、友達ですと?」
突如入ってきたエルフ以外の訪問者に興味津々なのか、家からぞろぞろとエルフが出てきた。
見た感じ、エルフにしては若い人が多いように見える。
いや、エルフはある程度成長した後はよほど老いない限り全盛期の姿を保つと言われているから本当に若いかどうかはわからないけど、見た目はサクラと同じかそれより下に見える。
まあ、サクラ自身が16歳とは思えないほど大人な見た目なんだけどさ。
「サクラ様にエルフ以外の友達が?」
「人間とホビットと、それに兎の獣人か? 本当に友達なのか?」
「確かにサクラ様は仲間とはぐれたとおっしゃっていたことがあったが、まさかその?」
「信用できるのか?」
ひそひそと話しているのが聞こえる。
小声だけど、俺の耳だとはっきり聞こえちゃうんだよね。
大体俺達のことを警戒している感じだろうか。まあ、エルフしか入ったことがないであろう里にやってきた別種族の人なのだから警戒するのは当然っちゃ当然だけど、随分な言いようである。
「みんな、この人達は私の友達だから、ちょっかいかけちゃだめだからね!」
不穏な雰囲気を感じ取ったのか、サクラもそう言って牽制する。
本当に歓迎されているのかどうか怪しくなってくるが、少なくともサクラだけは歓迎しているようだから別にいいかな。
まあ、ここまでして里に来る必要があったのかどうかという話ではあるけど。
「私の家に案内するね。こっちよ」
サクラはエルフの人込みを分けて、歩いていく。
俺達もその後に続くと、やがて一軒の家へとやってきた。
一応女王というだけあって、家自体は結構立派だ。一人で住むには大きすぎるくらいである。
まあ、もしかしたら護衛とか身の回りの世話をする人とかも一緒に住んでいるかもしれないけど、サクラがそれを必要とするかというと微妙なところだな。
サクラはするすると梯子を上って家に入っていく。俺は面倒だったのでジャンプして直接入ったけど、わざわざ梯子を上るのって大変そうだね。
「それじゃあ、ちょっとみんなと話したいことあるから、しばらく席を外しててくれる?」
「え、し、しかし、私達は……」
「いいからいいから。私の強さは知っているでしょう?」
「うーん……」
家の中には護衛らしき人がいたが、帰ってくるなり席を外してくれというサクラに対して難しい顔をしていた。
恐らく、サクラが飛び出していたってことは、この護衛達はいつもそう言う無理難題を聞かされているんじゃないかと思う。大変だねぇ。
しばらく悩んでいる様子だったが、サクラが手を合わせてお願いすると、折れたのかおずおずと外に出て行った。
去り際に「一時間ほどしたら戻ってきますので、問題を起こさないでくださいね」と釘を刺していたが、やっぱり日常茶飯事なのかね。
「さて、これでゆっくり話せるかな?」
椅子を勧めながら、そう言ってくるサクラ。
まあ、あの時はエルフ達がそばにいたし、話せないこともあっただろう。
【ライフサーチ】で確認してみても、気配は無数にあるものの盗み聞きできる距離ではないし、多分大丈夫だろう。
「うん、まずは久しぶりなの、サクラ」
「久しぶり、アリス。会えて嬉しいよ」
「こっちもなの。なんだか、すぐに見つけられなくて申し訳ないの」
「それは仕方ないって言ったでしょ。それより、確認したいことがあるんだけど」
そう言って体を乗り出すサクラ。
まあ、言いたいことは何となくわかる。
こうしてキャラの姿となってしまったのは、姿がそっくりなのを見る限りすでにわかっていることだろう。
しかし、俺は今でこそ女性の姿だが、中身は男である。
そして、この条件に当てはまるのは俺だけでなく、サクラの中の人、春斗も同じことだ。
今までナチュラルに話していたけど、それは設定ありきのものだろう。
本当の意味で、中の人が同じかどうか、確認する必要がある。
「奇遇なの。私も聞きたいことがあるの」
「やっぱり? それじゃあ、私から聞くけど、アリスってアリス……いや、中の人がいるよね?」
「もちろんなの。その様子だと、サクラも?」
「うん、私はサクラだけどサクラじゃないよ」
これで確認が取れた。
まあ、これはカインの時もそうだったし、特に驚くようなことではない。
問題なのはやはり、性別が変わってしまっていることだろう。
俺の場合はまだ幼い体だからそこまで女性っぽくはないけど、サクラは完全に大人の女性の体だ。
俺以上に体の変化に戸惑ったことだろう。果たしてどんな苦労をしてきたのやら。
俺はようやくある意味での仲間を見つけられたと少し嬉しく思った。
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