第百六十一話:アルメリア王国
数日かけて、森を抜けてアルメリア王国へとやってきた。
森の中は結構いろんなものを採取できる。
結界の近くにあった結晶花なんかはかなりレアだと思うが、そうでなくても野草や木の実など、役に立つものは色々あった。
特に、マンドレイクがあったのはよかった。
以前作ったエリクサーの素材の一つ。これがあれば、またエリクサーを作ることもできるだろう。
まあ、それが必要になる場面がいつくるかという話だが、またイベント系の状態異常の人が出てくるかもわからないし、役に立つ可能性は無きにしも非ずだ。
さて、そんなこんなでアルメリア王国だが、この国の特徴は、魔物を懐柔して味方に付けようとしている点。
先の戦争ではワイバーン部隊が厄介な存在だったが、どうやら今も色々な魔物のテイムを行っているようである。
町をちょっと覗いただけでも、魔物を売っている店があったし、この国ではそれらは割とありふれたものなんだろう。ペットから軍事利用まで幅広くって感じだろうか。
まあ、この世界の人々と比べると、雑魚の魔物でも割と強いし、それを手懐けることができればそりゃ強い戦力になる。
いったいどうやって手懐けているのか気になるところだけど、カインは何か知ってるかな?
「いえ、私は知りませんね。私はただ、ワイバーン部隊に配属されただけで、詳しくは知りませんから」
「そう」
カインなら知っているかもと思ったけど、どうやら知らないらしい。
というか、カインが知らないってことは、初めからある程度言うことを聞いてくれる状態だったってことだよね。
洗脳でもしてるのか? 確かに雑魚の魔物に耐性なんてないから普通に通るとは思うけど、そんなスキルがあると思うと少し怖い気がする。
俺は【状態異常無効】があるからそこまで怖くはないけど、シリウス達はそれは持っていないし、回復する手段は身に着けておいた方がいいかもしれない。
あるいは、装備で何とかできればいいんだけど、果たしてこの世界にそんな装備があるかどうか。
もしなかったら、【ウェポンコーディネート】と【エンチャントウェポン】で作り出してもいいかもしれない。ちょうど【ブラックスミス】で取得したし。
「気になるなら調べてきましょうか?」
「できるの?」
「指揮官とはお別れしましたが、同僚から話を聞くくらいはできるかと」
いや、流石に上司を目の前で裏切っておいてそれは無理なんじゃないかなぁ……。
というか、カインの同僚であるワイバーン部隊は帰還して間もないし、カインが知らないなら同僚も知らないような気がする。
これは恐らく、上層部の秘密のようなものだろう。無理に調べる必要もないし、ここは捨て置くのが無難な気がする。
「……いや、いいの。それより、先を急ぐの」
「わかりました」
「あ、でも、カインが個人的に会いたい人がいるっていうなら寄り道してもいいの」
よくよく考えると、カインは突然裏切ってここに来たわけだし、残してきたものもあるかもしれない。
流石に結婚とかはしてないだろうが、親しい人くらいはいるかもしれないしね。
せっかくここまで来たのだから、少しくらいは配慮してもいいだろう。
「うーん、特に思いつきませんが……」
「ほんとに?」
「はい。私が慕うのはアリスさんと仲間達だけ。同僚はあくまで同僚ですから」
なんか凄いドライ。
まあ、それがカインのいいところなのかもしれないけど、もし俺が突き放される立場だったらちょっとへこむな……。
ま、会いたくないっていうなら無理に会う必要もないだろう。ここはさっさと移動してしまった方が吉だ。
「あ、カイン兄ちゃん!」
「ん?」
今日一日は宿屋に泊って、明日に出発しようかと思っていたら、不意に声をかけられた。
振り向いてみると、そこにいたのは10歳くらいの少年。
どうやらカインのことを知っているようだけど、知り合いか何か?
「ああ、君ですか。お久しぶりですね」
「やっと帰ってきたんだね! カイン兄ちゃんだけ戻らないから心配してたんだ!」
そう言って抱き着いてくる少年。
カインはそれをそっと抱き留め、頭を撫でている。
「今までどこにいたの? ヘスティアの奴らに嫌なことされなかった?」
「いえ、なにもされていませんよ。心配をかけましたね」
「……カイン、誰なの?」
「カイン兄ちゃん、この人達は?」
俺と少年が同じような質問をしたところで、カインは簡単に説明する。
と言っても、俺がヘスティア王国の王様だということは明かさない。単純に、昔のパーティメンバーだってことくらいだ。
まあ、敵国の王様がやってきたとなれば少年だって警戒するだろうし、ここは妥当な選択だろう。
少年は俺のことをちらりと見たが、すぐにカインの方へと視線を戻した。
「カイン兄ちゃんが戻ってきてくれたならそれでいいや!」
「ええ、ありがとうございます。でも、私はまた行かなければいけないところがあるんですよ」
「え……」
少年の顔が曇る。
まあ、このままここに留まって少年にとってのハッピーエンドってわけにはいかないしね。
カインは俺の仲間だし、悪いが上げるわけにはいかない。
「また行っちゃうの……?」
「はい。でも悲しむ必要はありませんよ。ただ一人の兵士がいなくなるだけですから」
「カイン兄ちゃんの代わりなんて誰もいないよ!」
そう言ってひしっと抱き着く少年。
いったいカインはこの町で何をやっていたんだろうか。だいぶ慕われている様子だけど。
なんかいい感じになってるし、あんまり口を挟むのはどうかと思うけど、気になる。
「明日まではいますから、それで我慢してください」
「い、いつ戻ってくるの? 教えて!」
「さあ、いつになるでしょう。一か月先か、一年先か、はたまたもっと……」
「カイン兄ちゃん!」
ぽろぽろと涙を流す少年に流石にカインも失言だと思ったのか、しゃがんで目線を合わせ、優しく頭を撫でた。
「実を言うと、私は念願だった夢を叶えたんです。それを維持するためにも、ここを離れるのは仕方がないことなんですよ」
「カイン兄ちゃんの、夢?」
「はい。話したことはありましたっけ?」
「うん。カイン兄ちゃんの尊敬する人の話」
もしかして、それってアリスのことか?
カインはどうやら自分の尊敬する人、つまりアリスのことを少年に話していたらしい。
今は離れ離れになってしまったけど、いつか必ず会えると信じている。そんなことを話していたようだ。
その夢が叶ったということは、カインはその人と共に行くことを選んだんだろう。少年にも、そのことは伝わったようで、悲し気に目を伏せたものの、すぐに無理矢理笑顔を作り出した。
「……そっか。それなら、仕方ないよね……」
「大丈夫。今生の別れというわけではありません、また会えますよ」
「ほんとに?」
「ええ、きっと」
「なら、約束だよ」
「ええ、約束です」
カインが頷くと、少年はようやくカインから離れた。
「でも、せっかく帰ってきたんだから、みんなにも会ってあげて。みんな、カイン兄ちゃんのこと心配してたから」
「わかりました。そう言えば、君の家は宿屋でしたね。そこに一晩泊めていただけませんか?」
「もちろん! 伝えてくるね!」
そう言って、少年は走り去っていった。
なんというか、子供に好かれる姿が様になっていて、ちょっと惚れ直しそうになった。
まあ、アリスの感情抜きにしても、カインはかっこいいと思うけどね。
「とりあえず、今日はカインの旧交を温める日にするの」
「すいません。ありがとうございます」
「ここで先を急ぐほど鬼じゃないの」
面倒事を嫌うならさっさと出発するのも手だが、まあそこまで急ぐ必要もない。
早めに城に戻らなければならないという縛りはあるが、多少のアクシデントはつきものだし、一日や二日ずれても問題ないだろう。
俺は去っていく少年の後姿を見ながら、カインが今までどんな生活をしてきたのかを考えた。
感想ありがとうございます。
 




