第百六十八話:サクラとの再会
突如として乱入してきたサクラ。
ここからエルフを落ち着かせて、一緒に集落に行こうかと思っていたタイミングで、まさかの探していた本人が登場である。
この登場にはこの場にいる誰もが驚き、目を丸くしていた。
「いたた……鼻打った……」
「さ、サクラ様? なぜここに……」
エルフ達が心配そうに手を貸している。
サクラはしばらく鼻をさすっていたが、やがて状況を思い出したのか、はっと顔を上げて俺の方を見た。
「やっぱり! なんか予感がしたからもしかしたらと思ったのよ!」
そう言って俺のことを抱きしめてくる。
サクラの身長はかなり高い。なので、抱き着かれるとちょうど胸のあたりに俺の顔が来て、その巨乳に埋められてしまう。
俺と違って、サクラのキャラは女性らしい女性だ。魅力の値も高いから、並の男だったら魅了されてしまうことだろう。
まあ、俺は今魅力よりも物理的な障害によって息を止められそうになっているけどな!
「サクラ、苦しいの……」
「あ、ごめんなさい。嬉しくってつい」
そう言って解放してくれたが、サクラってこんなキャラだったっけ?
俺はサクラの設定を思い出してみる。
サクラは明るく、いつもカインやシリウスと一緒に冒険ごっこを楽しんでいるような少しやんちゃな性格。正式に冒険者となった後もその性格は変わらず、少し猪突猛進なところはあるが、場を和ませるムードメーカー的な存在だったはずだ。
アリスとの関係に関しては、友達だろうか? 相手から見ると、シリウスは若干先輩として尊敬している部分もあるが、サクラの場合は本当にただの友達って感じだった気がする。
見た目は結構大人だけど、実際の年齢は16歳だし、まだまだ子供ってことなんだろう。
まあ、一番の子供はアリスなんだけどさ。見た目的にも実年齢的にも。
「さ、サクラ様? その者達は一体……」
「ああ、この人達は私の友達よ。だから攻撃しちゃダメ、いい?」
「は、はぁ……」
サクラがとりなしてくれたおかげで、エルフ達は矛を収めてくれたようだ。
それにしても、なんでこんなところにサクラがいるんだろう?
まあ、今から行こうと思っていた里の女王がサクラだって話は聞いていたし、サクラがいること自体は予想通りではあるんだけど、まさかこんな森の中で出会うとは思わなかった。
女王ってそんなに簡単に抜け出してきてもいいの?
「シリウスとカインもいる! 久しぶり!」
「あ、ああ、久しぶりだな」
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「元気は元気だけど、ちょっと大変だったかな。ちょっと聞いてよぉ」
そう言ってこれまでのことを話し始めた。
サクラも俺達と同様気が付いたら見知らぬ森の中にいたらしい。最初は驚いたが、持ち前の前向き精神で持ち直し、森を抜けるべく歩いていたようだ。
しかし、その途中でエルフの里を見つけ、同じエルフになっていたということで、そのまま保護されたんだとか。
それだけだったら、運良く保護されてよかったねで済むんだけど、そこでサクラの魅力の高さが裏目に出た。
里内の男達は皆サクラに魅了され、女達は当初はそれに嫉妬したものの、サクラの明るい性格と高い戦闘力を見て結局魅了され、その流れは里の長にまで及び、サクラを女王にしてはどうかという話が浮かんできたらしい。
元々、この里はエルフの風習に懐疑的だったということもあり、サクラを女王にすることに何の抵抗もなかったようだ。
もちろん、サクラはこれを断ろうとしたが、途中で里の長が天命を迎え、次の長が必要となった。
そこで、前から支持されていたし、また長の最期の願いだったということもあって、サクラは女王の座に収まったということだった。
なんというか、やってんなぁ……。
「みんな酷いんだよ? みんなを探しに行こうとしても出してくれないし、ずっと里に閉じ込められてたんだから」
「でも、今は出てきているようですが?」
「当たり前じゃない。いつまでも閉じこもってるなんて私の性に合わないし」
女王の座に収まった後も、色々とやんちゃしていたようだ。
里のエルフ達はさぞ大変だっただろうな。
まあ、自分達で選んだのだから、それくらいは面倒見てほしいけどね。
さて、こうしてサクラが見つかったのは喜ばしいが、女王となっていたのは本当のことのようだ。
そうなってくると、やはりどうやって連れ出すかが問題になってくる。
「ところで、みんなどうしてここに?」
「あなたを探しに来たんですよ、サクラ。見つかっていないのはあなただけでしたからね」
「そう言えば、みんな揃ってるね。私が最後かぁ。まあ、ずっと閉じこもってたし仕方ないと言えば仕方ないけど」
「それで、一緒に来てもらうことはできますか?」
「うーん、行きたいのは山々だけど、ちょっと難しいかも」
そういって、ちらりとエルフ達の方を見る。
エルフ達は、サクラのことを不安そうな目で見つめている。
サクラのことだから、このままノリと勢いでどこかに行ってしまうんじゃないかと危惧しているのかもしれない。
まあ、そのノリで一緒に来てもらってもいいと言えばいいけれど、流石にそれでは残された里が可哀そうだろう。
どうにかして、サクラがいなくても里が存続する方法を探さなければならない。
「やはり、女王としては離れられませんか」
「そう言うこと。私は女王なんていいって言ってるんだけどね」
「何をおっしゃいます! サクラ様以外にふさわしい女王などおりません!」
「こんな感じだから」
サクラはだいぶエルフ達に慕われているようだ。
この調子だと、無理矢理連れて行ったら報復がきそうで怖い。
「ま、とりあえず里に来てよ。歓迎するからさ」
「まあ、現状を把握することは大事ですからね。行って見ましょうか」
そう言って、サクラはエルフ達に声をかける。
エルフ達は俺達を里に招くことに反対の様子だったが、サクラが自分の友達だというとしばらくして折れてくれた。
あんまり歓迎はされていなさそうだけど、エルフの里に入ることはできそうである。
できれば聖水を分けてほしいところだけど、できるかなぁ……。
まあ、最悪取れなかったらそれでもいい。その時は、確率に頼るとしよう。
「みんな見たらびっくりすると思うよ」
サクラは嬉しそうに先頭を歩く。
エルフの里は、今までほとんど見つけられたことはないらしい。神秘のベールに包まれたエルフの里は、それこそとんでもないお宝を抱え込んでいるという噂が出てくるくらい希少なものだ。
そう考えると、そんな里に入れる俺達は幸運なのかもしれない。
いったい何があるのか楽しみだね。
俺はウキウキと軽い足取りのサクラの後姿を見ながら、エルフの里の姿を想像した。
感想ありがとうございます。
 




