第百六十七話:エルフと遭遇
シリウスが出てきた後、色々突っ込んでみたが、シリウスは頑なに口を開くことはなかった。
それでも、顔を赤くして目をそらしていたから多分そう言うことなんだと思う。
シリウスも意外と可愛いところあるじゃないか。ちょっと嬉しい。
まあ、それはさておき、今日もエルフの里を探して森の中をさまようことになる。
湯船に関しては再び【土魔法】を使ってただの土に戻しておいたけど、一度石にしてしまったせいかかなり硬い土になってしまった。
明らかにここらの土と性質が違うけど、大丈夫だろうか。いや、元は同じ土だし多分大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配だよね。
まあ、もし問題があったとしたらそのうちわかることだろう。その時に対処すればいいよね。
「だんだん魔物が強くなってきましたね」
森の奥地に進むにつれ、魔物が強力になって行く。
まあ、強力と言っても俺達の敵ではないけど、この世界の人達からしたら十分に凶悪な魔物が割とたくさん現れ始めていた。
これ、エルフがわざわざ買い物に出かけて行ったのは、里に商人を迎え入れたくないんじゃなくて、そもそも商人が来られないってことなんじゃないかね。
道らしきものもないし、こんな森の奥までわざわざ出向く商人なんていないだろう。
であれば、もし出向くことができれば迎え入れてくれる可能性も残っているかもしれないね。
「こいつらを相手にできるっていうなら、エルフは結構強いんだろうな」
「魔法においては右に出る者はいないって話ですしね。私としては、そこまでの差は感じませんでしたが」
魔物の強さを『スターダストファンタジー』の強さで置き換えると、恐らく序盤の中ボスか、ボスの取り巻きってところだろうか。
レベル的には、3くらいあればちょうど倒せるくらいの強さだろうか? レベル5であるサクラなら余裕の相手だろう。
でも、買い出しに出かけているのがサクラだけということはないだろうし、同じ里に住んでいる他のエルフ達も同等くらいの強さは持っているということなんじゃないかと思う。
しかし、カインが言うにはエルフの里を調べる過程で見つけたエルフ達はそこまで強いようには感じなかったそうだ。
いや、弱いわけではないと思うけど、少なくともここらの魔物と一対一で出会ったら苦戦するだろうなということらしい。
ということは、今から行くエルフの里の人達は他の里よりも優秀ってことなのかな?
あるいは、外に出たエルフが弱体化したか。
「何はともあれ、そろそろ見つかるんじゃないかと思うの」
結界が張られているからには目視で確認するにはシリウスの力が必要だが、それ以外にも確認する手段はある。
【ライフサーチ】は周囲の生き物の場所を把握することができる。そして、それを見る限り、少し先に数人の反応があるのだ。
多分、件の里のエルフ達だと思う。
結界内まではサーチできないけど、結界の外にいる反応なら拾うことができる。
まあ、魔物って可能性もなくはないけど、一人一人の大きさはそこまで大きくないし、それにここまで群れている魔物はあんまりいないだろう。
ゴブリンのように集団で強さを発揮する魔物もいないわけではないが、この森にはいないようだしね。
「お、あれは……」
しばらくして、大きな荷物を背負ったエルフの集団を発見した。
恐らく、買い出しの帰りなんじゃないかな?
二人ほどが荷物を持っていて、残りの二人が護衛って感じだと思う。
それにしても、あれがエルフか。
『スターダストファンタジー』のエルフの特徴は、平均身長の高さととがった耳だった。そして、魔法が得意という点。
それに加えて、大抵は魅力が高い傾向にあるというのも聞いたことがあるが、目の前にいるエルフはまさにそんな感じだった。
四人とも男性のようだが、皆整った顔立ちをしており、端的に言うとイケメンである。
俺としても、ちょっと心惹かれる顔で、ぜひともお近づきになりたいと思ってしまった。
……あ、いや、俺じゃなくてアリスがな? ああ、もう、ややこしい。
「どうします? このまま接触しますか?」
「んー、まあ、話さないことには始まらないし、とりあえず行ってみるの」
俺はひとまずエルフの集団へと近づく。すると、あちらもこちらに気づいたのか、立ち止まって警戒した様子でこちらを見てきた。
「何者だ」
「ああ、そう警戒しないでほしいの。私達はとあるエルフを探しに来ただけなの」
「エルフを探しに来ただと? 貴様、何が目的だ」
そう言って背中に背負っていた杖を引き抜く。
よくよく考えてみれば、理由をそのまま話したら警戒されるってレベルじゃないよね。
だって、他のエルフの里からこちらの里の女王を連れて来いって言われてるんだから。
同じエルフだったとしても、敵対しているようだし、どう考えても飲むわけにはいかないだろう。
もちろん、俺達は無理矢理連れて行く気はないとはいえ、それがサクラだったとしたらいつかは連れだしたいと思っているし、完全な間違いというわけでもない。
ちょっと失敗したかなぁ。
「そんなに怖い顔しないでほしいの。ただ、そのとあるエルフ、サクラに会いたいだけなの」
「サクラ様が目的か! おのれ、まさか人間の手を借りるとは、何たる外道!」
サクラの名前を出したのがいけなかったのか、他のエルフ達も荷物を置いて戦闘態勢をとる。
どうやらこのエルフ達の里にサクラというエルフがいることは確定したが、素直に会わせてくれる気はなさそうだ。
こんなことなら、このエルフ達の後をつけていった方が楽だったかなぁ。
でも、俺達は別に誘拐をしたいわけではないし、できれば友好的な関係を築きたいと思っている。まずは話し合いをするのは当然のことだろう。
でも、こうなってしまった以上は少し戦わないといけないかもしれない。
「……なんか失敗したの」
「まあ、予想できてたっちゃできてたけどな」
「これはある意味仕方のないことでしょう」
二人はちょっと呆れ顔だ。
おかしいな、ほんとならもっと友好的な感じで、一緒に里に向かうくらいの気持ちでいたんだけど。
人族も歓迎してくれると思っていただけにちょっとショック。
いやまあ、普通に予測できたことだとは思うけどね。
「覚悟しろ、薄汚い犬どもめ!」
「ちょっと心苦しいけど、大人しくして置いてもらうの」
俺は【収納】から石のナイフを取り出して構える。
弓を使えば早いけど、流石に瀕死にさせるのは心苦しいのでナイフで行こう。
【コール・ミカヅキ】で武器を奪うのでもいいが、相手はどうやら魔法を使うようだし、ちょっと奪うには射程が足りないからね。
お互いににらみ合い、じりじりと距離を詰めていく。
ある境界をまたいだと同時に、エルフ達は杖を振り上げた。
しかし、その時……。
「待て待て待ってー!」
そんな声と共に、俺達とエルフ達の間に割って入ってくる者がいた。
ただ、勢いがよすぎたのか、その人物は足を引っかけ、盛大に顔から地面に倒れ込む。
い、いったい何事?
「さ、サクラ様!?」
「え、サクラ?」
わずかに舞った土煙を払って確認してみると、その姿には見覚えがあった。
桃色の髪に綺麗な青い瞳。大きな胸と高い身長は、まさにサクラの姿と酷似していた。
感想ありがとうございます。
 




