第百六十五話:お風呂が欲しい
アルメリア王国の町で一悶着あったが、その後は特に何か問題が起こることもなく、無事に手紙で示された森へとやってくることができた。
手紙によると、この森の奥地に件のエルフの里があるらしいのだが、果たして本当のことだろうか。
まあ、ここまで来てしまった以上、確認しないことには始まらないので行くけれど、これで嘘だったら少しくらいは文句を言ってもいいかもしれないね。
「エルフの里ってことは、結界があるってことだよな?」
「多分そうなの。そうでなきゃ、森の中で生活なんて到底できないの」
いくらエルフの戦闘力が高いとしても、流石に安全な拠点がなければ森の中で生活などできないだろう。
まあ、森の中に魔物などの脅威が一つもないっていうなら別だが、基本的に魔物は森の中などの人が立ち入らない場所に多く生息しているようだし、十中八九この森にもいることだろう。
そういった脅威から身を守るためにも、結界は必要不可欠のはずだ。
「あいつら、俺達が結界を見れなかったらどうするつもりだったんだろうな」
「うーん……」
言われてみれば、今はシリウスが結界を見ることができるから何とかなっているけど、そうでなければサクラを連れてくるのは不可能だよね。
まあ、手紙を送ったってことは結界を認識していたんだと考えたのかもしれないけど、手紙には結界について何も書かれていなかったし、教える気はなさそうだ。
もしかしたら、場所は本当だけど、見つけられずに戻ってくることを期待しているとか? で、やっぱりエルフ以外は無能だと知らしめるとか。
考えすぎだろうか。別に『スターダストファンタジー』でのエルフはそこまで腹黒じゃないし、何なら人とも友好的な種族だから悪いイメージはないんだけど、手紙であれだけ罵られたからだろうか。
まあ、仮にそう言う目的だったとしても、今回はシリウスがいるし、問題はないけどさ。
「そのサクラがいるという里は、人に対して友好的なんですか?」
「調べた限りでは割と友好的っぽいの。普通に生活必需品を購入してるっぽいし」
外にいるエルフの噂話程度の情報だが、時折近くの町で生活必需品を大量に買っていくエルフがいるという話を聞いたことがある。
それが件の里のエルフかはわからないが、若いエルフだったようだし、場所もこの近くの町だったようだから可能性は高いだろう。
もし、サクラが女王となっているなら古い風習に捕らわれることはないだろうし、普通に便利な生活を望んで購入していてもおかしくはない。
今だって、エルフの風習を破って若いエルフが上に立っているわけだしね。
「だったら、普通に迎え入れてくれるんじゃないですか?」
「うーん、それはわからないけど、不意打ちで襲ってくるとかはなさそうな気がするの」
もし、人と友好的なら里に迎え入れてくれても不思議はないが、買い物は自身が出向いてやっているということは、里に人を入れたくないんじゃないかとも取れる。
それとも、今では普通に商人とかを入れてたりするんだろうか?
いまいち情報の精度が信用ならないから今どうかはよくわからない。
迎え入れてくれるんだったらそれが一番だけど。
「ま、行って見りゃわかるだろ。この辺りなんだろ?」
「そのはずなの」
「もしかしたら、また結晶花が生えてるかもな」
場所は確かに書かれていたが、流石に森の中のどこにあると正確に書かれているわけではない。
この森にあるっていうのがわかっているだけましだけど、見つけるには結構時間がかかりそうだ。
まあ、そこはシリウスの目に頼るか、さっき言ったように結晶花を目印に探すかだな。
「また野宿なの」
「それは仕方ねぇだろ。我慢しな」
「むぅ……」
まあ、野宿が嫌ってわけではないんだけどさ。
確かにお風呂に入れないのは嫌だけど、このメンバーで冒険をするのは普通に楽しいし、それを考えれば多少お風呂に入れないくらいはどうってことはない。
ないんだけど、やっぱり俺の感覚的には毎日入るものだし、欲しいところではある。
後で落ち着いたらそれっぽいスキルがないか調べようとは思ってるんだけど、もう今調べてやろうか。どうせ夜は暇だし。
「今日はここまでですかね」
「あ、もうそんな時間なの」
しばらく森の中を歩いていると、すぐに暗くなってしまった。
つまらないことは長く感じるが、やっぱり仲間と冒険しているというのは俺にとって楽しいことなのかもしれない。楽しい時間は早く過ぎると言うしね。
野営の準備を整えて、焚火を作る。
さて、暇になったしさっそく考えてみようかね。
「えーと、スキルの一覧は、と」
俺はレベルアップ処理から、スキルの一覧を見てみる。
さて、野外でお風呂を作るとなると、何が必要となるだろうか。
一つ考えたのは、この世界特有のスキルである、【土魔法】を取得するという方法。
『スターダストファンタジー』のスキルは、基本的にできることが決まっている。
もちろん、解釈によって色々な使い方ができたりはするが、そう言うのは裏道のようなもので、本来の使い方かと言われると少し違うだろう。
できることが決まっているから、特定のものを作り出すのは難しい。武器作りができる【ブラックスミス】も、武器や防具しか作れないし。
しかし、この世界特有の魔法はイメージによってある程度の柔軟性がある。
アルマさんの魔法を見せてもらったことがあったが、水球を作り出したり、剣のように形を変化させたり、雨のように降り注がせたりと、同じ【水魔法】でも様々な使い方があるように見えた。
であれば、【土魔法】を取得すれば、いい感じに土を形作って湯船の形にできるんじゃないかと思うのだ。
まあ、ただの土では形を作ったところでお風呂としては使えないだろうけど、多分固めることもできるはず。何なら、粘土を使って形を作った後、【火魔法】で焼き固めてもいいだろう。
かなり手間はかかりそうだが、一応湯船を作ることは可能かもしれない。
「問題は、どんな挙動をするのかってことなの」
一応、今までもこの世界特有のスキルである【弓術】やらは取ったことがあるが、あれはまだその技術が上達したというだけで特に何か考える必要はなかった。
でも、魔法となると、消費するための魔力が必要となる。
俺は【無限の魔力】があるからMPは無限だけど、果たしてそれでうまく行くだろうか。
……いや、そう言えばアルマさんも【無限の魔力】を渡したら普通に使いこなしていたな。
なら、大丈夫かな? 仮に【無限の魔力】が無効で魔力を消費するとしても、素のMPでもかなりの量があるから多分大丈夫な気がする。
後問題があるとしたら、本当に【土魔法】で湯船が作れるかって話だけど、それはやって見ないことにはわからない。
何はともあれ、取得してみるのが一番早いか。
「うまく行くといいけど」
俺はうまく行くことを願いながら、レベルアップした。
感想ありがとうございます。
 




