第百六十三話:ワイバーン部隊の来訪
熱烈な歓迎は夜まで続いた。
あれから、後から駆けつけてくる人も多くおり、宿屋は泊っている人は少ないのにいっぱいになってしまった。
夕食の時はもうお祭りかと言わんばかりで、どんちゃん騒ぎが続いていた。
俺やシリウスも、カインの仲間ということで話しかけてくる人も多く、カインのことについて色々聞かれた。
まあ、あんまり話すとぼろが出そうだから詳しくは話さずはぐらかして言ったけど、とにかく疲れる一日だった。
幸いだったのは、カインへの感謝の気持ちなのか、お代が無料だったことと、お風呂がきちんとあったことだろうか。
人が集まっていたおかげで熱気も凄く、汗も結構かいていたので正直入れなかったらどうしようかと思っていたところだ。
もちろん、俺は一人で入りましたとも。泊っている人自体は少なかったので、貸し切りにするのは簡単だった。
そんなこんなで夕食も終えて、押しかけてきていた人々も帰り、ようやく静かな時間がやってくる。
部屋に関しては一部屋にしてもらった。
そこまで泊ってないということで、男女で分けてもよかったのだけど、俺は気持ち的には男だし、今更二人が何かしてくるということもないのはわかり切っている。
というか、来てくれるならそれはそれで……いや、何でもない。
「大変だったな」
「疲れたの……」
俺はぐでっと椅子に腰かける。
別に、騒がしいのは嫌いではないけど、この体になったせいか、うるさいのが少し苦手になってしまった。
なにせ、耳がいいものだから音がより大きく聞こえる。普通の状態でもうるさいのに、さらに耳のいい状態だったらそりゃ気にもなるだろう。
我慢できないほどではないが、何というか、重低音の音楽を聴かされている時のような体の疼きを感じた。
兎獣人の前であんまりうるさくしないでほしいものだ。
「お疲れ様です。すいません、私のせいで」
「いや、気にしなくていいの。それだけカインが慕われているってことなの」
うるさくはあったが、それだけカインが慕われているってことでもあるし、そう言う点では悪い気はしない。
明日出発すると言ったら、大抵の人は別れを惜しんでくれたし、子供達に至っては「行っちゃヤダ!」と抱き着いてくるほどだった。
なんというか、思ったよりはすんなり別れられそうで少しほっとしている。
もちろん、子供達はぐずるだろうが、大人達が諭してくれることだろう。
生きてさえいれば、いつかまた会える。軍人として、いついなくなるかもわからないのはよくあることらしいからね。大人はそれを理解してるってことなんだろう。
とにかく、明日は朝から出発する。リーリス王国まではまだそれなりにかかるからね。
「にしても、こんなに騒がれて大丈夫か?」
「何がなの?」
「ほら、カインは一応この国を裏切ったわけだろ? 軍の奴らに知れたら面倒なんじゃないか?」
「ああ、確かに」
一応、カインは捕虜という立場から正式にヘスティア王国の将軍として迎え入れたわけだけど、他の帰した捕虜からしたら、カインは裏切り者である。
特に、同じワイバーン部隊にいた兵士からしたら、目の前で指揮官を裏切っているところを見ているわけだし、余計にその感情が強いだろう。
カインは国を裏切って敵国についた。そして今、仲間を引き連れて国にのこのこと戻ってきている。
一応、カインの引き抜きは国同士で決めたことだし、何か言われる理由はないけれど、裏切り自体は重罪だろうし、アルメリア王国軍部としてはカインを許すことはないだろう。
確かに見つかったら面倒かもしれないね。
「多分、知られてるなら既に知られていてもおかしくないの」
「どうする? 乗り込んで来たら」
「まあ、その時はさっさと逃げるの。ぐっすり眠れないのは残念だけど」
返り討ちにしてもいいが、裏切ったのがカインなのは間違いないし、そう言う意味ではあまり強く出られない。
向こうが殺そうとしてくるのなら、事を荒立てないようにさっさと逃げるのが一番だろう。
まあ、来ないのが一番だけどね。
「とりあえず、今日は寝ましょうか。寝られるうちに寝ておきましょう」
「それもそうなの」
一応、奇襲に備えて聞き耳は立てておくが、来ない可能性もあるしさっさと寝ておいた方がいいだろう。
俺は明かりを消し、ベッドに潜り込む。
せっかく宿屋のベッドで寝ているのに野宿と変わらない装備で寝るのが少し残念だけど、仕方ないよね。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
翌日。来るだろうなぁと思っていた襲撃は特になく、無事に朝を迎えることができた。
まあ、来ない分にはありがたいんだけど、ちょっと拍子抜けだな?
話が伝わってなかったのか、それとも意図的に来なかったのか、どちらなのか気になるところだ。
「みんなおはようなの」
「おう、おはようさん」
「おはようございます」
みんな気を張っていたせいか、そこまで深くは眠れなかったようだが、約一週間ぶりのベッドは割と心地よかったのか、結構顔色は良さそうである。
さて、朝御飯でも食べようか。特にルールは聞いてないけど、食堂に行けばいいのかな?
「カインさん、起きてらっしゃいますか?」
そう思っていると、扉がノックされた。
扉の向こうにいるのはどうやら宿屋の女性らしい。起こしに来てくれたのかな?
「はい、起きてますよ」
「ああ、おはようございます。ワイバーン部隊の方々がお見えになっていますよ」
「おや」
ワイバーン部隊、つまり、カインの元同僚である。
やはり、話を聞きつけていたか。わざわざ来たということは、カインを捕まえて罰を与えに来たってことだろうか?
さっさと逃げることもできるが、すでに女性はここにカインがいることを伝えてしまっているらしい。
まあ、カインが裏切ったなんて知らないだろうし、普通に知らせるだろうな。
ここで逃げてしまうと、宿屋に迷惑が掛かってしまう。ここは一回会ってから、宿屋は無関係だということを示した方がいいかもしれない。
どうせ去るなら気持ちよく去りたいからね。
俺はカインに目配せすると、カインは承知したと言わんばかりに頷いた。
「わかりました。今行きますから、食堂で待っていてくれませんか?」
「わかりました。そう伝えておきますね」
荷物をまとめ、もしもの時のために逃げ道を確認しておく。
さて、どうなることやら。
「来たか」
食堂へと降りていくと、数人の兵士が待ち構えていた。
と言っても、完全武装というわけではない。鎧も着ていないし、武器も短めの剣を持っているだけだ。
カインを捕まえに来たわけではないんだろうか?
「カイン、久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「元気、とは言い難いかもな。誰かさんのせいでワイバーンが全滅しちまったからな」
「アハハ、それは申し訳ないですね」
兵士の一人がラフな感じで話しかけてくる。
敵意も感じないし、割と友好的なのかもしれない?
【ライフサーチ】で探ってみたが、外で大量の兵士が待ち構えているということもないようだし、単純に話をしに来ただけと考えてもよさそうだ。
とはいえ、油断はしてはいけないけどね。俺はいつでも弓を出せるようにしながら注意深く話を聞くことにした。
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