第百六十六話:無駄に洗練された技術
とりあえず、レベル一つ上げて【土魔法】を2レベルで取得してみた。
この世界のスキルにはレベルがあり、最大で10まで上げられるようだ。
もちろん、10まで上げられる人なんてかなり稀で、8とかでも化け物と言われるレベルである。
一般的に強いと言われる人だったら5か6、普通に使えるなら3もあれば十分だと思う。
そう言うわけで、とりあえず取得するだけしてみたわけだけど、湯船を作ろうとしてもまあできない。
なんというか、【土魔法】というからには土を操って何かするスキルなんだろうけど、スキルレベル2程度ではせいぜいその辺の地面を少しぼこっとさせる程度のものらしい。
まあ、頑張れば小さい石っぽいものを作って飛ばすこともできるけど、そこまで威力はなさそう。これだったら、同じく石を飛ばすスキルである【ストーンバレット】のほうがずっとましだと思う。
まあでも、これはあくまでスキルレベルが低いからだろう。もう少し上げていけばできるようになるかもしれないね。
「何してんだ?」
「んー、ちょっとお風呂を作ってみようと思ったの」
「は? 風呂を?」
その辺で土をいじくってたのが不思議だったのか、シリウスが話しかけてきた。
まあ、よくよく考えると、野外で裸になるわけだし、もし入るとなれば衝立とかも一緒に作らなければならないだろうからかなーり手間になるしであんまりやる意味もないのかなとも思うけど、こういう森の中だったら人目もないだろうし、あってもいいよなと思わなくもない。
結局、日頃の習慣と入った時のあの気持ちよさが欲しいだけなんだけどね。ただ体を清めるだけだったらそう言うスキルがあるし。
「でも、流石に覚えたてじゃできないみたいなの」
「そりゃそうだ。というか、ほんとにできるのか? 聞いたことないが」
「んー、まあ、やるだけやってみるの」
俺はさらにレベルを上げ、【土魔法】のスキルレベルを4にしてみる。
そうしてみると、さっきまでちょっとしたことしかできなかったのが少し操りやすくなってきた。
やっぱり、スキルレベルが上がるとそのスキルの熟練度が上がるという感じらしい。
この調子だと、レベル8くらいまで上げれば作れるかな?
そう考えると、凄い無駄なことに技術を使ってる感がある。
8なんて、この世界では英雄レベルの熟練度だ。それをお風呂を作るのに使うってどうよ。
「……まあ、深くは考えないの」
お風呂に入りたいのはシリウスやカインだって同じだろうし、全くの無駄にはならないだろう。
使う場面が限られるような気もするが、多分、恐らく、きっと。
そういうわけで、さらにレベルを二つ上げ、【土魔法】を8にする。
試しに湯船を作ろうとして見ると、確かに形を作ることができた。
それに、スキルレベルを8まで上げた影響か、材質も多少ならば変化できるようだ。
具体的には、土から石に変換できた。しかも、きちんと研磨されて滑らかな状態の奴に。
これなら入っても怪我することもないだろう。結構納得できる造りになったんじゃないだろうか?
「すげぇ、まじで作ったよ」
「どんなもんなの」
「でもこれ、持ち運べないよな」
「そこはほら、その都度作るの」
湯船の大きさは俺が足を伸ばして入れるくらい。
カインとかからしたら少し小さいかもしれないが、まあそれくらいはいいだろう。
「お湯はどうするんです?」
「あー、んー、そこも魔法に頼るの?」
幸い、水に関しては【クリエイトウォーター】があるから問題はない。
後はそれを沸かす手段だけど、やっぱり【火魔法】かな?
あるいは、火属性の武器を作れば熱を発するからそれで温めることもできると思う。
ただでさえ【土魔法】で無駄遣いしてるし、そっちはなるべくスキルに頼らない方法でやった方がいいか。
「で、作ったはいいけど、入るのか?」
「入ろうと思うけど、シリウスも入りたいの?」
「そりゃ入りたいけど……お前はそれでいいのか?」
「?」
なんか少し顔を背けているけど、何か問題があるだろうか?
まあ、ここは森の中だし、途中で魔物が乱入しないとも限らないけど、一人ずつ入れば見張りは十分だろうし、問題ないように思えるけどな。
それとも、やっぱり外で裸になるのが恥ずかしいのかな?
確かに、俺も全くの他人に裸を見られるのは恥ずかしいけど、この二人だったらそこまでの抵抗はない。いや、少しは恥ずかしいけど、そこまで気にすることでもないと思う。
まさか襲い掛かってくるわけでもあるまいし。
「……いや、お前がそれでいいならいいよ」
「そう? じゃあ、お先に失礼するの」
俺は少し離れた場所に湯船を設置し、【クリエイトウォーター】で水を流し込んでいく。
今回はカインのフレイムソードを借りるとしよう。多分、言えば貸してくれると思うし。
木で隠れているけれど、一応衝立も作って……ああ、脱衣所も必要か。意外と作るもの多いな。
これ、仮に【土魔法8】がいたとして、ここまで作るのは無理だろうな。絶対途中で魔力が尽きる。
ここまでして作る意味もないだろうし、こんなことしてまで作るのは俺くらいなものだろう。
それだけお風呂が魅力的って話だけどね。
「さて、湯加減はこれくらいでいいの」
カインは快くフレイムソードを渡してくれた。
湯船にフレイムソードを沈めてしばらく待つと、いい感じに温まってくる。
後は入るだけだな。
「ふふ、どんなものなのか楽しみなの」
ある意味念願だったお風呂である。
かなり手間はかかるが、俺ならば魔力は無限にあるし、時間さえあればいつでもお風呂に入れるというのは結構心躍る内容だ。
服を脱ぎ捨て、湯船に体を沈める。
お湯が体を包み込み、体の疲れが洗い流されるような心地よさを感じた。
「最高、なの……」
しばらくお風呂を堪能し、ぽかぽかとした気持ちで出ると、シリウスは少し顔を赤くし、カインは小さく感嘆の声を上げた。
今の俺の格好は普通に冒険者の衣装だけど、髪はしっとりと濡れている。
ちょっと困るのは、兎耳の中が少し湿っていることだろうか。
さっきから耳をぴくぴくとしてるんだけど若干の気持ち悪さがある。
いつもなら雑に指を突っ込んで水を出そうとするところだけど、いつもの場所と違うし、兎耳に指を突っ込むのもなんか怖いのでやるにやれない。
まあ、しばらくしたら水も抜けるでしょう。それまでは大人しく待って居よう。
「どうしたの?」
「あ、いや、何でもない……」
「ふーん? まあ、空いたから入るなら入るといいの」
「お、おう」
そう言いながら、シリウスはおずおずと立ち上がってお風呂の方へ向かっていった。
変なシリウス、一体どうしたのやら。
「アリスさんは無意識に人を魅了しますよね」
「え?」
「まあ、そんなところも素敵だと思いますが」
別に魅了しているつもりはないんだが、そんな風に見えていただろうか?
あれかな、お風呂上がりの女性を前にしてちょっと興奮しちゃった感じ?
確かにアリスは可愛いが、シリウスが女性に興奮する姿を想像できないんだけど。
いやでも、アルマさんとそこそこいい感じになってた気もするし、案外そう言うところあるのかな?
もしそうだとしたら、実にいじりがいがあるネタである。
お風呂から出てきたら試しにカマをかけてみよう。それではっきりするはずだ。
そんなことを考えながら、俺はシリウスが出てくるのを待った。
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